いつも静かな貴方が声も抑えず子供みたいに泣いたから
飾氷夏(かざりひょうか)はとても静かな女の子だった。どんな時でも常に凛とした表情をしていた。
それは静か、クールと言うよりは氷のような冷たさを感じさせるほどに。
しかし、彼女は決してクラスで疎まれる存在ではなかった。どちらかと言うとファンクラブが存在し、誰でも気さくに話しかけるほどに、冷たい氷のなかに確かな温かさを感じ誰からにも愛されるいわゆる人気者であった。
「氷夏ちゃん、放課後近所にできたカフェに行かない?」
「ええ、構わないわ。ぜひ行きましょう」
この時既に顔が綻んでいる、誘われたことの嬉しさと趣味のカフェ巡りが同時にやってきた為嬉しさMAXなのは内緒。
「やったぁ!私そこの名物のスフレパンケーキ気になってたからそれ食べるの!氷夏ちゃん何食べる?
」
「私はまだ何も…そもそもメニューを知らないから何があるか…」
「え?知らないの?お店の公式サイトに載ってるんだ〜見て見て!どれも美味しそうだよね?!そうだよね!?私のおすすめはやっぱりこのスフレパンケーキかな!ふわふわもちもちがたまらないって評判なの!あとはなんと言ってもオリジナルブレンドのコーヒーが絶品らしいの!どんな人でも飲みやすくアレンジされているから苦手な人でも飲めるようになるほどだってさ!あとはあとはね!(超絶早口)」
「お、落ち着いて…ちょっと知りすぎじゃない?まだ行ってないのよね?どうしてそこまで知り尽くしているのかしら、まだ喋ってるじゃないちょっと止まりなさい!麻美さん!」
突然もうあと1ミリで唇と唇がくっつく程の距離まで詰めてきてフンフンと永遠に語り始めた彼女を止めようと両肩を掴んで腕をめいいっぱい伸ばし距離をとるが興奮した彼女に力負けしまた詰められていた。
「ちょ、ちょっと…!」
人とその距離で話すのに緊張を覚えた氷夏は透き通るような白い肌をこれでもかと真っ赤に染めあげて目をぎゅっとつむって困っていた。
「やっぱ可愛いよな…氷夏ちゃん……」
「あぁ…わかる……」
「普段の氷のよう冷たさで罵倒されたい…」
「だがその後恥じらう彼女も見たい……」
「両方見れるのはもはやご褒美どころの騒ぎじゃねぇな!」
「一家に一人欲しいわよね…」
「はぁ…嫁に来ないかしら…」
その困り顔だけでギャラリーは湧いていた
男子も女子も関係なく。なんだったら先生ですら結婚したいと心の底からため息をついて物思いにふけっていた。
そんなこんなで平和な日々が続いた
「氷夏ちゃん!今日は駅前のハンバーガー屋に!」
ずずいっと距離を詰めると彼女はまた顔を赤らめ
恥ずかしがる
それを見て周りの人達は癒される。
先生だけが空を眺めて死んだ魚の目をする。
「氷夏さんってすごいよな!いっつも全教科満点で!やっぱり努力してる人は違うなぁ!」
「あうあ………うう……」
褒められるのに慣れていないのだろう
すごくニマニマしていた
口がもニュもニュと効果音が聞こえてくるほどに喜んでいる。
「むふふ…ふふ…にへへ……」
笑い方も可愛い。可愛い?異論は認めない。
「い、いつものお礼に…く、クッキー焼いてきたかりゃ!たっ。食べてっ!」
まさかの恩返し。何も無い平凡な日が華やかに。
噛みながらもクラスメイトに手作りクッキーを差し出す。
その一連の行動、表情、噛んでも言い切ったセリフにですら
やはりそれを見て和む、湧く、癒される。
しかしその平和な日々はいとも容易く崩れ去る。
朝、教室に入ってきた彼女の表情が暗い。
クラスの始まりの春。各々が自己紹介をする時は、とても刺々しいオーラと見た目をしていた彼女に歩み寄って、その氷を溶かした彼らは気づく。
それは普段からその人を理解し寄り添ってきた人でなければ気づけないほどの小さな違和感。
だがそういう時、とても悩むものだ
ズカズカと踏み込んでいくのを躊躇うことの方が多い
大したことがなければまたいつも通り笑顔が咲くがもし少しでも重く、触れてはいけないものに触れてしまえぼそこから体制を立て直すのは遥かに難しい。
だから躊躇う、選択ミス1つで関係や信頼は容易に無くなるのだから。
しかし、彼らは躊躇わずに突貫した。
最悪の場合すら恐れず突貫した
それはその人との関係がどうでもいい、と切り捨てた結果ではなく、どうなろうが助けなければ、力にならなければという強い意志の元の行動だった。
なぜ彼らはそうしたか
それは、いつも静かな貴方が声も抑えず子供みたいに泣いたから。
ただそれ1つに尽きる。
先程まで曇っていた表情に涙が浮かび、1度目からこぼれおちたらもう止まらない。
次から次へと落ちていく、それと同じように子供のように蓋をしていた感情は溢れ出すと止まらない。
それはもう子供のようにわんわん泣いていた。
「どうしたの!?」
「大丈夫か?!」
「何があったの?」
「知ってしまったのだな…君も。恋に敗れるというツラさを……」
「うるさいですよ先生黙ってください。」
しばらく泣き止まなかった。
余計な一言のお陰でよりいっそう泣いた
数分後、スンスンと鼻を鳴らしながら訳を話してくれた。
「お父さんとお母さんが……うぅ…ううああ…あああ」
そこである一定数は何かを察し顔を伏せた
そしてこれは辛いな、としみじみ思った
「…………………うぅ……」
「無理しなくていいよ…今は何も聞かないから…」
「でも私たちは氷夏の味方だからね?困ってることがあったらなんでも言ってね?」
「当たり前だ!俺らも何でもするぜ!」
「先生はなんでもして欲しいぜ!あっ」
空気を読まない人は退場です。
レッドカードですよレッドカード一発アウトです
「………お父さん…とお母さん………が……」
無理に話そうとしてくれた。そう思った周りは
必死に止める
「…今日…」
それでも話し続ける彼女を見て周りはこれ以上野暮なことは言えない。話してくれるのならどれだけ辛かろうと聞こう。しっかり聞いてそばにいて支えよう。その場にいた全員がその考えで合致していた。
「いいよ。ゆっくりで」
「無理しない程度にね、」
沈黙が続いたことからそうであろう。彼女は無理をしているであろうと察した。
「歯医者に連れていくって………行かなかったら…もう誕生日を祝わないって!」
何だこのオチ
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