第75話 家畜(蜘蛛)
姉妹が母の夢について
〈すばらしい戦争中毒、占領計画の失敗について〉を鑑賞していた姉妹は『ふむふむ』とうなずいた。『それは大変だね。でも、わたしは家畜の鳴き声を聞くのが
納屋の大扉を開くと、毛皮を持たない家畜が
わたしの存在に気がつくと、家畜はピタリと動きを止めて、こちらをじっと見つめる。何頭かはカチカチと歯を鳴らして、みすぼらしくて痩せ細った
わたしがあれこれと考えていると、〈すばらしい戦争中毒、占領計画の失敗について〉を鑑賞していた姉妹は大きな
『さて、魔女は今日も火あぶりにされてしまったけれど、美味しい肉は和牛っていうんだってね』
まるで運動機能が損なわれた哲学者だ。と、わたしはあらためて姉妹のことを評価した。実に詩的で天才的だ。わたしも火あぶりの魔女について考えていたけれど、彼女は和牛のランクについて考えていたのだ。きっと宇宙からやってきた革命の同志も、姉妹の言葉に
宇宙からやってきたセンチメンタルな巨人の肩に飛び乗ると、彼を
神々の使徒がどこに隕石を落とせばいいのか思い悩んでいた時期に、ロトの妻に
■
浅い眠りから目覚めると、ぼんやりとした意識で姉妹たちの様子を確認する。その瞬間、膨大な数の感情が流れ込んでくる。驚いて
すると高層建築物内にいる姉妹たちの意識だけが届くようになる。
姉妹たちに侵入者について教えようとして、ふと思いとどまる。この建物だけでも数百体の姉妹がいて、彼女たちの多くは暇を持て余している。侵入者たちのことを教えてしまったら、楽しみを横取りされてしまう可能性がある。それならいっその
無数の小さな蜘蛛にじっと見つめられながら、彼女はあれこれと考えを
獲物を執拗に追いかけて、命乞いや悲鳴を聞きながら手足を切断するのもいいが、それでは味気ない。
彼女はカチカチと牙を鳴らすと、特殊な作用がある体液を吐き出した。その赤黒い体液が床に広がると、
しばらくすると、真っ赤に発光した無数の眼に見つめられることになった。彼女は満足すると、
彼女は満足そうに息を吐き出すと、小さな蜘蛛の意識を介して侵入者たちに忍び寄る様子を観察することにした
■
血液と臓物に濡れた薄暗い廊下を歩いていた傭兵は、手足を切り落とされた状態で壁に
その瞬間、彼は任務に参加したことを後悔した。照明装置によって暗闇に浮かび上がるグロテスクな化け物を捕えていたのは、大蜘蛛の糸だった。どうやら部隊は、廃墟の街で最も恐れられた変異体の巣に侵入してしまったようだ。
すぐに仲間たちに知らせなければいけない。そう思って傭兵が振り返ると、グシャリと嫌な感覚がして足元で何かが潰れる。照明装置を向けると、手のひらほどの大きさの蜘蛛を踏み潰していた。
傭兵は舌打ちすると、近くに転がっていた瓦礫でブーツに付着した肉片をこすり落とそうとする。けれどその
傭兵が
蜘蛛の大群に囲まれていた。傭兵がそれに気がついたときには、もうどうすることもできなくなっていた。次の瞬間、無数の蜘蛛が飛び掛かってくるのが見えた。
レーザーライフルから発射された閃光が薄暗い廊下を真っ赤に染める。その淡い光は上階につながる非常階段を探していた別の傭兵の目に届いた。
彼はすぐに本隊と連絡を取ると、先行していた仲間を
小さな蜘蛛は長い脚をそろりと動かして気づかれないように移動すると、傭兵の首に
走っていたからなのか、息があがっていてひどく苦しかった。倒れたときに肩から外れた照明装置を探そうとして視線を動かすと、無数の蜘蛛に囲まれていることに気がついた。傭兵は驚いてすぐに立ち上がろうとするが、
なにが起きたのか理解することができず、混乱した頭で目を動かすと、肩に真っ赤な眼をした蜘蛛が乗っていることに気がついた。思わず悲鳴が
それどころか、いまでは意識すら
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先行していた仲間から連絡を受けていた部隊が通路に到着すると、命令を無視して先走っていた仲間が暗闇のなか、ひとりで立っているのが見えた。床に転がる照明装置によって暗闇に浮かび上がる仲間の異変に気がつくと、先頭に立っていた傭兵はレーザーライフルを構えた。
フラフラと身体を揺らすように立ち尽くしていた仲間の背中に、長い脚を持つ蜘蛛の影が見えたのだ。ガスマスクの側面にあるスイッチを操作して視界を拡大すると、仲間の首に咬みついている蜘蛛の姿がハッキリと見えた。
神経毒に
蜘蛛の毒によって操られていた傭兵は、部隊に向かって容赦のない攻撃を開始した。真っ赤な眼を持つ蜘蛛の大群は、侵入者たちが殺し合う姿を最後まで見届けると、戦闘を生き延びた
■
小さな蜘蛛の視界を介して状況を見守っていた彼女は満足すると、建物の外にいる侵入者を捕まえにいくことにした。あれはいい家畜になるだろう。姉妹たちも抜け駆けしたことを許してくれるだろう。
そう言えば、と彼女は混沌とした夢の断片を思いだしながら思わず笑ってしまう。
夢のなかでも家畜について考えていたと思うと、おかしくてたまらなくなってしまったのだ。
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