中
『私、爆弾なんです』
すると、おもむろに少女は身にまとっていた
でも、恐る恐る両手を外した先の少女を見た瞬間、僕は目の前の光景が信じられなくなった。
少女の
少女の身体は、爆弾だった。
「………………えっ」
『えへへ、びっくりしました?』
声に意識を戻される。少女は笑っていた。両手の中に包み隠した
『私、普通の女の子みたいに
そう語る少女の顔は、年頃の女の子と大差ない。夢を夢として純粋に
『だから教えてください。あなたはどうやって、爆弾を解除するんですか? 解除しても、あなたは生きてくれますか? …………もし私が爆弾じゃなくなったら、私の、友達になってくれませんか』
どうして。どうして眼前の少女は、あんなに悲しい
出来るなら彼女を救ってあげたい。幽霊である僕なら刺傷なく彼女の爆弾を解除できる。
しかし、彼女の爆弾は今、心臓の役割を果たしている。それを解除することはつまり……彼女の死を意味する。
「…………」
『あの、どうしちゃいましたか?』
「えっ? あ、ああごめん。ちょっと考え事してたんだ」
少女は心配そうな表情で見上げてくる。その表情は何の変哲もない女の子でしかない。
「えっと、爆弾解除のやり方、だったよね。いいかい、一回しか言わないからよく聴くんだよ?」
「解除の方法はね、たった一つだけあるんだ」
『どんな方法ですか?』
それから僕は大きく一回、深呼吸をした。空気を
「爆発させることだよ」
刹那、少女の表情が
『それって、解除とは言わないんじゃ……』
「爆発、といっても強大な熱を放出しながら衝撃で周囲を破壊してまわる、あの爆発じゃない。僕が言っているのは、君の胸の中にある時限爆弾の、起爆装置のスイッチを切ること。切った瞬間、
『スイッチを切った後は、どうなるんですか』
「後? そんなの、君は普通の女の子になるだけだよ。これからやりたいこと、夢に
『なら、どうして今までの処理班の人は、私をそうしてくれなかったんですか」
「推測の
僕の話を聴きながら、徐々に目が
「だからこそ、もう死んでいる僕が役に立てる。装置が起動しなくなれば、爆弾そのものが機能を失う。そしたら
そう言うと、少女は
そして彼女は受け入れるように、小さな両手を差し出した。
『分かりました……絶対、私の中の爆弾を解除してください。その後は私と……普通の女の子になった私とお友だちになってください』
「あぁ、約束する」
少女は
僕は何をしているのだろう。
もちろん、行為としての問いかけなら、
爆弾はその用途ゆえ、内部の構造に少しでも衝撃が加えられれば即座にエネルギーを開放する仕組みになっている。だが幽霊である僕は、細やかな機構を無視して核に
僕の
芯には原子時計を元にした電子機械が、一定のリズムを爆弾内に送り込んでいた。もし外部から何らかの接触があった場合、機械の危険信号が瞬時に起動に、このリズムは爆発までのカウントダウンへと
そして芯となる機械から
後はこの導線に向かって、〈切る〉という念を集中させればいい。そうすればポルターガイストさながらに線は
後は念を送ればいい、それで電子のリズムが停止し、爆弾はその機能を失う。
だが僕は通常作業の何倍、何十倍の時間をかけて、ただただ機構を見つめていた。この爆弾の持ち主は、僕を信じて待っている。解除されれば周りと変わらない生活が出来ると信じ、希望に胸を
僕は何をしているのだろう。
時限爆弾の解除が答えでないのは
なぜなら今、僕の目の前で眠る少女の
彼女の夢は、今の生活から抜け出すこと。自らを
それは何物にも縛られない、自分の意志による行動。
少女の笑顔を見たとき、その純粋な思いに触れたとき、僕は確かに感じたのだ。
君には、もっと生きてほしい。
その願いを叶えるためならば、僕は喜んで――
〈続く〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます