魔との蜜時

⚠性的表現があります!

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最近、オリビアが自分によそよそしい。

…こう言うと少し不正確だ。

正確に言うとオリビアが、特に朝の時間帯、自分によそよそしくなるのだ。


オリビアと自分は、いわゆる恋仲なのだと思う。この前、鏡の怪異と遭遇して帰還した時に、互いの好意を伝えあってキスをした。


それ以来、朝はおはようのキスをしてから一日の支度に入り、彼は仕事を始める。そして晩の寝る前におやすみのキス(時々深いものもする)をして、一緒のベッドで眠るのだ。

まだまだ夏で夜も寝苦しい暑さなのだが、自分のひんやりとした体温は心地良いらしく、オリビアは気持ちよさそうにしてくっついて寝ている。こちらとしても好きな人とくっつけるのが嬉しいから良い。


ただ…最近の彼は、同じベッドて眠るとしばらくしてからベッドから抜け出すのだ。そこまで長時間でないものの、違う部屋に暫く居たり、時には外に出ているようでもある。そうして時間をおいてからベッドに帰ってきて朝を迎え、ぎこちなく自分と朝のキスをするのだ。




………理由は、一応わかってはいる。

だけど、うん…

後回し、後回しにするのももう良くない。

…今夜あたり聞いてみよう。




夜半頃、一緒に眠ったはずの彼が起き上がった。自分の方を少し見てから、そろりと部屋を出て行った。

…自分はそもそも妖魔なので、夜の方が起きている時間帯なのだと彼はわかっていない気がするが、今は置いておこう。


部屋を出たオリビアを間をおいて静かに追いかけると、今日の彼はトイレにいるようだった。


…荒い呼吸と、甘い喘ぎ声と、自分の名が彼の声で混ざって聞こえてくる。ほんの僅かな水音もする。

何をしているかなんて、わからないほど人に関して無知ではない。


少しだけ深呼吸をしてから、意を決して声をかけた。


「オリビア」


息を呑む音がして、目の前の狭い個室から彼の呼吸以外の音が止まった。


「オリビア、ごめんなさい」


わかっていたつもりだった。


彼は血の通う『ヒト』なのだ。恋をすれば本能から欲情する『イキモノ』なのだ。

自分のような『魔』である性から解離した存在ではないのだ。彼とともにいるだけで満足している自分とは違うのだ。


それなのに毎晩隣で幼い顔をして眠られては堪まったものでないはずだ。

だからこうして夜に自分を慰めて欲求を少しでも放出するか治まるまで時間を潰してからベッドに戻って、朝には彼は悪くないのに罪悪感に苛まれているのだろう。


自分は彼の、オリビアの恋人なのだから、こういうことは一緒に乗り越えていかなくてはいけないのに、ヒトだからと躊躇して辛い時間を過ごさせてしまった。


二人でいるのに、

ひとりぼっちの夜は、寂しい。


「オリビア…どんなことでも、ちゃんとお話しよう?」


僅かな沈黙の後、布ずれの音と水を流す音がして、ドアがゆっくりと開いた。少し気まずそうなオリビアが、それでも自分の方を見ていた。




常夜灯の下、二人でベッドの上に座る。

オリビアは落ち着かない様子だったけれど、ちゃんとこっちを見続けてくれている。


「オリビアはえっちな事がマクアとしたいんだよね?」

「ブッ!………えっ…ち……そ、そうね。………正直、おやすみのキス、で…だいぶ…その、興奮してたわ…」

「あ、やっぱり」

「わかってたの!?」

「キスの時オリビアのソコ、いつも反応してたもん」

「やめて!なんか無茶苦茶恥ずかしいから!!!」


真っ赤な顔を隠してわぁっと騒ぐオリビアはかわいいなぁ、なんて思う。それと同時にもっと近くで見たいと思った。

こちらを見てない彼に、スッと距離を詰めて彼の頬に両手を添えて上げさせる。オリビアは驚いた顔でこちらを見上げていた。


「オリビア、言いたい事ややりたい事があったらちゃんと伝えて欲しい…貴方の恋人なのだから」

「マクア…」

「セックス、しよう?

 自分はしたい。大好きなオリビアとしたい。

 オリビアは?」

「あたしは…あたしだってしたいわ…

 ………………でも」


でも?でもなんだというのだろう?

