第2章 夜の帷

第24話 新人1

 長かった。本当に長かった。


 スターゲイザーを動かせる地球という愚か者達ばかりの星に選ばれた人間、星の申し子を見つけるまでの道のりは。


 私が目覚めた時に初めて目にしたのは今この星でそれなりの力を持つ愚か者達の組織の人間。

 その者達は何を思ってスターゲイザーから外されていた私を起動させたのかは理由を聞かずとも容易に推察出来た。


 その場に居た人間のどの顔を見ても驚き不愉快な笑顔を浮かべて口々に言っているのだ。


「これはすごい!金になるぞ!」

「これを解析出来れば邪魔な連中を叩き潰す力が手に入るかもしれない!」


 心底自分の運の悪さを呪った。

 あぁ、ろくでもない人間の手に渡ってしまった、なと。


 そしてそこから先は本当にろくでもない時間の始まりとなった。


 連れて来られるパイロットを全て拒んだのだが彼等はスターゲイザーをどうにか動かそうとコクピットの中を弄ろうとした。

 だから私は内緒でコクピットを開かないように閉ざし説明を求めて来た彼等に言ってやった。


 何回も資格のない人間を連れて来てコクピットまで弄ろうとするからスターゲイザーの自己防衛機能(嘘)が起動してしまった。

 このままでは最悪自爆する恐れがある。


 それを聞いて血相を変えた彼等どうすれば良いかと私に泣きつくのでこれはチャンスと思い私はある事を言った。


 大量のアースで何者にも壊せないコンテナを作り一時封印すればいい。

 そして資格を持つ者が現れたのなら私がコンテナを開ける。


 そう言った時の彼等は心底不服そうだったがスターゲイザーに無知である彼等にとっては私の言葉は何よりも信憑性があるため要望通りのコンテナを作り上げ一時スターゲイザーを完全に外界から隔離した。


 私がスターゲイザーと別れる事が前提の苦肉の策だったがこれでしばらくは大丈夫だろうと思った……しかし彼等は底無しの愚か者達だった。


「資格を持つ者が見つからないなら自分から奪わせて試させたらいいじゃないか!」

「金だけが目的の馬鹿どもはいくらでもいるしな!」

「居ても居なくても関係者を皆殺しにすれば跡はつかいから丁度いい!」


 吐き気を催すとはこの事と学んだ。


 しかし私はそう思うだけで何も出来ない。

 SS、または機械に繋がらない限り私はただ頑丈で流暢に喋る端末でしかないから。


 それから私は彼等の計画した通りに何回も何回も奪われて何回も何回も何も知らず死んでいく人間達の姿をただの端末として見てきた。


 これがただ理由された哀れな人間なら気の毒くらいには思ったのかもしれないが利用される側の人間達も結局は彼等と何一つ変わらず醜い野心に塗れてやりたい放題で見るに堪えなかった。


 これが後何回続くのだろうと思っているとその日は唐突にやって来た。


「なんだこれ?電源ボタンがないなんて不良品か?」


 今まで見てきた人間達の誰よりも強く臆病で馬鹿正直に夢を追い続ける少年と出会ったのだ。


〜〜〜〜〜


 アニマルハート壊滅から1週間。


 念願のSSに乗る事が出来た俺は今風を切って走る大型トラックのコンテナの上で空を見上げていた。


「はぁ〜、今日もいい天気だ」


 青い空に風で冷えた体を温める太陽の光がたまらなく心地いい。なんとも幸せな事か。


「よくも懲りずにこんな所で寝てられますね。その図太過ぎる神経には一周回って敬意を送りたくなります」


 ズボンのポケットに入れといたかぐやは呆れてるのか褒めてるのかそんな事を言う。


「……お前も変わってるよな。スターゲイザーに収まってんのが本来の仕様だろうにこうしてわざわざ俺と一緒に居るんだから」

「ふむ、まぁそうとも言えますがそうでないとも言えますね」

「どういう事?」

「貴方に出会う前まではスターゲイザーを封印していた事もあって無理だったのですが今は封印を解いて貴方というマスターを得た事によりコクピットにセットしてなくてもわりと自由に行き来できるんですよ」

「……ほんと出鱈目なAIだよな。お前って」

「ふふ、お褒めに預かり光栄です」


 走るトラックのコンテナの上で寝そべりながらかぐやとそれなりに楽しく会話をしているとだ。


「おーいアカリ!」

「ん、ガリンバ?どうしたんだ?」


 コンテナの天井の扉を開けて顔を覗かせて話してきた男はガリンバ。苗字はない。

 短い髪にサングラスを掛けて筋骨隆々で頬の傷がいかついが兄貴肌のナイスガイである。


「そろそろミーティングをするから戻って来い」

「あいよー」


 ミーティングじゃあ仕方ない。

 集団生活において1人が勝手してちゃあ他に示しがつかないし。

 特に俺のような新人は。


 ガリンバが顔を覗かせていた出入り口からコンテナの中に戻る。

  

 するとそこにはガリンバを含めて3人居た。


「あれ?人数足りなくないか?」

「あぁ、2人は運転の代行にもう1人は注意事項を伝えに行っている」

「ふーん、まぁ、それじゃあ仕方ないか」


 俺はとりあえず始まる前に来られたからいいやと思っていると3人の内の1人が文句ありますと言わんばかりの目つきで俺に詰め寄って来た。


「あんた、なに間の抜けた顔して大物ぶってんのよ?新人なんだから1番に来るもんでしょうが!」

「始まる前だからセーフじゃないの?」

「アウトよ!私より後に来る時点でアウト!後私より後輩だからアウト!分かった?分かったのなら敬え!そして肩を揉め!」


 この非常にやかましい女はミルト。

 金髪ロングヘアーで胸がでかい。

 因みに新人の俺でも直ぐに分かるくらい頭は悪く、色々と残念な女である。


 ガリンバは全然普通でミルトは残念な奴。

 そして今この場に居るもう1人、腕を包帯で吊った女が俺と俺に絡むミルトを見て気の毒そうな顔をしていた。

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