第一章 始まりはベルの鐘、終わりは二酸化炭素
リリリリリ。電話の音が鳴り響いている。僕はその電話の鳴き声の声色によってどんな内容の電話なのか分かる。今回の電話は、3割悲痛、7割享楽といったところか。ならば出た方がいい。僕は基本的に10割逃避の電話には出ない。なぜならねじることすらも出来ないから。いつまでも平行のままだから。平行というのは素晴らしい。
今回の電話は3対7。いい塩梅だ。ガチャ。
「ここは2020年かい?」
僕はこの声を知らないが知っている。デジャブ。
「そうです。ここは2020年です。それ以上でも以下でもない。ましてや2050年なんかじゃない。」
―少しの沈黙―
「そうか、じゃあ地球は青かった」 ガガーリン?
「そうか、じゃあ地球は青かった」鸚鵡返し。
ツーツーツー 電話は切れてしまった。やっぱり7割享楽、3割悲痛みたいだ。こんな電話は日常茶飯事。いつものように忘れてしまうと思ったが、結局この電話の内容をその日中ずっと反芻し、忘れることはなかった。これは啓示のようだ。
僕はその瞬間、やるべきことを再定義した。そう再定義、世間ではこれを軌道修正という。
必要な物は携帯電話、よく使う。そして複数日分の衣類。そして今まで貯めてきた金。そして本、世界を記述した。そしてある機械。世界を旅するための。世間ではこれを四時限三輪車というらしい。
ドラえもんの秘密道具。僕が持っていちゃ、秘密にもならないな。ハハハ。
これに乗るのは正直に言うと少し恥ずかしい。僕はもう一九歳だから。
勿論、僕の部屋の机はタイムマシンがある。未来にしか進めない一方通行の。アインシュタインの仮説には反証しない。所詮現実の出来事。いや光の速さの時点で、非現実なのかもしれない。しかしこれが現実。
現実など存在しない、あるのは主観のみである。僕の言葉。
事実など存在しない、あるのは解釈だけである。ニーチェの言葉。
僕はもう一九歳なのだ。そして啓示だ。僕は変わらなければならない。ここからまずは去らなければならない。リフレイン。
僕は急いで四次元三輪車の整備を終わらせるそして四次元三輪車に林檎を与えた。三輪車はペロリという擬音語と共に林檎を平らげた。
それから僕は三輪車に「αἴλουρος」という名前を付けた。古代ギリシア語で猫という意味らしい。辞書で読んだ。読み方は、アイルーロス。
林檎を平らげたアイルーロスは最早ドラえもんの道具からは逸脱した存在になっていた。これが、改良というやつらしい。
僕はアイルーロスと共に荷物をまとめて、出発をしようとした。しかし出発する前に僕には一つだけ心残りがあったのでそれを終わらせる必要があった。
僕は電話線を鋏で切り、それから猫をアイルーロスの荷台に乗せた。これで準備は万端だ。
アイルーロスの荷台には「携帯電話、よく使う。そして複数日分の衣類。そして今まで貯めてきた金。そして本、世界を記述した」を載せ、その上にはまるでこの世のすべてを統べるかのような佇まいの猫がちょこんと乗っていた。
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