第9話 カフェへ (3日目)
彼女に今日はなにをするかを聞いてみることにした。
「今日はなにする~?」
「カフェいきたい、カフェ」
「いきたいとこあるの~?」
「決めてはないけど…」
「じゃあちょっと探してみる」
僕はスマホで近くのカフェを検索してみた。僕の家の近くは観光地も近いので、お洒落なカフェもたくさんある。
「ここはどう?」とか「ここ良さそうじゃない?」とか喋りながら、僕たちはカフェを吟味し続けた。十数件見た後、やっと彼女が満足いきそうなカフェが見つかった。「じゃあ行く準備しなきゃだね」
彼女はお出かけの準備をし始めた。女性というのは、こういう時にはとても素早く動くものである。僕も顔を洗ったり、服を選んだりといろいろな準備をした。歯を磨くときに、歯ブラシ立てに彼女の歯ブラシと僕の歯ブラシが並んでいるのを見た。こんなものを見るだけで、僕はなんだか幸せな気持ちになった。二人の生活感のあるものを見るだけで、何とも言えない良い感情になる。
もう忘れかけていたが、数日前にはこの世から去ろうとしていた彼女である。今、僕とこうしているのも、ある種奇跡のようなことだ。彼女が生きていることを、彼女よりも僕が一番よろこんでいるだろう。
二人とも準備を終えてカバンを持った。部屋の電気を切って靴を履き、鍵をかけてアパートを出た。
カフェまでは歩いて20分ほどである。今日はとてもいい天気で、空は信じられないほどに青い。季節は冬なので、木々は寂し気な見た目をしているが、空がとても高くて寂しげなのも気にならない。彼女は茶色いマフラーをしている。個人的に、マフラーをしている女性はとても美しいと思う。彼女から何とも言えない愁いを帯びた雰囲気が感じられる。それが何とも形容しがたい美しさを醸し出している。
「寒いね」
彼女が言った。手をつないで欲しいということかと一瞬思ったが、彼女は手をポケットに入れているため、そういうことではないらしい。
「冬だからね」
しょうもない返事をしてしまった。
「冬好き?」
「冬が一番好きだよ」
「どうして?」
「きれいだから。何もかも。空も星も。」
「そっか」
僕たちは寒空の下をただ歩いて行った。
カフェに着いた。結構年季の入った雰囲気のあるカフェだ。扉を開けるとカランコロンと扉にかかっている鈴が鳴った。店員に案内され、日が当たる暖かそうな席についた。
僕はメニューを開き彼女の方に向けて聞いた。
「なに飲む?」
「ん~、まあカフェラテかな」
「じゃあ僕はココア」
「やっぱり」
彼女と出会った日、彼女がコンビニでココアを買ってくれなかったから、久しぶりのココアだ。僕は相変わらずコーヒーが得意ではなかった。ココアのある喫茶店は僕にはとてもありがたい。僕たちは注文するために店員さんを呼んだ。注文を終えた僕たちは、それぞれ飲み物を待った。
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