第21話 お手軽登録

「5号機どうした!応答しろ5号機!」


 通信の後5号機の近くに未登録のSSの反応を確認した隊長は慌てて再び通信する。

 しかしその通信が届く事はない何故なら通信したのと同時に5号機の反応は消失したからだ。


 これまで同じ様な事をしてきた彼等にとってこれは予想外の事態。


 であるが故に、隊長はミスを犯した。


「くっ、4号機は格納庫へ急げ!各機もだ!」

「「「了解!」」」


 それは焦燥感からちゃんと調べず急ぎ命令を下したこと。


「っ!?4号機の反応が消えただと!?バカな!格納庫に向かって10分も経っていないんだぞ!?」


 せめて2機だけ向かわして出現した反応が何であるか見るべきだったのだ。


 後悔してももう後の祭りだが。

 

 動き出した星を見上げる者は何者であっても止められはしないのだから。


〜〜〜〜〜


 スターゲイザーが起動する少し前。


 明るくなったコンテナの中で目にしたのは今まで俺が見た事も聞いた事もない未知のSSだった。


「スターゲイザー」


 不思議な響きの名前だ。

 SSの名前は全て星から取っているらしいがこの紺碧色のSS、スターゲイザーは違うように思える。


「このSSの名前は星の名前なのか?」

「違いますよ。このSSに与えられている名は星を見上げる者という意味の言葉です」

「星を見上げる者、か……星が関係するのは変わらないがまたどうして名前を変えたんだ?」

「さぁ、それは開発者にしか分かりません」

 

 それはそうだ。


 とまぁ、名前の話はもう置いといてと言わんばかりにかぐやは唐突に話を切る。


「さて、時間もありませんし始めましょうか」

「ん?ああ、さっさとこの機体を動かさないとな!」

「マスター登録ですよ。でないとスターゲイザーの封印が解けず動かす事なんて出来ませんからね」

「マスター登録、それって確か……」

「えぇ、その通りですよ。星の申し子」


 あぁ、なるほど。

 時っていうのはこのSSに乗る時だったて訳ね。


 星の申し子、その言葉の意味をマスター登録をすれば教えてくれるのだろうが今までスターゲイザーを誰も動かせなかったという話を思い出すか限りは星の申し子でないといけない訳だ。


「で、マスター登録てどうするんだ?大昔みたいに体のどっかに焼き印でも刻むのか?」

「いいえ、マスター登録は貴方の生体情報をスターゲイザーのコクピットでしてもらうだけです」

「……生体情報?」


 かぐやの言葉に不穏な気を感じた途端スターゲイザーのコクピットハッチが勝手に開く。


「マスター登録はスターゲイザーのコクピットで貴方をスキャンするだけですよ」

「うわ、お手軽」


 そうと分かると俺はとっととコクピットまで上った。

 そして横になっているスターゲイザーの全体像を上から見てその美しさに眼福した後コクピットに乗り込む。


「それでここからどうするんだ?」

「シートに座ったら私をメインコンソールの真ん中にある窪みにセットしてください。そうしたら登録のスキャンが始まります」


 そう言われて俺はシートに座るとコクピットハッチが閉まりメインコンソールがシートの下からスライドして現れた。

 そこには確かに端末がピッタリと嵌る窪みもあるので俺はそれに端末をセットする。


 その瞬間端末の画面が真っ暗になり天井から青色の光が俺の全身に照射される事10秒程して、コクピット全体が明るくなる。


『スキャンの結果対象を星の申し子と確認、これより個体名アカリをマスターとして登録します』


 突然聞こえたその声は紛れもなくかぐやのもの。しかしその口調はさっきまで俺と会話していたものとは違い機械じみている。もしかしてこれが素なのだろうか?


 などと考えているとモニターに映像が映りセットした端末に再び明るくなる。

 しかしそこには消える前には見た事もなかったニ頭身の可愛らしい少女が映し出される。


 なんだこの薄紫色の長髪に金色の目をした二頭身少女は?


「マスター登録が完了した気分はどうですか?」

「喋った!?てか、この声は……!」

「その通り、私はかぐやです」

「えぇぇー!?」


 あまりの唐突な事で身を乗り出し端末に映る二頭身少女を凝視する。

 すると二頭身少女は口元を手で隠しながらくすくすと笑う。


 何故そんな姿にと聞こうとするのだがそれは出来なかった。


「さて、敵がもう此処に着いたようですね。もう敵が居ないと思っているからかオープンチャンネルで通信までして……おっと、仲間を呼んだようですね」

「っ!」


 端末に映る二頭身少女、かぐやは困った顔で頬に手を当てながらそう言い、俺に一瞬忘れていた緊張感が蘇り操縦桿を握る。


 そんな俺を改めて見てかぐやは笑顔で問いかける。


「初めてのSSで勝てる自信はありますか?敵は6機いるんですよ?」

「……確かにな、初めて動かすのに敵はSS6機、しかも全部オリオンだ。でもなんでかな、不思議なんだけど……」


 操縦桿を握ってハッキリと感じる。

 乗り込む前にかぐやが言った世界を変えるという言葉、あれは嘘じゃないと思うパワーを感じる。


 なによりこのSSは俺が乗っても動いてくれる……なら!


「全然負ける気がしない!」


 するとかぐや瞳を閉じて満足そうに頷くとコンテナの天井ハッチが開く。


「では行きましょうか。マスターアカリ」

「ああ、分からない事あったら聞くからサポート頼むぞかぐや!」


 こうしてスターゲイザーは起動した。


 動かしてみると操縦方法はポラリスと殆ど変わらず問題なく操縦出来る。


 しかし動いてくれた興奮から棒立ちするオリオンにお構いなしに間合いを詰めるとコクピットに拳を放ち難なく粉砕する。


「次」


 レーダに反応を見て一番近くに居る敵の元まで炎の中を駆け抜けて向かう。

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