rewrite extends 恋心
第1話 同期
自分が女性しか愛せないことを自覚したのは高校生の頃だった。共学の高校に通っていたもののわたしが惹かれるのは女性ばかりで、一時期はそれにどう向かえばよいのかを悩み、大学では心理学を専攻するまで思い詰めていたりもした。
ただ、どんなに悩んでも女性しか愛せない自分は、どうやってもそこにしか向かないのだと受け入れられるようになって、長続きはしなかったけど女性の恋人を持ったこともあった。本気で好きだったかと言うとそこまでではなかったのかもしれないものの、女性同士の体の接し方を覚えたのは確かだった。
とはいえ自分はマイノリティで、女性が多い場所で働くのは辛いかもしれないと、大学卒業後の就職先としてわたしは敢えて女性が比較的少ないIT業界を選んだ。
それなのに入社したその日に一人の女性に恋に落ちることになる。
背は158センチのわたしより拳一つ分高くて、心持ち茶色よりの黒髪は肩より少し長めで、少し癖が混ざっているのか柔らかくてつい手を伸ばしたくなった。
一方で化粧はあまり得意でないらしくて、必要最低限を肌に乗せた感じで、せっかく一つ一つのパーツが整っているのに、逆に化粧によって目立たなくさせているような気すらした。もったいない、と一目で思い、その後に声を掛けられた時には、既に心を奪われていた。
どうしよう。本気で欲しい。
今までにも恋をしたことはもちろんあった。でも、瞬間で自分のものにしたいとまで思った存在は初めてだった。
その後、同じ拠点に配属された同期としてわたしと維花は一番身近な存在になった。
流石にいきなり襲うような嗜好はわたしにはなく、単純に好きな相手と接していられるだけで幸せだった。
研修を終えた後も、お互い気軽な一人暮らしということもあって、維花とは仕事の相談をしがてらプライベートでも毎週のように顔を合わせるようになった。
「もう仕事なんかしたくない」
「はいはい」
毎日終業時間が22時を回りストレスがMAXだという維花にその日は飲みに誘われ、会社帰りにターミナル駅の地下の居酒屋で二人で向かいあって維花の愚痴を聞いていた。
少し疲れの色が表情に出ている維花は、それだけでいつも以上に色気があってわたし的には辛いところはあったものの、流石に親友の信頼を失うほどはまだ説破詰まっていないつもりだった。
「適当な設計書のせいで、なんでこっちが悪いみたいに言われないといけないのよ!」
維花から聞いた話を纏めると、維花はできのよろしくない設計書と格闘しながらもプログラムを仕上げたものの、結局設計する側の考えが足りていなかったために問題が多発し、残業続きになっているらしい。
多かれ少なかれ人のスキルによる品質落差が激しいのはいつものことで、これ系の人災は常だった。
「維花、ほら今日はそういうのは忘れて飲もう?」
一目惚れした維花の整った顔が目の前にあって、そのまま唇にキスしたい欲求に苛まれたけど、もちろんそんなことはできない。
維花はわたしに対して無防備なので襲ってしまうのはそう難しいことでないだろうと思っている。ただ、体を手に入れても維花の心を手に入れられるかどうかは別問題だった。
維花は過去に男性とつき合っていたことはあるとは聞いているので、維花にとっての恋愛対象は男性でしかないだろう。そんな存在が女性を簡単に受け入れられるかと言えばそうでもない。
監禁して自分しか見ないようにすれば維花は自分のものにできるかもしれないが、今の維花との関係性を、同期としての信頼を失いたくないという思いも同時にわたしは持ち合わせている。
叶野唯花という存在がわたしの中で掛け替えがなさすぎて、進むことへの積極性よりも、無くすことへの恐怖の方が強かった。維花が自分に笑ってくれなくなるようなことになれば、自分は死んでしまうとさえ思っていた。
「
「維花と同じタイミングでおかわりしてるでしょう。ザルなのわたしは」
「えー、藍理ずるい」
「ずるくない。自分の酒量くらい覚えなさいって言ったでしょう?」
何度目かわからない台詞を維花に吐く。維花には放っておけない危なっかしさがある。それを曝け出してくれるのはわたしをそれだけ信頼してくれるからこそだとは思っているものの、維花が求めるものとわたしが求めるものが違うことは明らかだった。
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