第22話 天下無双

「……よくよく考えたら凄くね?」


 格納庫に居た敵を倒して次の敵へと向かう道中不意に思った事は単純にそんな気持ちだった。


「ポラリスとパワーが全然違う。それに装甲の硬さも機動力も」


 敵を倒した時も今走っている時にもはっきりと感じるこれを例えるなら……そうだな、オーバーかもしれないがまるで自転車とバイク程の違いだろうか。


「ポラリスと違うのは当然です。そして付け加えるなら凄いのはスターゲイザーだからです」

「スターゲイザーだから?」

「ええ、なしろこの機体はーーあ、3秒後に敵と接敵します」


 そう言われ二頭身少女から正面を向くと揺らめく炎の向こうに敵の影を捉えた。

 しかしそれは敵も同じだったようで銃を撃ってきた。


 スラスターを使わない時のポラリスなら当たってただろうけどこの機体ならスラスターなしでも避けられる!


 走りながら飛んでくる弾を軽い足取りだ難なく躱し敵へと距離を詰める。

 しかし敵は焦らずその手に持つ銃でスターゲイザーに殴り掛かった。


「遅い」


〜〜〜〜〜


 銃弾を避けて突っ込んで来たスターゲイザーの運動性能を前にして4号機のパイロットは一瞬焦った。


 しかしそれでも今目の前に居る敵の動きは熟練の自分から見たら一目瞭然。まだSSの操縦に慣れていない素人のそれだ。


「操縦に慣れていない今なら!」


 手に持つ銃を撃つのではなく殴るために使う。それで倒せるとは思っていない。ただ少しでも怯んで体制を崩せばその瞬間に地面に押し倒してコクピットを直接破壊すればいい。

 

 そう思っていたいのだが……。


 瞬きをしたほんの一瞬の内にスターゲイザーは視界から消えた。


「一体どこに!?レーダにはまだこの場に居ると反応がある!ある筈なのにどうして何処にも居ない!?」

 

 周囲を見るが何処にも見当たらない。

 

 4号機のパイロットは信じられなかった。

 いくらスターゲイザーの機動力が想像以上でもほんの一瞬瞬きをしている間に消えるなんて事が起こりうるなんて。


 何回も周囲を見回し焦る4号機のパイロットはふと気づいた。


 まだ自分が見ていない場所があると。


「しまった!上ーー」


 そう上だ。


 しかし見上げた時にはもう遅かった。

 上から落ちてきたスターゲイザーは頭を上げたオリオンの頭部に手刀を叩きこみ頭部どころか胴体すらも真っ二つにした。


〜〜〜〜〜


 真っ二つになったオリオンを前にして正直驚いた。


「まさか手刀でオリオンの装甲を切り裂けるなんて……」


 分かっててやった事じゃない。

 ただグーで頭を叩くより手刀の方がなんかかっこいいかなと思いやっただけだ。


 衝撃の結果に息を呑んでいるとかぐやは言った。


「現行機体に使われているアース2ndとはいえ所詮はこの程度ですね」

「この程度ってな、この機体もアース2ndは使われてるんだから滅多な事を言ってやるなよ」

「スターゲイザーにアース2ndなんて使われてませんよ」

「え?じゃあ、アースなのか?」

「アースでもありません」

「じゃあスターゲイザーは何で出来てるんだよ?」


 アース2ndでもなければアースでもない硬い金属なんて聞いた事もない。

 いや、この地球上にそんな金属が存在するのだろうか?


 そしてかぐやの口から語られる金属の名前はーー。


「ムーンライト」

「ムーン、ライト?聞いた事ないぞそんなの?」

「当然ですよ。地球上にあるのはかつて宇宙飛行士が持ち帰った僅かで国が秘匿していましたからね」

「宇宙飛行士って確か世界が滅びる前に居た人達だよな?つまりそれってーー」

「今はそんな事を気にしている暇じゃあないでじょう?早く敵を倒して此処から逃げないと増援が害虫みたいに沸いてくれる可能性があります」

「っ、それは嫌だな。なら手早くやろう」


 俺はレーダーを見て敵SS3機がこっちに近づいて来るのを確認できる。

 このままいけば敵に挟まれる事になるがぶっちゃけそれでなんら問題はないしなんなら暴れたい俺としては歓迎ーーなのだが相手の増援が予想できる以上は手早く済ませた方が得策だろう。


「さて、なごりおしいが晴れ舞台の締め、派手にいこうか!」


 月を見上げていたスターゲイザーは基地の方を向いて飛び上がる。

 かぐやはその行動の意味が分からないといった様子で俺を見て首を傾げて問いを投げる。


「アカリ、これはどんな意図があっての行動ですか?」

「意図?んー、特にないかな」

「はい?」

「たださ、星を見上げる者なんて洒落た名前のSSなんだ。なら他の連中にも見上げてもらおうかなってさ」


 そう言って基地の屋上に着地すると燃え盛る基地の周りを走るオリオン3機を見る。


 よしよし、よく見えるし向こうも気がつけば良く見えるだろう。


「馬鹿と煙は高い所が好きと言いますが本当のようですね」

「はは、かもな」


 否定しようもなく笑っているとこっちに気づいた敵3機は揃って俺の方を見上げて銃を構える。


「さて、この機体てなんか派手で強力な武装とか機能ってある?」

「ありますよ。派手で強力な特殊武装が」

「なら使ってみていいかな?」

「構いませんよ」


 かぐやはすんなり了承するとサブモニターに特殊武装のデータが表示される。


「如何ですか?」


 自身満々の一品を紹介する商人のように笑みを浮かべるかぐや。


「いいね、締めにもってこいだ」


 しかしその例えでいくと確認したこの商品は大当たりで俺も思わず笑ってしまう。

 それと同時に敵は構えた銃を連射する。


 初めてで検証はしてない。

 通常弾ならともかく対SS専用弾はどうなるのか分からない。もしかしたらなんの効果も得られず蜂の巣かもしれないーーでもどうなるか早く見たい!結果は二の次だ!いざ!!

 

「矛となり盾となれ……火鼠の衣!」


 ボイスコマンドを声高らかに叫ぶ。

 するとスターゲイザーは全身から青い炎を噴射し飛んで来た対SS専用弾を全て蒸発させてしまう。


 紅蓮の炎の中に一際強くその存在を主張する蒼炎の存在に怯んだオリオン3機。

 

 しかしもう火は灯った。

 ならば火の役目らしく対象を燃やすのみである。


 蒼炎を纏ったスターゲイザーは夜空に飛び上がり敵の中の1機へと降下する。

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