第10話 コーヒーと僕 (3日目)

「もうすぐ年末だね」

彼女に言われてそういえばそうだなと思った。もう12月の頭だった。今年は色々なことがあった。まあ、彼女との出会いに匹敵するほどの出来事はなかったが。来年は彼女と過ごす1年になるのだろうか、そんなことを早くも考えてしまった。

「来年はずっと一緒にいたいね」

そんなことを言ってみた。

「まだ出会って3日しか経ってないよ」

僕達はまだ3日しか一緒にいないのか、もう1年くらい一緒にいるような感覚でいた。思えば彼女のこともまだあまり知らない。色々と聞いてみたいが、彼女とは特殊な出会い方をしたので、下手なことを聞いてしまうといけないためにあまり聞けない。まあ、彼女の過去なんてどうでもよかった。いまの彼女が僕のすべてだ。

「ずっと一緒にいる気がする」

「なにそれ」

飲み物が運ばれてきた。彼女はカフェラテを美味しそうに飲んだ。

「おいしい〜、寒いからよけいに」

僕もホットココアを飲んだ。ココアがとても身に染みる。初めて彼女と会った時の会話を思い出した。初対面の時の彼女はとても冷たい雰囲気があった。あんな状況だったから、当然といえば当然だが。この数日間で、僕だけでなく彼女も心を開いてくれている気がする。

あの時、あそこに居合わせたのが僕じゃなかったらどうだったのだろう。僕じゃなくても彼女はこんなにも打ち解けたのだろうか。考えたってしょうがないことを考えてしまった。

「ココア美味しい?」

彼女に聞かれて、僕は思考の渦から帰ってきた。

「おいしいよ、めちゃめちゃ」

「それは良かった」

彼女は微笑んだ。彼女は僕の前では一度も追い詰められたような姿を見せない。無理はしてないだろうか。僕は彼女のために何ができるんだろう、またも僕は思考の渦に入ってしまった。

「コーヒーも飲めるようになりなよ」

また彼女に引き戻された。

「んー、頑張ってみる」

コーヒーは苦手だ、僕は苦さの中に魅力を見いだせる程大人になってはいなかった。僕はいつまで経っても、自分が子供でいるような気がしていた。彼女は僕と同じ年齢だが、僕よりもはるかに大人な気がした。

「大人だよね、僕よりも」

「コーヒーくらい飲めるようになるよ」

コーヒーの話だと思われた、当たり前か。僕にコーヒーを美味しく飲める日が来るのだろうか。僕はコーヒーと人生をこんなにも重ね合わせて考えた初めての人間かもしれない。僕はココアを飲み干した。ココアは本当に身に染みて、僕の心を溶かしていった。

彼女はまだカフェラテをゆっくりと飲んでいた。僕達はどの季節のどこがいいとか、そんな話をずっとしていた。季節は巡っていく、僕達は季節を一緒に何周出来るだろう。きっと何十週もするんだ、二人で。

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