約束
ネルシア
約束
―10年前―
「ねぇ、先生。」
バイトで家庭教室をしている。
問題を解いていている女の子が突然話しかけてくる。
「なぁに?」
この子とはだいぶ長い付き合いだ。
小学3年から教えてるから・・・もう3年にもなるのか。
私の家庭教師としての仕事も最後。
私も私で就活が始まる。
「私が大人になったら迎えに行くね。」
「ふふ、何それ。待ってるね。」
その子を抱きしめ笑う。
―10年後―
「あー!!ビールうんめぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
居酒屋で酔っぱらったOLの30歳過ぎの独り言が響き渡る。
「そんなに大きな声出すってことはなんか嫌なことでもあったのかい?」
慣れたなれた様子で店長が声をかける。
「店長聞いてよぉ~」
「おめぇの話は長ぇからやだね。」
べぇと舌を出し、厨房に逃げ込んでいく。
「なんだとぉ~!?!?
誰のおかげでこの店成り立ってんだと思ってんだぁ?」
「はいはい、あなた様のおかげですよ!!」
厨房の奥から声が響く。
「わかっているのならよろしい!!」
「はいこれサービスね。」
店長が机の上に出したのは自家製のから揚げ。
裏メニューとして存在していてかなりの人気を誇る。
店長が本当にお世話になっている人にしか出さない逸品。
「店長・・・ありがとぉぉぉぉ・・・」
その唐揚げを満足に食べて、外に出る。
「あー、やば・・・酔った・・・。」
フラフラになりながらの帰り道。
大きな交差点の巨大テレビに目が行く。
そこに映るのは日本中誰もが知っている超絶美人の20代前半の超ヒット商品を売った社長。
そして自分の体に視線を落とす。
ザ・寸胴。
ノーおっぱい。
なんだこの格差は。
怒りが沸くが、なぜか画面から目が離せない。
『ご結婚とか考えていらっしゃるのですか?』
テレビのMCがその女性に聞く。
『10年前に約束した人がいるんで、迎えに行きます。』
そのセリフを聞いてテレビのスタジオが盛り上がる。
私の胸も盛り上がれよ、なんて。
「あぁぁぁ格差社会!!!!」
周りを歩いていた人が何事かとこっちを見る。
だがすぐその後は無関心。
これが芸能人とか女優だったらずっと見るくせになぁ・・・。
トントンと後ろから肩をつつかれる。
振り返るといかにも怪しいいかつい男が立っていた。
「あの・・・何か?」
「10年ほど前に家庭教師されていましたか?」
見た目とは裏腹に心地が良く、優しい声だった。
「はい。してました。」
「免許証見せていただいても?」
「はぁ、どうぞ。」
酔ってるせいもあり、よく分からないけど見せた。
「あぁ、間違いない。良ければ着いてきてくれませんか?」
「んー、あーい。」
力ずくで攫おうと思えば私なんて攫えたはずなのに、わざわざ許可を取ってくれる当たりやっぱり信用できると思う。
着いていった先に驚かされる。
お金持ちにしか入れない超高級ホテルのエントランスへと案内された。
「この先は貴女様お1人でお願いいたします。最上階のスイートです。」
それだけ言うとその人は帰ってしまった。
広大なエントランスにポツンと取り残される。
「えー、一番上って言ったって・・・。」
周りの人間を見ても私みたいなやっすいスーツなんて見当たらない。
豪華絢爛なドレスやオーダースーツ。
それをかき分けてエレベーターに乗らねばならない。
「ええい、ままよ。」
酔っぱらいの独身OLですが何か?と言わんばかりに堂々と突っ切る。
そしてたくさんあるボタンの1番上を押し、最上階へと向かう。
チンという最上階に着いたことを知らせる音さえどことなく高級感を感じる。
扉が開き、視界に入ってきたのは扉。
大きくて豪華な扉。
思わず腰が引けるほどの。
その扉がガチャリと開く。
一体どんな人が出てくるのかと唾を飲む。
そして、その部屋にいる人物と目が合う。
テレビでやってたあの完璧な女性が目の前にいる。
だが、その女性は目を潤ませてこう言い始める。
「先生・・・先生だ・・・先生!!!!」
走ってきたのをそのまま受け止める。
てか、避けようがなかった。
「・・・私貴女知らないけど」
それが私の本音だった。
こんな日本のトップを走るスーパーウーマンの知り合いなんて覚えてない。
「10年前迎えに行くって言ったじゃん!!」
怒鳴られる。
そんなこと言われた記憶がな・・・。
「え、ちょっと待って。
あの言葉本気だったの?」
「そうだよ・・・先生のばかぁ・・・。」
その場で崩れ落ちてしまう。
取り合えず頭を撫でる。
「ごめんね・・・。」
それしか言えなかった。
約束 ネルシア @rurine
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