第18話 夜空を駆ける子熊

 ケフェウスそしてオリオン、2機のSSが俺の前に現れた。


 いつもなら歓喜していただろうが今はそんな余裕はない。

 前へ進む事は勿論だが後ろも社長室が吹き飛んだ時に通路が瓦礫で塞がってしまった。


 袋小路とは正にこの事か……。


「いやぁ、オリオンを初めて拝めて感動と言ってる場合ではないな、この状況は……」


 目の前でオリオンは腕を振り上げケフェウスに殴り掛かる。

 しかし流石はヒューマン隊か、オリオンに機体を押さえつけられながらでもなんとか腕でカードしてみせた。


 だがその瞬間、機体の性能差がはっきりと出てしまった。


「防御した腕の装甲が砕けやがった!」


 まるで瓦を割ったみたいにオリオンに殴られた箇所の装甲が砕けて地面に落下していく。そしてそれで味を占めたオリオンは攻撃の手を激しくしていく。


 飛び散る金属片に火花。

 このまま此処にいれば絶対死ぬ。しかしどうやって此処から離れたものかと思案しているとケフェウスの横腹付近に床が砕けて出来た一階に続く穴が見えた。


「俺の体形なら難なく通る事はできる……でも、あんな只中に飛び込むのは少し気が引けるな」


 下手をしたらケフェウスまたはオリオンに潰されてぺっちゃんこ。しかしこのまま此処に居ても似たような結果は明白。


「なら一か八か、行くしかない!」


 意を決して走り出す。


 集中しろ俺、生身でSSの攻撃を喰らえばそこで終わりなんだ……神経を研ぎ澄ませろ。足を止めず、駆け抜けろ!


 砕けた天井の瓦礫を躱す砕かれたケフェウスの装甲の大きな破片も躱し小さい物は銃だ撃ち落とす。


 そして一番な難関であるSSの攻撃は割れた窓から体を出し窓枠を掴んでぶら下がり躱す。再び中に戻って穴へ向かう。


 別にそのまま下に降りる事は不可能じゃない。しかしそうなったら遮蔽物がなくSSに追いかけ回される可能性があるのでやらない。


「あと、少し!」


 穴が目と鼻の先に見える。

 しかしオリオンの頭部にあるチェーンガン火を噴き出鱈目に俺が走る通路ごと横薙ぎには始めた。


 まっず!?もう窓がないから外に逃げられない!?何処に走ってももう間に合わない!?どうする!?どうすーー。


「ーーーー」


 俺でも回避出来ない攻撃が刻一刻と近づくにつれ見る物がゆっくり、ゆっくりと感じ頭の中が雪のように真っ白になった。


「まったく、心配して来てみれば世話が焼けますね」


 次の瞬間声と金属の衝突の轟音と共にオリオンが横向きに倒れる。


「な、なにが、それに今の声はーー」


 何が起きたか分からずいる筈のない声の主を探して周囲を見渡そうとするが視線は直ぐに宙に向いた。

 

 何故ならコクピットでよく聞き馴染んだ愛機のスラスター音が聞こえたから。

 

「なんで……」


 そこにはやはり声と同様にいる筈のない、俺抜きでは動く筈のない愛機が目の前で確かにスラスターを噴かして飛んでいるのだ。


 一体誰が、俺抜きでは動く事も、ましてや飛ぶ事なんて……。


「何をぼーとしているんですか?早く逃げないと死にますよ」

「かぐや!?」

「驚いてないで早くポラリスのコクピットに乗ってください。このまま脱出しますので」

「あ、はい、んじゃあ失礼しーーは?」


 俺の立っている所まで下降してきたポラリスがコクピットハッチを開けるとそこに誰も乗ってなどいないかった。


「無人?じゃあ一体どうやって動いて……」


 驚きのあまり気持ちをつい声に出してしまうとコクピットに繋がれたかぐやが呆れた様子で声を発する。


「なにを驚いているんですか?私はそんじょそこらの低脳AIではなく超高性能AIですよ?繋がってさえいればSSだろうがポラリスだろうと操ってみせます」


 わお、こいつさも当然の様に言ってくれちゃってるけどどんだけ試しても乗れない人を前にしてる事分かってるのかな?分かってないよな!


 悔しで泣きそうになるのをグッと堪えてポラリスに飛び乗る。


「かぐや、スラスターの状態は?」

「此処に来てオリオンに体当たりにするので全開一回分なので全開使用は後一回が限界です」

「だよな、ならとっとと此処からーー」

「敵SSからの射撃攻撃、来ます!回避してください!」


 かぐやの警告にすぐに急上昇すると先程まで居た場所が飛んできた弾によって粉々に吹き飛んだ。


「こっそり逃げるのはもうダメそうだな」


 攻撃が来た方を向くと少し離れた所から俺に対して銃を向けるオリオンの姿があった。

 

「かぐや、一応確認だけど敵の持ってるあの銃の弾は……」

「お察しの通り対SS専用弾です。1発でも当たればあの世行きです」

「ですよね。ポラリスの小さじゃあケフェウスみたいに何発も耐えられないし」


 さて、どうするか。

 唯一のアドバンテージだと言っていい機動力のスラスターもクラッシュ寸前、それに……。


 モニターでちょうど真っ下の様子を見ると倒れたオリオンをケフェウスがチャンスとみて馬乗りになって攻撃しているが、ダメージなんて全く入っていないようだし下手をしたら片手間にこっちを攻撃しかねない。


「ははは……これって、相当まずいよな」

「逃走成功率10パーセント以下です」


 その気はないだろうが止めとばかりにかぐやがそんな事を言うもんだから俺は苦笑いすら出来なくなった。


 しかし、だからといって諦める事なんて出来る筈ない。


「なんとしても逃げ切ってやる!」


 正面のオリオンが再び俺に向け射撃する。

 それに対して俺は下降をして回避する。しかし敵は今度は先程みたいに間をおかず連射してくる。


 ちっ、単発撃ちじゃなくて元々連射かあの銃!なら逃げ切るのにはあれを……!


「かぐや!相手が使用してる銃はポラリスでも破壊出来るか!?」

「ポラリスの拳またはスラスター全開での体当たりなら可能です」

「なら拳でやるから協力頼むぞ!」

「了解、これより音声アシストと並行し機体制御のアシストも開始します」

「おう!」


 宙で攻撃をスラスターの出力を極力抑える事を意識し避けながら敵への接近を開始する。


 機体の反応がいい?それに前以上に思い通りに動く。これが、かぐやの機体制御アシストの恩恵。


「っ、これなら!」


 なんとかなる。

 そう思いながら敵の攻撃を縦横無尽に避けながら進むにつれ、鼓動が高鳴り気分が高揚していく。


 だからかこんな状況で心から思ってしまうのだ。


 有人ロボットは良いと。


 ポラリスが青白い光を噴射して敵の弾の悉くを避け夜空を駆けるその様はまるで流れ星。


 戦っている本人達はそう思わなかった。

 しかしその場から離れて戦いに加わらず観戦する者はアカリの駆るポラリスの事をそう思ったのだ。

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