第6話 帰ってお食事 (2日目)

 今日の料理はアクアパッツァだ。料理ができない人が思うよりもアクアパッツァは簡単で、名前からしてお洒落な感じになる。僕のおすすめ料理である。作るのにはそこそこの時間を要した。

 彼女はまだ眠っていた。今日は荷物をたくさん運んで疲れたんだろう。僕もそこそこ疲れてしまった。彼女の寝顔は猫みたいにふてぶてしくて可愛い。僕は彼女の肩を優しく揺らして言った。

「できたよ~、今日はアクアパッツァでーす」

「んんぅ~」

彼女は可愛らしい声を出しながら起きた。不覚にもちょっとキュンとしてしまった。ものすごく眠たそうである。

「アクアパッツァ?お洒落なもんつくるね」

「簡単だよ、誰でも作れる」

「わたしは無理かな」

「そんなことないよ」

僕たちは小さなテーブルに二人分の料理を並べた。元々一人暮らし用の机だから二人で使うとめちゃめちゃ狭い。彼女はなぜか向かい合わせではなく、僕の隣に座った。もともと狭い机がより狭くなった。

「なんで隣に座るの」

「いやなの?」

「いやじゃないけど」

「いただきまーす」

彼女は僕を置き去りにして食事を始めた。

「いただきます」

僕も料理を食べ始めた。狭い机で二人横並びなので言うまでもなくめちゃめちゃ距離が近い。

「おいしい?」

彼女に聞いてみた。

「おいしいよ、残念ながら」

「何で残念なの」

「むかつくじゃん」

「あっそ」

そんなことを言いながら彼女は僕の料理を食べていた。

「明日はなにを作ってほしい?」

「なんでもいいよ、なんでも作れるんでしょどうせ」

僕が料理が得意なのがよほど癪らしい。そんなすねたような彼女を見るとなぜか僕は嬉しくなった。明日はもっと美味しいものを作って彼女をもっとすねさせてやろうと思った。

「ごちそうさま」

僕たちは料理を食べ終えた。彼女はお皿をキッチンまで運んだ。僕も自分の分の食器を運んだ。彼女はそそくさと皿洗いを始めた。

「自分の分は自分でやるよ」

「いいよ、あんたは料理だけしてくれればいいの」

「じゃあお願いします」

お言葉に甘えることにした。

 彼女は皿洗いをパパっと済ませてベットに横になり、テレビの電源を付けて見始めた。僕もその横に並んで寝っ転がった。僕は疲れていたので眠くなってウトウトしていた。完全に寝かけたときに彼女に突かれて起こされる。それを何度かやられた。不機嫌そうに嫌がる僕を見るのがよほど楽しいらしい。僕はそれに対抗して起こされても上機嫌そうな顔をしてみた。彼女の僕を起こす嫌がらせは終わらなかった。

「何で起こすの」

「面白いから」

 僕は疲れながらも彼女とテレビを見ることにした。一人の時は見ていてもあまり面白く無かった番組が、彼女とみているとすごく楽しかった。大切な人といるとなんでも楽しいんだなと思った。彼女はずっと笑っていた。僕もそれを見て笑っていた。とても幸せな時間だった。というか、彼女と出会ってからずっと幸せな時間が続いているような気がした。

 

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