第23話 火鼠の衣
蒼炎を纏ったスターゲイザーに襲われたのはまず3号機だった。
必死に抵抗する3号機だがスターゲイザーに組み伏せられた挙句装甲をその蒼炎で溶かされていく。1号機と2号機は援護する事が出来ずただその様子を木偶の坊のように見ている事しかできない。
何しろ武器は効かず装甲すら防げない炎なのだがら。
やがて装甲を完全に消え全身のフレームが丸出しになったところで何故かスターゲイザーは燃え盛る基地の中へと姿を消す。
それを見計らって1号機と2号機は燃える3号機に駆け寄る。
「3号機!生きているなら返事をしろ!おい!」
「隊長!此処は俺が囮になるからそいつを連れて離脱してください!」
「っ!」
2号機のパイロットは判断は正しい。
生き残りはこの場に居る自分達2人であり1人は安否不明で敵は圧倒的なのだから。
「だが……!」
しかしそれは苦渋の決断だ。
隊長としてのプライドに任務失敗の汚名。
何より部下を囮に自分は尻尾をまいて逃げ帰らないといけない屈辱。
それらを全て飲み込む覚悟がいる決断。
しかし隊長は決断した。
「っ、すまん!」
焼き焦げた3号機を担いで隊長が駆る1号機は走り出す。
それを見て2号機のパイロットは満足そうに笑いながら敬礼をした。
「ご武運を!」
そして2号機はスターゲイザーが消えた火の中に効かない事は承知で銃を乱れ撃つ。
少しでも注意を自分に向けさせるために。
その時の彼等の間にあるのは鉄より固く火より熱い絆で結ばれた気高い信頼関係。
しかし、しかだ……。
果たしてそんなもの、理不尽な理由で殺されそうになった者に関係があるのだらうか?
隊長が囮を任せた2号機の最後の姿を目に焼き付けるべく後ろを振り返る。
「…………………………………………は?」
魂の抜けるような間の抜けた声を隊長は漏らした。
まだ走り出してから30秒も経っていない。
なのに2号機は腕をへし折られ、その手に持つ銃は引き金を引きっぱなしになったまま明後日の方向に弾が飛んでいく。
そして無惨に胸の中央、コクピットの位置を蒼い火を纏った腕が貫通していた。
訳が分からないでいる隊長に秘匿回線の通信で知らない男の声がした。
「人様の家のもん好きなだけ殺して壊して燃やしてさあ、なに逃げてんだよ?」
〜〜〜〜〜
炎の中に一度姿を隠しどう飛び出して敵を倒そうか考えている時だった。
「あ?」
かぐやが傍受した敵の通信の内容を聞いて俺は今日一番腹が立った。
何こいつら?なんで自分らがやってる事がさも正しいみたいに話してんだよ?ふざけんなよ?お前らがやってんのただの虐殺なんだぞ?なのになんなんだよこいつら、勝手に御涙頂戴みたいに流れになってさ……ムカつく。
「聞くに堪えない」
会話だけでこれなのに連中は生きてる仲間を置いて死んだ黒焦げの仲間を担いで敵は離脱する。
それを見て俺の怒りの沸点は完全に超えてしまった。
炎から飛び出すと照準を俺に合わせて撃ちまくる囮に球を蒸発させながら急接近し腕をへし折り蒼炎を纏っている腕でコクピットを焼き貫いた。
「……かぐや、こいつらが使ってた回線で通信する事は出来るか」
「容易にできます」
「ならやってくれ」
「はいーー繋がりました。いつでも話していいですよ」
通信が繋がったところで俺は口を開ける。
「……人様の家のもん好きなだけ殺して壊して燃やしてさあ、なに逃げてんだよ?」
通信に応答はない。
しかしどうでもいい。べつに俺はこいつらと会話がしたい訳じゃなくて言葉にして相手に怒りをぶつけたかったからだ。
「お前らは生かして此処から帰らせはしない。此処で無念に散っていった連中の後を追ってもらう」
突き刺したオリオンを放り捨てると今も逃げる隊長に追走し僅か数十秒で追いつき地面に殴り倒し両腕を踏み砕き蒼炎を纏った拳をコクピットに向かって振り下ろす。
「死ね」
その瞬間無視をしていた隊長機から初めて声が聞こえた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
但し断末魔だったが。
スターゲイザーがコクピットを殴り潰すと断末魔は嘘のように聞こえなくなった。
まるで底の見えない穴に落ちていったみたいに……。
敵SS、オリオン5機撃破。
残りの被弾機体や焼夷弾を撃ち込んだであろう砲撃部隊も潰そうと思ったがレーダと肉眼でいくら探しても姿はもう何処にもなかった。
〜〜〜〜〜
戦闘が終わり今もずっと燃え続ける基地の前に戻って来た。
壊して殺したオリオン5機分の弔いをするために。
ポラリスを回収し破壊したオリオンを全て今も轟々と燃え続ける基地に放り込む。
スターゲイザーから降りてこの場で死んで殺した者達に手を合わせる。
せめて来世はこんな死に方をせず真っ当に生きて死ねるようにと。
「貴方の行動は矛盾していますね。アカリ」
セットしたままにしているからか無人のスターゲイザーからかぐやの声がする。
まぁ、一人でポラリスを動かせるのだから話したとしてもなんらおかしくもないが。
そしてかぐやの言う矛盾とは俺がアニマルハートの人間がそんなに好きでなかったや殺しにきた敵を最後まで敵として認識して殺したのにこうやって弔っている事だろう。
「分かってるよ。そんな事は」
「分かっているのにこうやって弔う事に何の意味があるんですか?」
「……これは俺の勝手な考えなんだがな、せめて自分と関わったり殺した奴はその関わった奴が弔ってやるべきだと思うんだよ」
「……死者の事を思い恨みを背負うようで随分と辛い生き方ですね」
「辛いとは思わない。これは俺みたいな人殺しでも背負わないといけない義務なんだから」
燃え続ける基地に視線を向けていると夜空に昇っていく煙がまるで苦しみもがく亡者のように見えた。
いつか俺もああやって地獄で報いを受ける日が来るんだろうな……。
カチャ、とよく聞き馴染んだ音が後ろで響く。
「動くな。妙な動きをしたらその瞬間に撃つ」
後ろに立つ誰かに銃を突きつけられる。
しかし今の心境のせいか反撃よりも感傷に浸ってしまう。
はぁ、今日が報いを受ける日なのかな……。
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