こんな時あなたならどうしますか?

中学の同窓会に参加した。

もう何年も会っていないのでこの日を楽しみに

仕事を頑張った。


そうしてその日はやってきた。


「っと、ここか」

メッセージで送られてきた位置情報を頼りに会場となる居酒屋へとやってきた。

随分と楽しそうな声が外まで漏れてきていた



正直ワクワクはしていた自分もいた

こういった集まりに参加するのも初めてなのもあったが、単純に成長したかつてのクラスメイトに会うのが楽しみでもあった、さらには好きな子もいた

片思いのまま離れ離れになってしまったが決してほぼ喋ったことがないとか、顔見知り程度だよね、という訳でもない。兎にも角にもソワソワわくわく


そんなこんなで緊張しつつも入口へと足を運ぶ


戸に手をかけた時少し不安もあった

本当にここであっているのか

本当に今日なのか

本当にお呼ばれしているのか

油汗をかくほどの恐怖も感じていた

「こんなんじゃいけんな…」

奮い立たせるが如く呟いて頬を叩く

真っ赤になるほどに強く


そうして戸を一気に開ける

少しでもゆっくりしてしまえば躊躇いが生まれ

半分開けたところで怖くなって閉めてしまいそうだったから

だから勢いよく開けた。

中に入るとさっきまでが嘘のように静まり返ると共に誰一人として動かない

そしてその場にいる全員から視線を集めていた


「あ、も、もう始まってた?遅れてごめん…」

とにかくこの沈黙を破りたくて声を出す

「ヒ、ヒサシブリダネーみんな元気してた?」

片言になろうとも話題を振る

「あ、あはは…ハハハハ……」

三度目の正直という慈悲すら存在しなかった


その状態のまま体感3時間、現実3分

地獄の時間を過ごしようやく時は動き出す


「お前誰?」

残酷な一言によって

「えっ?」

「いや、だからお前誰?名前は?」

中学を卒業してからかなりたっているので外見の変化というものは皆平等に訪れるものだ、もちろん身長や体型、髪型、顔つきなど変わらない人も中にはいる

それらを加味してみんな自分の変化が著しく

顔が思い出せていないのだな、と理解した

「えーと、滝ノ沢弥助(たきのさわやすけ)だよ、ほら水泳部だった!」

「あー、滝ノ沢…みんなそんなやつ知ってる?」

もはや「あー!あいつか!」「お前かー!」「懐かしい、変わったなお前!」などといった言葉すらなく

鋭い言葉が胸を貫く

その問いにそこにいた元クラスメイト達は口々に

「いやちょっと…」「知らん」「わからん」

「そんな人いたっけ?」「忘れちゃったー」

などと言葉を返す

男子だけの悪ノリと言うやつかと言う希望も抱きはしたが女子からのガチトーン誰だっけが無慈悲に彼の急所を的確に撃ち抜く

「わ、悪ふざけにしてはちょっと度が過ぎてない?結構傷つくんだけどなぁ…」

さすがにこれ以上やられたら心が持たない

何とかしようするもやはりここにも神はいなかった

救いの手など差し伸べられすらいなかった


当時進路のことや人間関係のイザコザでお世話になった担任ですら

「ごめんなぁ…お前の顔見た事ないんだよ…お店か日にちを間違えたんじゃないか?」と言う。

やめて!彼のライフはなんとやら

そしてそのセリフは初めての恋心を抱いた女の子からも飛んできた

「そんな人いたっけ、ミクしってる?」

もう正直泣きそうだった、いや半分泣いていた


しかし彼らの攻撃はおさまりを知らず

「まあ、せっかくのね、同窓会たいうことで卒アル持ってきたんだけどコレ見てよ、このクラスの個別写真のとこ」

そういう彼が持っていたアルバムは確かに自分ももらい見たアルバムだった

しかしそこには

「ここ俺らのクラスなんだけど滝ノ沢って名前のやつの個人写真ないんだよねw」

嘘のようなホントのこと

確かにそのアルバムには彼が存在していなかった

「ってことだからさ、お前間違えたんだよ、日にちか場所をさ」

「もうそうとしかいいようがないよね、ちょっとはしゃぎすぎたな」

「どんまい!タキザワくん!」

「ってことだから悪いけど帰ってくれない?」

僕がどんな悪いことを彼らにやったのだろうか

これ以上ないほどにトドメを刺す

まるで親の仇にするかのような仕打ち

「え?いやいや突っ立ってないでさ、迷惑なんだよ部外者がそこにいられると」

「そうなんだよ、今日ここ貸切だからさ、ごめんね」

そう言って無理やり店の外に押し出されそのまま締め出され

真冬の夜の中ただただ悲しみを背負ったまま棒立ちしていた。

「……………僕がなにをしたって…言うんだ……あんまりじゃないか!何もしていないのに!」

悲しみは怒りへ、怒りは悲しみへ。

彼の心の中でそれが無限に変換され溢れていた


もう彼にもう一度戸を開く力も元気もなかった

ただ寒さというナイフで全身を刺されながら、

ただ悲しみという刀で全身を貫かれながら

彼は暗い夜道をただ歩いていった。









なにか通知のような音がスマートフォンから聞こえた様な気がしたがそんなもの見る気力もない

見たところでそれが自分を傷つけるものだと肌で理解していた。


後日参加していた人からなぜ帰ったのか、あれはネタのつもりだった、悪ノリだった、空気を読めないのか、お前冗談も通じないのか、お前のせいで場がシラけ非常につまらない会になったなどといったメールが大量に送られてきた


それを見てスマホは捨てた。

そんな理不尽に立ち向かうほど心も強くなかった。

その後彼を見たものはいなかった。





こんな状況。皆さんならどうしますか?

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