第5話 告白

どうやって告白しようかと悩んでいたなつきの元に舞い込んだその話に、告白するのであればその日しかないだろうと決心をする。


三坂は契約終了でなつきのいる会社を近々去ることになる。その送別会を今三坂が関わっている部門と以前関わり合いのあったなつきのいる部門合同で開催することになり、もちろんなつきはそれに参加していた。


ただ15人以上はいるだろうその宴会の中で、二人でじっくり話をするなど難しく、狙い目はお開きになって帰宅する時だろうと予め考えていた。


2次会なのか3次会なのかはわからないが、その時を酒も飲まずになつきはじっと待った。


流石に今日は以前のような失敗を、もうするわけにはいかない。


幸い2次会で三坂は離脱するようで、いつもの川沿いの喫煙場所に一人で向かっていた。一服してから電車に乗ろうとしているのだろうと、なつきは後を追い三坂に声を掛ける。


「三坂さん」


流石に終電が近い時間に人気はなく、街灯の光が三坂の姿だけを照らしている。


「今日は寝なかったんですね、高埜さん」


「今日は一滴も飲んでません」


「そこまでしなくても、自分の限界の酒量を掴むといいですよ」


三坂は酔っ払って失敗したことを悔いて一滴も飲まなかったのだと解釈をしたようだった。ただ、その訂正はなつきにはもはやどうでもいいことだった。


「三坂さん、もう戻って来られることはないんですよね?」


「長い目で見るとゼロではないかもしれませんけど、次の仕事も長くなりそうなので、もうお会いすることはないと思います」


「…………今まで有り難うございました。三坂さんがいてくれたお陰で、私はすごく成長できたと思っています」


まずは今までのお礼をなつきは述べる。この後告げようとしていることは置いておいて、三坂には何度も相談に乗って貰い感謝はあった。


「わたしも高埜さんにすごく鍛えられましたよ。法律なんか全然わからなかったのに、容赦なかったですよね」


「すみません」


「高埜さんはそれでいいと思っていますよ。それが高埜さんの仕事なので、謝る必要はないです」


会社は違っても、三坂はなつきのことを後輩のように導こうとしてくれていたのだとは気づいていた。それに素直に感謝はあるが、今日伝えたいことはそれではなかった。


少しだけ決意をするための間を置き、なつきは口を開く。


「三坂さんとこれからも会いたいです」


「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、わたしは高埜さんの会社の社員じゃないので」


「そうではなくて、三坂さん、私と個人的なおつきあいをしていただけないでしょうか?」


思いもしていなかった言葉なのだろう。三坂の手から火が点いたままの煙草が落ちる。


「タイプじゃないですか?」


「考えたことなかったので。すみません。本当に高埜さんは後輩くらいにしか思っていなくて……」


三坂は一度近づこうとしたなつきを拒否している。自分が女性しか愛せないことを打ち明けた上で、仕事では切り離したいという意思を聞いてはいた。


それでも、その理由だけで諦められなかったからこそ、なつきは今ここに立っているのだ。


「三坂さんが忙しいのも知ってます。好みの女性じゃないかもしれませんが、頑張って三坂さんの好みの女性になるように努力します。だからつき合ってください。お願いします」


「高埜さん、女性が女性を相手に選ぶことは簡単なことじゃないですよ。何にも守られるものがない、不安定な関係を続けて行くしかないし、女性としての幸せの大部分を放棄することになる。だから、わたしみたいなどうしても女性じゃなければ駄目って人じゃないと、正直その道は思いとどまるべきだって思っています」


それは三坂の経験からくる正論なのだろう。だが、なつきの中でそんなことはどうでも良かった。


「ありがとうございます。気持ちだけ貰っておきます」


「……いやです。わたしは、三坂さんが、いいです。三坂さんともっと一緒にいたいです……」


喉の奥から震える声を絞り出し、三坂に意思を伝える。


「困ったな……」


「全部自分の責任でやります。だから駄目ですか?」


「高埜さん、わたしは酷い女ですよ。恋人がいても長続きした試しがない。快楽を求めるだけでいいと刹那的に関係を繋いだ人もいます。仕事に対してはそれなりに真面目に取り組んでいますが、プライベートは何するかわからない女です。それでもいいんですか?」


「構いません。私に三坂さんのプライベートに踏み込ませてください」


どう言っても引こうとしないなつきに、三坂は溜息交じりに始めるだけなら始めてみてもいいと応じてくれた。

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