第9話 KAGUYA

「いやぁ!お見事!相変わらず完璧な仕事ぶりだ!」

「どうも」


 積み荷をトラックごと奪い基地まで戻って来た俺は仕事完了の報告をしに社長室に来ていた。社長は上機嫌で横に立つヒューマン隊の隊長もまた満足そうな顔をして腕を組んでいる。


 しかしそれが少し腹立たしい。


 社長がこうなのはいつの事だ。

 だがなんでヒューマン隊の隊長は此処にいる?自分の隊の面々がまだ戦場から戻ってきていないのに。


 格納庫にトラックを運んだ時俺は戻って来ていないSSハンガーを見て爺さんに聞いたのだ。するとまだ戻って来ていないと言うのだ。しかも同行していたドッグ隊やキャット隊の2人も。

 

 なんで指揮をとるべき隊長がこんな所で油をうっているの理解に苦しむ。


「それでだ、アカリ」

「……」

「アカリ?聞いているのか?」

「……へ?あ、すみません。聞いてませんでした」

「お前が上の空とは珍しい、流石の化け猫でも疲れる仕事だったか?」

「いえ、そういう訳じゃなくてですね、他の隊の帰りが遅いから気になりまして……」


 そう言うと社長とヒューマン隊の隊長は顔を見合わせてつまらなそうに顔をした。


「どうせあいつらの事だ寄り道でもしてるんだろう」

「それか廃棄処分品が逃げ出してそれで遊んでいるのかもな」

「廃棄処分品?」


 隊長の言葉が気になり俺はつい聞き返す。

 すると隊長はその口で語った。


 とても人がやる事とは思えない恐ろしい内容を。


「今日お前を殺そうとして手を怪我したドッグ隊のバカが居ただろう?あいつの事だよ。今日の仕事で誰を捨て駒にして敵の油断を誘うか考えてたらちょうどいいタイミングでお前がバカの事を教えてくれたからそいつを人間爆弾として廃棄処理を兼ねて使う事になったんだ」

「いやぁー、あれは本当に運が良かった。実はお前が部屋に入ってくる前に誰をどうやって適当な理由をつけて爆弾にするか考えてて中々いい案が思いつかなかったからなぁ、普段の行いかな、本当に助かったよ。くくく」

「「あははははははははははははははははははは!!」」

「……」


 聞くんじゃなかった。


 俺を殺そうとしてなるべくしてなった自業自得の結果ではある。しかしそんな楽しそうな声で語られるとそう思わずにはいられない。


「……失礼します」


 火に油とでもいうのか社長と隊長は今日の事で話が盛り上がりだした。

 たがら俺はこれ以上この空間に居たくないから退室した。


 それから俺は社長室から離れた所まで移動すると通路の壁にもたれかかって頭を抱える。


「いつまで、こんな所に居ないとダメなんだろうな……」

「嫌なら此処から出て行けばいいじゃないですか」


 誰も居ない筈のこの場所で女の声が聞こえた。右も左も前にも誰の姿もない。ならば誰に何処から話しかけられたのか、俺は知っていた。


 ポケットに手を伸ばし一台の黒い端末を取り出し画面を見て話しかける。


「勝手に声出すなよ。もし見つかったらどうなるか分からないんだから」


 すると端末は俺の声に反応して画面が明るくなり『KAGUYA』と表示されーー。


「問題ありません。周囲に生命反応は貴方以外ありませんので」


 喋った。

 誰と通話しているわけでもないのに端末が一人でに。


〜〜〜〜〜


 時間は少し戻り俺がトラックを奪った時の事。


 トラックを一時停めて死体を降ろし穴に埋めた後俺は運転席と助手席の間にアタッシュケースを見つけた。


「なんだこれ?なんでこんなもんがーーあ、鍵掛かってる」


 開けようにも鍵が掛かっている。

 鍵はないかと探すが何処にもなく直ぐに殺した2人が持っていたのだろうと思い至る。


 んー、折角埋めたのにまた掘り返してやるのは俺も手間だしあの人らも気の毒だしな、ここは……。


 アタッシュケースを持ってトラックから降りるとケースを地面に置き銃を向けると鍵の部分目掛けて発砲して鍵を破壊しケースを開ける。


 すると中に入っていたのは黒い端末が一台。


 一見ただの端末に見えるが俺はそれを手にとって確認してみると直ぐにわかった。これが普通の端末なんかじゃない事が。


「凄いなこの端末、アースで出来てるじゃないか」


『アース』

 ポラリスの装甲に使われる特殊金属でプラスチックのように軽く鋼鉄よりも硬い。

 加工前でも昼間に見たインパクトボムをゼロ距離で喰らっても傷一つ付かないほどに。

 余談だがSSに使われているのはアースに人為的に手を加えさらに硬くなった『アース2nd』だ。

 

 まさか端末にアースを使ってるなんて、この端末はいったい……。


 手の中にある端末に凄まじく好奇心をくすぐられた俺は電源ボタンを探す。電源を入れてこの端末がなんであるのか知るために。

 しかし電源などなく音量を調節するボタンしかなく画面をタップしたりするが反応は何一つない。


「なんだこれ?電源ボタンがないなんて不良品か?」


 どうしたらいいか分からずそんな事を言った、その時だった。


「ーー失礼ですね。誰が不良品ですか」

「ーー!?」


 銃を抜き後ろを振り向く。

 しかしそこには誰の姿もない。周囲を見回しても同じだ。


 なんだ今の声は?

 かなり近くからの声だったが人影が何処にもない。まさか俺に気配を悟らせない程の手練れが此処に居るのか?


 何年ぶりかに俺は緊張し気を巡らせる。

 足音が少しでも聞こえたら動き銃を撃てるように。


「辺りを警戒しても誰もいませんよ。居るのは貴方と私だけ」


 また声が!


「誰だ!何処に居る!」

「ふむ、誰と聞かれれば私の名はかぐや、何処をと聞かれると……貴方の右手でしょうか」

「は?なにを言ってーー」

 

 俺は右手に視線を向けるとそこには何をしても電源が入らなかった筈なのに電源が入り画面が明るくなった端末が一台。


 そしてその画面にはKAGUYAかぐやと表示されていた。


「こんにちは見知らぬ誰か、改めて自己紹介します。私の名はかぐや。人工知能、つまりAIです」


 これが俺と月の姫の名を持つAIとの出会い。


 そしてただ仕事として人を殺すだけの俺の運命が大きく変わりだした時であった。

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