………あ、自分のいつもの幼い姿だとやりにくいのか。それか。


「心配しなくても、自分もっと成長した成人の姿にもなれるよ?それならオリビアのソレも受け入れることができるから」

「え、待って待って!?そうじゃないわ!」

「?でも背の高いオリビアの男性を挿れる事考えたらこっちもそれなりに」

「挿れっ………!待ってっば!!!」


待てと何度も叫ばれて口を噤む。

でもおかしい。セックスは男女の性行為…つまりは性的に未熟な年齢では通常行われないはずだ。

わけがわからない。


「…い、いつもの…姿のマクアが…いいの…」


真っ赤になりながらもじもじとそう告げたオリビアは真剣そうな目をしていた。


「……………え、オリビアって、ペドフィリアなの?」

「違うわよーーー!!!!!」


やろうと思えば、自分の体内構造を多少作り変えて彼が入るようにもできる。なので、別に構わないといえば構わないのだけど、そう思いながら発言した内容は、即座に否定された。


「その、す…るならいつものマクアじゃないと…嫌っていうか…」

「うん」

「…ちょっと、大人の…マクアは、…今は考えられない、っていうか………」

「うん」


少し考えて納得した。

オリビアは自分と初めて会った日、複数の女性達に酷い目に遭わされていた。彼女らはもうオリビアに関わることはないように脅してきたが、オリビア自身はトラウマになっているだろう。

つまり、彼は成人した女性に恐怖を感じているのだろう。


「わかった。今の自分としよう」

「………う…」

「なぁに?まだ何かある?教えて」

「でも…やっぱり子供のマクアを目の前にすると………犯罪感が………」

「ややこしいね」


今の姿の自分とシたいけれど、幼い子供に無体を強いるようでやりにくい、と。

ふむ…、それならば。


「じゃあ、自分がすればいい?」

「………ハイ?」

「マクアがオリビアを気持ち良くするなら、問題ないよね?」


こちらがオリビアの気持ち良いところを刺激してやるなら、少なくともオリビアからするより罪悪感も軽減されるはずだ。


「え、えええ!?」

「大丈夫!いつものキスでオリビアの弱いところわかってるし、こっちには触手も尻尾もあるから体格的問題もクリアしてるよ!

 でも…オリビアが、嫌なら…しない」


オリビアの意思が一番大事だ。どんなに論理的でも彼が嫌がる、怖がるような事はしたくない。

じっと彼の答えを待つ。もしこの案が駄目でもまた二人で考えればいいだけなので、不安は無い。


「…ぅう………」

「………」

「いや、じゃないわ………

 マクア…お願い、して頂戴…」

「いいの?ほんとう?」

「本音を言うと、こんなこと初めてだからこわいわ…」

「自分も、初めてだよ?…知識はあるけど、他人にそういうことするの、初めて」

「………なんで知識はあるの………」

「旅の道中って色々あるものなんだよー」


のんびり会話しながら優しくオリビアをベッドに押し倒す。自分の小さな体に素直に倒されてくれる彼が愛おしい。


「頑張るけど…痛かったり、怖かったりしたら言ってね?」

「わかったわ…」

「ん、楽にしててね」


触手を背から展開して優しく彼を撫ぜる。触手で囲い込むようにして、そのままキスをしてあげると、彼もこちらを抱き締めてくれる。


嬉しいなぁ。受け入れてもらえるってうのは、幸せな事なんだ。

自分が満たされているように、オリビアの事も満たしてあげたい。


ゆっくりと手と触手を使って彼の服を脱がす。自分の触手はそれなりに粘液を出すから服を着たまま行為をすると、きっとぐしょぐしょに濡らしてしてしまうから。

…ベッドに関しては諦めよう。明日片付けるしかない。


「あっ…!」


どんどん彼の肌が露わになっていく、その分だけ彼は羞恥からもだえてシーツを蹴る。もっと恥ずかしい事をするのに今からこれで大丈夫なのだろうか?

私も脱いだ方がいいのか…少し悩んだけれど、彼の罪悪感を考慮してそのまま脱がずにいこうと思う。


「恥ずかしい?」

「〜〜〜ッ………もちろん、よ」

「オリビア、綺麗」

「え」

「綺麗だよ」


安心させたいのもあったけど、紛れもない本心だった。


人でない自分を好きだと言って愛してくれる最愛である人の子。

自分にとってオリビアは、積まれた金塊より、磨かれた宝石より、作るのが困難な希少な道具より、世界中のどんな物より価値がある。

たったひとつ、自分の為だけに咲く花だった。


綺麗だと、自分にはそう告げるのが精一杯の表現なのだ。


「綺麗、好き、愛してる。オリビア」

「…そんなに、言われると照れちゃうじゃない」


彼の裸体にぎゅっと抱きつくと温かい。撫でてくれる手のひらが優しくて心地良い。

でも今日はくっつくだけじゃ駄目なのだ。今日は彼を肉体的に満足させるのだ。


ぬとつく触手をそっと動かしてオリビアに触れる。普段は粘液の分泌を控えているが、今日は抑えずに彼に塗り付けて滑らせる。

首筋、脇腹、足の内側…一般的に他人に触れられるとくすぐったいと言われやすい部分だが、これらは性感帯のひとつだ。もちろん人によって感度は異なるが、現にオリビアは感じているようだ。

