第二章 アイルーロスは運ぶ。駅に向かって
僕はアイルーロスの背に乗り、北へ北へと走り続けた。その間アイルーロスはしきりに僕に向かって「僕は猫だ。猫は乗り物じゃないんだぞ。全く人間の横暴さここに極まれり。」とカレコレ4回以上、まるで赤い旗を掲げた知識人のように、あるいは巨大な後援会を持つ政治家のように僕に向かって熱弁した。でも僕はそれを無視した。それは正に完膚無きままに無視をした。まるで
これで五回目。
荷台に乗っている猫は「にゃー」と大きな欠伸をして眠っている。それは、それはしとどとなった洗濯物のようだった。
名は体を表す。例えばゴリアテ。まさに巨人のような響きだ。しかしそれがどうして万物に値するというのだろう。人々は期待を込めて、または個の収受の為に、または記号として名前を与える。そこには確証はない。何故なら名前とは効力を持たないおまじないでしかないという前提条件が含まれているからだ。だから仮に、津島修二だろうが太宰治だろうが津島メロスだろうが、結局この人間は小説を書くのが嫌になって死ぬのだ。その運命から逃げ出すことは出来ない。しかし、だからと言ってアイルーロスが猫ではないとは言い切れないのも事実である。そこには悶々としなければならないこだわりのようなものがあり、名は体を表すという言葉もある。
あるいはこれが啓示だとしたら。「僕は猫だ。猫は乗り物じゃないんだぞ。全く人間の横暴さここに極まれり。」これが啓示だとしたら。
僕は不平を淡々と列ねるアイルーロスの背に乗り、ただただ
僕は廃墟となった祖母の家にアイルーロスを引っ張りながら向かった。家は二年前と構図は変えることなく、二年分消耗していた。
白かった壁は薄茶色に、縁側とその庭は様々な濃淡を持つ苔が彩りを加えていた。(とてもアバンギャルドな方法で)そして窓やガラスは浜辺に転がるペットボトルのようにその透明さを失っており、その反面、不透明さが作り出す、幾何学模様を映し出していた。そしてこの家は田舎の家の大半がそうであるようにのっぺりとした平たさと、平面的な大きさを持っていた。
僕はここが目的地ではないということを直感していたが、同時にここは必要な場所だと理解した。だから僕はここを自由から解放し、
アイルーロスはここをあまり好まないようだったが、猫はここを気に入った。
アイルーロスは「ここは人間の栄華の象徴である。」といい、猫は「ここは私の塒として十分」といった。僕はただ聞いていただけだった。
それから、僕はキングサイズのベッドに飛び込み寝た。むさぼるように寝た。次に僕が起きた時、世界の地軸は極めて軽微に傾き、時計の長針は四周していた。
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