第5話 何気ない帰り道 (2日目)

 午後の講義もだらだらと受けた僕は、彼女にメッセージを送った?

「授業終わった?」

「終わった~」

「どこにいる?」

「共同ハウス」

「はいよ~」

僕はまっすぐ家に帰った。

彼女はめちゃめちゃくつろいでいた。どうやら服やその他生活に必要なものを持ってきたようだ。1人暮らし用の部屋だから2人分の物があるとかなり場所を取る。1人暮らしにしては少し広いくらいの部屋だったが、少々窮屈な広さになってしまった。まあ僕は部屋が狭かろうとどうでもよかった。

「荷物運ぶの大変だったでしょ、言ってくれれば手伝ったのに」

「別にー、平気だよ」

「でもいろいろ足りないものあるんだよね~」

「買いにいく?」

「デートだデート」

「デートだね」

デートらしい。僕たちは買い物に向かった。

 結局僕が朝行ったデパートにもう一度2人で行った。彼女は化粧品とかを買っていた。「どっちがいいと思う?」なんて僕に聞きながら。僕にはほぼ違いの分からないものばかりだったが、しっかり考えて答えた。僕には基本なんの目的の無い買い物であったが、彼女が楽しそうに化粧品を選んでいるのを見ているだけで幸せだった。

 彼女があれほどに思いつめるほど、あの時に何を抱えて、今もそれを抱え続けているのかは分からない。しかし、彼女の笑顔は本物に見えるし、僕はそばにいてあげるだけで良いんだろう。きっと彼女は自分の中で問題を消化できるだろう。

 彼女はその後も服とかいろいろなものを見ていった。たくさんの荷物を持って僕たちは歩いて帰って行った。

「買いすぎた~」

「また部屋狭くなっちゃうよ」

「ごめん」

「いいよ」

 夕日が沈みかけていた。空はオレンジ色と青黒い色で二分されていた。

「きれいだね、空って」

彼女は白い息を吐きながら言った。夕日を僅かに顔に受けている彼女は、この世界で彼女しか持ちえない唯一の輝きを持っているように思われた。そんな彼女をあの時失わずに済んだことを。僕は幸運に思った。

 二人で歩く、何気ないことだ、本当に何でもないようなこと。それがこんなにも、僕の人生の中で1番だと思えるほどに輝いている。大学に合格した時とか、そんなことはどうでもいいことに思えた。人生において達成したい大きな目標とか、名声とか、そんなことはすべてどうでもいいことだったんだと気付かされた。僕が彼女を助けたというのが客観的事実であるが、そんなことでは語りつくせない出会いだったんだ。

 僕たちは家に着いた。

「疲れた」

彼女がため息をついた。僕も少しだけ疲れていた。僕たちは仮眠をとった。そのあと、僕は二人分の料理を作った。料理中、彼女はまだ寝ていた。自分一人のために作るよりも作り甲斐があった。

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