彼の腰がかくかくと動いている。


「んっ……ふぁ…ぁ……んぅ…」

「気持ちよさそう…もっといる?」

「…あ、マクア……ひぅ…っ……もっと…」

「わかった」


自分の下の彼の体が震える。その度に彼が足を閉じようとするので、自分の体を割り込ませて閉じれないようにする。彼の痙攣にあわせて股間がふるふると動くのが見えるが、今はまだ触れないでおく。


今日は、先にこっちだ。

自分の空いた手で彼の胸板を優しく撫でる。


「…あ?」

「いや?」

「嫌じゃ…ない…けど、なんで…男の胸なんか」

「男の人でも、ここは感じる人がいるらしいんだよ?全然感じない場合もあるらしいけど」


そう教えながらオリビアの綺麗な首筋に舌を這わせる。反応して仰け反る彼がかわいいが、吸って跡をつけるのはやめておく。直接客と会う彼がキスマークをつけているのはまずいだろう。

それより、触手を限界数出している状態だと、手に浮き出る傷跡がだいぶわかるようになってしまう。彼の目に付いて萎えられないようにしたくてキスでごまかすのは悪い事をしている気分だ…。


触手の粘液を手にとって濡らし、再び彼の胸に触れる。

手のひら全体で粘液を塗り込む様に胸全体を揉むと、彼は何かをこらえているようだった。

円を描くように指先で乳輪の外側から中心に向けて撫でてあげると、悩ましげな声をあげた。

乳首を押し潰すように強めに圧すると、甲高い声と共に体を跳ねさせた。

彼はココがだいぶ弱くて感じるタイプのようだ。


「ああッ…!?なんっ………!」

「気持ちいい?」

「気持ちッ…いいか…らぁ………!」

「から?」

「も…!は…やく…!触ってぇ!」

「全身触ってるよー?」


全身触っているのは嘘ではない。現在進行系で、ぬるつく粘液をまとった触手によってオリビアの体をどこもかしこも撫でて刺激しているのだ。…股間周り以外は、だが。

加えて、彼が無意識に腰を動かして局部に刺激を得ようとするから、自分の尻尾を彼の腰に巻き付けて押さえつけている。


わかりやすく男性が一番感じるところを自分は避けていた。

だって、せっかく二人で初めてをしているのに、すぐに終わらせては勿体ないと思ったのだ。


「マク…ア!」

「暴れないで…もっと気持ち良くなろう?」

「んんぅッ………やだ…ぁ!」

「嫌なの?」


嫌と言われて、彼に触れる手と触手を引っ込めた。初めてに怯えるオリビアが嫌と言ったから、止めるべきなのだと判断した。

すると、オリビアはもっと辛そうな顔をして、涙まで溢し始めた。


「え!?嫌なんでしょ?」

「つらいの!…も、はやくイきたぃ…!」

「ごめん、そういう意味だったんだね」


謝って、彼の目から溢れてしまった涙を舐め取っていく。

難しい。人間の感覚がいまいち解らない自分はそういう細かいニュアンスを取り違える事が多々ある。申し訳無いが、これらは少しずつ覚えていくから許して欲しい。


再び触手を彼に伸ばす。彼の感じる体中の場所を撫で擦って刺激していく。ぬちぬちと粘る水音をさせて強めに触れると、彼は頭を降って声を上げた。


縋るように彼は小柄な自分の体をかき抱いてきてくれた。喜びの感情が湧いてきて仕方無い。


荒い呼吸と嬌声を繰り返す彼の唇と自分のそれを合わせて塞いだ。互いの舌を絡ませて口腔を探る、と同時に彼の望んでいた足の間に手を割り込ませて触れてあげる。彼の興奮を代弁するように熱い。

途端にオリビアは目を見開いて体を一際大きく跳ね上げた。尻尾を彼に巻き付けたままでなかったら、小柄な自分は彼の上から落ちてしまったかもしれないと思うくらいの反応だった。


