第20話 スターゲイザー

 スラスターを破壊されどうにかこうにか飛んでいるという状態で逃げる。


 しかし敵がくたばりかけの敵を見逃してくれる筈もなく後ろから追撃をくらいポラリスは片手片足を失いコクピット周辺の装甲も大分えぐり飛ばされた。


 そんな状態だというのに燃え盛る基地に辿り着けたのはかぐやのサポートと最後まで落ちず飛び続けてくれたポラリスのおかげだ。


「ありがとうな……此処まで頑張ってくれて」


 コクピットから降りてボロボロになってしまったポラリスに触れた。

 すると光っていたポラリスの目から光が消え機能を停止した。


 まるで役目を終えて眠るように……。


「もし生き残れたら絶対に直してやるからな」


 愛機にそう言うと手に持つ端末、かぐやが俺に話しかける。


「外のケフェウス3機が全滅したようです」

「……そうか」


 その言葉はつまり俺がどうしようもない程の詰みの状況に追い込まれた事を意味する。

 

「対人相手なら何人だろうが負ける気はしないがSS相手だとな、はぁ、どっか隠れる所は……あっても意味ないよな」

「えぇ、此処に私達が逃げ込んだのは見られていますので血眼になって捜すでしょう」


 なら、俺はどうしたらいいのだろう?

 このまま焼け死ぬのを待つか?それとも殺されるのを待つか?どちらも御免だ。


「なぁ、何か方法はないのか?この詰んだ状況を一発逆転出来るようなやつ」

「……」


 かぐやは沈黙した。

 

 意地の悪い事を言ったな、俺。

 いくらかぐやが高性能なAIであっても出来る事と出来ない事あるのに。


「すまん。今の言葉はーー」


 そう、だから俺は先の言葉を撤回しようとした。


「あります」

「……え?」

「あります。たった一つだけ、この状況を打開出来る一発逆転の方法が」


 かぐやははっきりと口にした。

  

 しかしどうしてか、かぐやの言う一発逆転という言葉からは一か八かの賭けの様な気持ちが一切感じられないのだ。

 

「時が、来てしまったようです。思ってたよりずっと早く」


 時?一体なんの話を……。


「これも星の定めなのでしょう……案内します。星の申し子よ」


〜〜〜〜〜


 かぐやの案内に従い進む。

 コンクリートなのに床も壁も燃え人の形をした黒い何かが幾つも倒れている道を、ただひたすら真っ直ぐと。


 この先は、確か……。


 何処に向かっているか分かってきた。

 そしてかぐやの言う逆転の方法が何であるかも。


「着きました」


 導かれ辿り着いたそこは通路以上に燃え盛る格納庫。


 火の勢いからを分かる通りとても人が足を踏み入れられる状態じゃない。


 なのにどうしてか俺が向かおうとしている場所へ続く道だけは火の手が一切回っておらずまるで視線の先にあるあれは、俺を呼んでいる様に見えた。


「……何でだろうな」


 前へと進み出す。


「あれを運んで来て、昼間に遠目で見ての2回……」


 進むにつれ後ろが炎に呑まれて退路が消えていくのが熱で分かる。


「その時は何も感じなくて中を見たと思うだけだったのに、どうして俺は今こんな事を思うのだろう……」


 立ち止まり目の前にある真っ黒なコンテナに手を触れる。


「俺のこれまでの人生はこの中にあるモノに出会う為だったんだって」


 本当に何でか分からないが嘘偽りなくその場のノリでの事でもない。心からの思いだ。


 早くこのコンテナを開けたい。


 迫る炎と熱と外から響いてくるオリオンの足音をひしひしと感じながら気持ちが抑えきれず溢れている俺に手の中にあるかぐやは語りかけてきた。


「愚問かもしれませんが、コンテナを開ける前の決まり事なので聞かせてもらいます……貴方はSSシリウスに乗りたいですか?」


 その問いに対して俺は数秒程沈黙した。

 そして数秒後かぐやの言う通り本当にこの問いは愚問だと思いながら答えを返す。


「乗りたい……俺はSSシリウスに乗りたい」


 次の瞬間コンテナの扉が開く。

 

 俺は躊躇う事なくその中は足を踏み入れる。


 すると扉は再び勝手に閉まり辺り一面真っ暗で何も見えなくなるがそれもほんの一瞬で天井にある蛍光灯に光が灯り中を照らす。


 そして中にあったSSを見て俺は言葉を失った。


「これは……」

「そう、これが、この機体こそ、世界を変える機体、その名もーー」


〜〜〜〜〜


 基地の外で戦っていたケフェウスが全てオリオンに寄って破壊され基地にも念入りに焼夷弾を撃ち込み基地に居た全ての人間を抹殺した。


 そしてアカリが基地内に逃げ込んだ後、頭部が破壊されたオリオンだけはその場で待機し他の5機は基地へコンテナと端末の捜索をする事20分。


 散開して捜索していたオリオンの1機が格納庫でコンテナを発見した。


「こちら5号機より1号機へ、コンテナを発見しました」

「こちら1号機、5号機はその場で待機。そちらへ4号機を向かわせるので合流次第2機でコンテナを運び出せ」

「了解」

 

 通信を終え炎の中で一切燃えず焦げる事のないコンテナをコクピットからただ見る5号機パイロット。


 彼とってはこれはもう慣れた光景。

 コンテナと端末を巣に放り込んでは動かせる者が居なければ燃やし持って帰る毎日なのだから。

 

ーーしかし今回だけは違った。


「え?」


 5号機パイロットは自分の目、あるいはモニターに広がる光景を疑った。


「コンテナが、開いていく……そんな、まさか、でも実際に……いや、何かの誤作動だ。その証拠に中にあるあれは動いてはーー!?」


 熱気で揺れる視界にそれが見えてしまった。


 コンテナから天に向かって伸びる2本の腕。


「あ、ああああああああああ!?」


 驚きか喜びもしくは恐怖からの叫びなのかは彼にも分からない。


 しかしどちらにしろ今その叫び声はコンテナの中から手を伸ばすそれにとっては祝福の声に他ならない。


 手を伸ばしたそれはコンテナの縁を掴み起き上がる。緑色に光る二つの目に額で同じく光る菱形のそれはまるで第三の目。

 そしてその体は美しい紺碧色。


 その名を星を見上げる者ーー。


「……スター、ゲイザー」


 彼がその名を呼んだ瞬間、立ち上がったスターゲイザーは一瞬にしてコンテナから姿を消しオリオン5号機のパイロットの意識は何が起きたかも分からず永遠に消える事になった。

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