第19話 燃え盛る基地へ

 アカリがポラリスでオリオン相手に大立ち回りを演じている様子を丘の上から数人の人影が興味深そうに観戦する。


「凄い。あの小さいの敵の弾を全部躱してる」

「ああ、しかも大きく避けるんじゃなくてごく小さい動きで紙一重で避けてる」

「それって普通に避けるのとなんか違うの?」

「はぁ?馬鹿か?違うに決まってるだろうが。あの動きは完全に機体を自分の手足のように使いこなしてる証拠だろうが」

「へぇー、だからあんなに綺麗に動けるんだ」


 3人はそう言って戦闘の様子に食い入ってるとさらにもう1人やって来た。


「報告通り……ではないが中々面白い事になっているな」

「キャプテン?」

「あれキャプちんトラックから出て来たの?」

「珍しいな。お前がわざわざ自分の目で見にくるなんて」

「当然だろう?あんな面白いのを自分の目で見なくてどうする?」

「「「確かに」」」


 キャプテンと呼ばれる人物は3人と動揺に丘の上から空を駆けるポラリスを見つめると感想を口にした。


「化け猫が駆る流れ星か、中々どうして美しいものだろうね」


 他の3人も同意とばかりに首を縦に振る。

 そして3人の中の1人がキャプテンに話しかける。


「で、俺達は今回どうするんだ?」

「そうだね、少し予想外の展開だし……様子を見よう」

「予想外の展開なのにか?」

「予想外だからだよ。それにもっと予想外の展開が起きるような気もするからね」

「それって、まさか……」

「「?」」


 何を言いたいか察した者となんの事か全く分からない2人を置いてキャプテンは笑う。


「ふふ、さぁ、化け猫と呼ばれた少年の運命はどう転ぶかな」


〜〜〜〜〜


 飛んでくる無数の弾を躱しなが進み続けるポラリス。

 

 しかし……。


「……ちっ」


 減速から加速のためにスラスターレバーを引いてもスラスターの出力が上がらなくなり始めていた。


 加減してるつもりだったが思ったより負荷が掛かったか、まずいな、この調子じゃあいつスラスターが止まるか分からない。


「腹を括るしかないかーーかぐや!弾道予測をモニターに出してくれ!スラスター全開で銃を潰す!」

「……いいんですね?」


 それをすれば此処から逃げられる可能性が無くなる、か?んな事は百も承知だ。だがだからといって本当に可能性がなくなるかはやってみないと分からない!


「構わないからやってくれ!」


 その言葉にかぐやは言葉を発さないがモニターに敵の弾道予測が表示するという行動で返事をしてくれた。


 流石は自称高性能AI、びっくりするくらい分かりやすく表示されてる!


 スラスターレバーを限界まで引く。

 

「残り100メートル、持ってくれよ!」


 スラスターを全開にした事によりポラリスは今まで以上のスピードでオリオンへと突き進む。するとオリオンは慌てて銃を撃って迎撃してくる。


 しかしその弾道は既に予想されたものであり俺の目には飛んでくる弾がはっきり見える。

 紙一重で避けつつ弾の当たらない軌道を減速せずに通りながらオリオンへと突き進む。


 そして残り距離が後10メートルになったところで見えた。


 敵は銃をリロードして発射された弾が通り過ぎた事により一瞬出来た直線コースが。


「ここだぁぁぁあああ!!」


 直線を駆け抜けポラリスの腕を頭の上でクロスさせながら敵オリオンの持つ銃に向かって突撃した。

 その結果、銃は二度と使えない程に粉砕。

 どこのパーツだったか分からない金属片が地上に落ちいく。


 これで目的完了。スラスターもまだ持つからこのままおさらばーーなんて事にはまだ早い!


「行き掛けの駄賃だ!オラァ!!」


 銃を潰した後も真っ直ぐ進んでいたポラリスの軌道を変えオリオンの頭部へと向かいメインカメラにアッパーをくらわせ破壊する。

 そしてそのまま上へ飛び抜けつつ滑らかな動きで方向転換し来た方向に戻る。


 そして後方では視界が潰れ何も見えないオリオンは出鱈目に頭部のチェーンガンを乱射し明後日の方向に進んだ挙句転倒した。


「ふぅ、その場のテンションでついやったけどあれなら追ってくる心配はもうないな。後は落ちるまで空の旅と洒落込むか……地面すれすれの飛行だけど」


 この調子だといいとこ基地から500メートル程行ったら落ちるような気もするけどやっぱりここはかぐやに聞いた方が確実だよな。


「かぐや、後どれくらいしたらスラスターは停止する?」

「……」

「あれ?おーい、かぐやさんやーい、聞こえてる?」

「……聞こえてますよ」

「そ、そっか……」


 あれ?なんか声な感じ、怒ってない?なんでだ?気のせいか?


「か、かぐや?もしかして、いや、俺の気のせいかもしれないんだけど……怒ってる?」

 

 恐る恐る聞いてみると……。


「怒ってません。ただ呆れてるだけです。どうしてあのタイミングで敵に必要ない攻撃をするんです?スラスターが限界だと言った筈なのに、どこまで愚かなんですか?」

「怒ってんじゃん!?最後の方とかもろ怒ってんじゃん!?ごめんなさい!その場のノリでやりました!」

「なんて気持ちの篭っていない謝罪。謝る気ないでしょう?」

 

 すんなりと怒っている事を認めたかぐやに弁明釈明をコクピット内で続けたところ、ため息を一つ吐いてもういいですと言って渋々機嫌を直してくれた。


 それから高度と速度が落ち始めながらも飛ぶポラリスはアニマルハート基地まで戻って来て見ると戦闘の後でボロボロになり燃えていた。


「不愉快な思い出ばっかりの所だったけどこうして燃えていくのを見ると意外にも悲しいものなんだな……」


 しかしどうしてか基地を見てると楽しい思い出ばかりが思い出してくる。これがきっと未練という感情なのだろう。


 頭を振ってこの気持ちを忘れようとしている時だった。


「っ!基地右から攻撃が来ます!避けてください!」

「っ!?」


 突然の危機迫ったかぐやの声を聞き敵を確認するより先に急いで上昇して回避しようとする。

 しかしポラリスはほんの数センチしか上がらなかった。


「こんな時にーーがっ!?」

「攻撃がスラスターに命中!推力低下していきます!」


 くっそ、スラスターも一応アースで出来てるのに壊されるって事は対SS専用弾か……!くそ、タイミング的に待ち伏せか!いやそんな事より……!


「まずい、バランスが保てない。スラスターが1つは残ってるけどこのままじゃあ、もう……!」


 機体のバランスが崩れて左半身が地面を擦りながら辛うじて飛んではいるが止まった瞬間敵にやられて終わりだ!

 ここは遮蔽物もなく身を隠す事も出来ない。


 しかしあそこなら……いや、あそこに隠れても状況は大して変わらないかも。


 するとかぐやも俺と同じ事を考えていたようで俺が決めかねていた事を進言する。


「やむ得ません……アニマルハート基地に向かってください!今は身を隠すんです!」

「っ、それしかないか!」

 

 いつ落ちるか分からないポラリスを今も燃え盛り敵の目的の1つがまだあるであろう基地へと向かわせる。

 今はただ少しでも助かる可能性を求めて。


 しかしそこで俺を待っていたものは……。

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