元クラスメイトといじめっ子の帰郷

 エリシアを失った俺は思っていたよりとメンタルが傷ついていたらしく、数日間何も手につかない状態だった。

 後悔は勿論沢山ある。

 1番はエリシアを1人にしてしまったことだ。

 これから先、俺がやるべきことはもう決まっている。

 だが少し休んでもいいのではないか。

 そんな甘い誘惑が俺の頭をよぎる。


『いいわけないじゃろうて』


 不意に頭に聞き慣れた声が響く。

 この声はヨルか。


「どういうことだ? 俺は今回の一件で少し休憩をしたいだけだ。お前だって傍観者を気取るなら見ていたはずだが」

『見ていたとも。ただそんなものでお前の正義は、復讐心は決意は崩れるものなのか?』

「そんなものだと? お前はお前達は人の心をなんだと思ってるんだ!」

『ははは! 人類の虐殺を繰り返している零がそれを言うか。いいか? 勇者に休息はないんじゃ』

「……お前達は俺の調べた通り悪魔だな」

『なんとでも呼べばよい。その悪魔の手を取ったのはお前じゃ。ここでお前が止めると言うのなら意識を刈り取り乗っ取ることもできるがどうする?』

「いやこれは俺の復讐だ。お前達には委ねられない」


 俺がはっきりそう告げるとヨルは心底つまらなさそうに闇へと消えていった。


 ◆◆◆


 俺は王都へと再びやってきた。

 前回の顔は施設を襲撃したことでバレている。

 今回もまた違う顔を用意した。

 幸い今回もバレることはなく、進入には成功する。

 今回の目的はクラスメイト全員の殺害及び、勇者学校の破壊だ。

 勇者学校には特殊なプロテクトがかけられているがその辺はどうとでもなる。

 なんせ俺は元勇者学校の生徒だ。

 どういう原理かぐらいは授業で学んでいる。

 クラスメイト全員が教室に揃っていなくても王都中を探し出してでも殺す。

 俺はそんな決心して勇者学校へと向かった。


 ◆◆◆


 勇者学校へ来るのは随分と久しぶりに感じる。

 前回王都へ調べ物に来た際も特に寄ることはなかった。

 別に用事があるわけでもなかった事に加え、この周りは住居すらない。

 衛兵に見つかった時の言い訳がとても考えにくい場所でもあるからだ。

 だが今回は目的があり、尚且つ闇属性魔法の《隠れ身ハイド》を使用しているので見つかる可能性もかなり低い。

 俺は堂々と正面玄関から勇者学校へと侵入する。

 入り口の対侵入者用の結界は俺の学生だった時のデータが幸い破棄されていなかったらしく、機能しなかった。

 俺は真っ先に元クラスメイト達の元へと駆け出す。


 ◆◆◆


 教室を覗き、衝動で扉を開けようとした俺は踏みとどまる。

 いかに勇者のスキルを持っているといえどこれだけの勇者候補を真正面から全てを相手にするのは不可能だ。

 俺は闇属性魔法の詠唱に入る。

 気配察知に長けている奴がいたとしてもまだ俺の姿は捉えられないはずだ。


「世界破壊せし闇の力よ。彼の者共に催眠と拘束を」


拘束の催眠バインドアクター


 教室を覗くと全員がうつらうつらした状態で拘束されていた。

 初めて使う魔法だったが存外うまくいくものだ。

 催眠状態にした元クラスメイト達に目が覚めたら全員が魔族に見え敵は必ず殺すように暗示をかけておく。

 これで後は建物を壊すだけだけ。

 そう思っているとアレンとその金魚の糞が見当たらないことに気がつく。

 俺は催眠状態のダカールへ行き先を聞いた。


「あいつらどこへいったんだ?」

「彼らは生まれ育った町近辺へと討伐へ出かけています。数週間は帰ってくるのにかかるかと」

「そうか。でお前は自分の村の惨状を知ったか?」

「はい。とても悲しいことだと思いました。犯人には死を持って償ってもらいたい」

「そうか。それが聞けたなら俺は満足だ。死ね」


 そう言うとダカールは自らの腕で自分の首を絞め死んだ。

 俺は思わずニヤつく。

 図らずしてあいつらは故郷の惨状を知り、心が傷つきながら帰ってくると母校と愛しい仲間達は全員死に絶えている。

 あいつらに相応しい罰だ。


 ◆◆◆


 学校の破壊には土属性魔法と水属性魔法の混合魔法を使う。

 火属性魔法では建物の耐久度が高すぎて壊すことが困難だからだ。


「全てを還せし土と全てを流せし水よ。我の力に応え全てを壊せ」


土と水の月ウォーターサンドムーン


 ガラガラと音を立てて校舎が崩れていく。

 これで仮にクラスメイトが殺し合って生き残りがいたとしてもそのまま生き埋めだろう。

 数年通った学校ではあったが後悔は全くない。

 それどころか不思議と心は晴れている。

 とりあえずの目標を成し遂げた俺はアレンと金魚の糞を待つ為に王都に宿を取ることにした。


 ◆◆◆



「なんだこれ……。母さんと父さんは無事なのか!?」

「そんなのわからないよ!」


 俺ことアレンは実家近くの魔物討伐を終え、久しぶりに故郷の町を訪ねた。

 親に顔を見せておきたかったのもあるがこの町の料理が数年王都にいると恋しくなっていたのだ。

 ただそれだけの予定だったはずなのに町へ足を踏み入れた俺達は絶句した。

 街の人間全てがアンデッドと化していたから。

 それだけに留まらず何故か街全体が異様に暗い。 

 まるでそこにいるだけで何かに蝕まれるような感覚だ。


「アレンここに長時間いるのはまずい気がする!」

「僕もそうと思うがせめて両親の無事だけでも……」

「この瘴気の中だと無理だ! 引き返すぞ!」

「でも!」

「でもじゃない! お前までアンデッドにされるぞ」

「わかった……。でも絶対救出隊を連れてくるからな!」


 何が何やらわからないうちに故郷が滅んでいた。 

 恐らく両親だって生きてはいないだろう。

 そうは分かりながらも叫ぶことしかできなかった俺は自分の無力さを呪った。



———

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