「ンンンー!!!…っぷはッ!ああっ!!!」

「ちゅっ…いっぱい我慢させちゃってごめんね…」

「ひぁああ!ンぅ…んんッ!!!アッアッ!やぁ!ぅぁんッ!!!」

「オリビア…オリビア…すき…」


経験なんてないけど、オリビアの限界が近いのがわかる。

触手で刺激を繰り返す彼の体は緊張してきて熱が際限無く蓄積していっている。自分の両手で揉みしだかれた彼の雄の先端から自分の粘液以外の液体が零れていく。性の限界を感じているだろう表情の顔は涙と唾液と自分の粘液でぐしゃぐしゃになってしまっていた。


愛おしい。

けっして世間一般では綺麗とは言い難い状態なのだろうけれど、自分からしてみればこの世で一番美しいものに思えた。


彼は自分だけのオリビアで、自分は彼だけのアウマクア。そう思うと、どうしようもなく満たされた心地になる。

早くオリビアもそうなってほしい。

開放を求めて張り詰めた彼のソレを自分の細い指でぬちゅぐちゅと音を立てて刺激してあげた。


「オリビア、イって?」

「んぅッ、ふぁ…!ま、く…!ぐ…ぅッ、あぁぁあああぁッ!!!!!」


オリビアは、ぎゅっと自分を抱き締めて体を強張らせた瞬間、果てた。ドクドク脈動するソレと断続的に吐き出される白濁が彼の満足を物語っていた。


彼の白濁が自分の手と寝間着を汚していく。独特の匂いのあるそれを少し舐めとる。…当然苦いけれど、甘みを含んでいるように思うのはオリビアが好き過ぎるからだろうか。

寝間着は大変な事になっているだろうが、その前から触手の粘液と彼の汗とでべとべとなので大した問題ではない。


彼の絶頂が終わったらしく、オリビアは弛緩した体を投げ出してくったりとしていた。自分は触手を使って彼の顔周りの乱れた髪を軽く整えて呼吸の邪魔にならないよう撫であげた。…手で撫でるのが一番なのだろうけれど、今は両手ともに精液まみれなので勘弁して欲しい。

ティシュボックスを空いた触手で引き寄せつつ、彼の様子を見ていた。


「ハァ、ハァ………あ…、まくあ…」

「オリビア、…良かった?」

「うん…よかった、わ…」

「嬉しい」


赤みのさした頬に口付けながら、彼に隠して手をティシュで拭き取った。体は触手で支えているから出来る芸当、こういう時に器用かつ力もそこそこある触手は便利だ。


「疲れた?寝ちゃってもいいよ?後片付けはやっておくから」

「え…でも」

「させてよ。オリビアのお世話するの、結構好きなんだ」


これは本当だ。彼の為に家事をしたり、彼の趣味の服を着たり、彼のふとしたことの助けになるのが自分にとって喜ばしい事なのだ。

だって、彼の為の事なのだ。好きな相手だからというのもあるが、護るべきものの為の事だと思うと本能からもやる気が出る。


「あんまり駄々っ子だと寝かし付けちゃおうかな〜?」

「もう…、わかったわ…マクアは時々悪い子になるんだから…」

「オリビアの為なら良くも悪くもなるよ」

「アラ、素敵な口説き文句ね」

「好きな子相手だもの、…おやすみオリビア」

「ん………マクア、アタシも…愛してるわ…

 おやすみ…、なさ…い……」


そう言うとオリビアはゆっくりと眠りに落ちていった。きっと耐えていたものをやっと吐き出して、初めての行為も相まって疲れてしまったのだろう。

オリビアの普段は隠れがちな左目のまぶたにキスを落としてから、ベッドから起き上がった。触手でバスタオルやウェットティッシュを用意する。お湯も用意した方がいいのかもしれない。自分のせいなのだが、主に触手からの粘液で彼の体もベッドも大惨事だった。



後片付けがだいたい終わった。彼のベッドマットに関してはもう遅い時間だから起きてからやることにした。


キレイにしたオリビアを再び濡れたベッドに寝かせる訳にもいかないので、自分が使わせてもらっている部屋のベッドに寝かせた。

当然、自分も同じように彼と横になって目を閉じる。


オリビアの横に滑り込んで彼の体温を感じながら眠るのが、自分の一番好きな瞬間だと今まで思っていたが、もしかしたら今晩のように快感で悶えるオリビアを見るのも好きかもしれない。これは新しい発見だ。


…嫌がられないだろうか?というか、護り手としてどうなのだろうか?

様々な事が頭に浮かんで消えるが、微睡んできたまぶたを優先して、もう今日は彼と眠ろうと思った。明日、また相談しよう。


薄ら白んできている空がカーテンの隙間から見える。ひとりぼっちの二人の夜はもう来ない、そう告げているようだと詩的な事をぼんやりと考えながら、自分もまた眠りに落ちていった。






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