第8話 星と仕事

 自分の腕を発砲して俺が嘘を言っていない証拠を見せる事で襲ってきた敵は大人しくなった。


 それから俺はこれなら落ち着いて会話が出来ると思った俺は持っていた応急キットで自分と敵の傷を手当てしから地面に腰を下ろして改めて話をはじめた。


「もう一度聞くけど、私を殺す気は本当にないのよね?」

「ない。だってお前は俺になにしても殺せない事は痛感しただろう?」

「……」

「お前が俺を殺そうとした理由はこのドローンの回収または破壊のためだよな?」


傍から壊れたドローンを取り出して見せると敵はため息を吐いた。


「はぁ……ええ、そうよ」

「じゃあさ、ある意味これが一番重要なんだが、お前は今日此処を通るらしいトラックの関係者か?」

「……違う」


 今一瞬間を置いたな。

 つまり此処に通るトラックの事は知っている……だがこの感じだと直接の関係者だというわけではないようだ。


「じゃあこいつは返す」

「え?ちょつ!?ぐっ……」


 俺はドローンを掴み上げフードの女に投げると女は慌ててキャッチするが腕を押さえてうずくまった。


「あ、ごめん。そういえば腕、俺が撃ったんだったな」

「っ、腕だけじゃなくて肋もよ……ってて、あんたが蹴った時の衝撃で二本程ヒビが入ったか折れてる」


 あー、あの時か……骨の二、三本折るとは言ったが図らずも本当になったか。


「……悪いな、加減はしつつもりだったんだがな」

「いいわよ……あんたの警告を聞かずにこうなったんたから自業自得よ」

「そう言ってもらえるとやった方としてありがたいよ」


 それから少しの間なんでもない話をした後フードの女はドローンを持って何処かへ歩いて行き後ろ姿が霞んだくらいにある事を思い出す。


 そういえば俺、あいつの顔も見てないし名前も聞いてなかったなと……。


〜〜〜〜〜


 昼間のごちゃごちゃから時間は経ちすっかり闇が空を支配する夜へと変わる。

  

 穴の中でポラリスのコクピットに座った俺はポラリスのモニターに表示された時計を見ると現在時刻は9時50分と表示されていた。


「作戦開始まであと10分か」

 

 10時になったところでアニマルハート各隊の面々が二手に分かれてトラックの護衛らしい部隊を襲撃、殲滅する。

 その気に乗じて俺はトラックを襲い運転手を始末し積み荷を頂戴し基地まで帰還……。


 今思い出しても呆れる。

 この作戦の目的はトラックのコンテナにある積み荷を奪う事なのにその人員が俺1人とは、やる気があるのだろうか?


 アルマと単独行動が出来てよかったと話していたが、いざ仕事のため出向いてみればそんな事を思ってしまう。


「個人への過剰な期待は時に失敗の元になる事を分かってないのかね……」


 不意に昼間に自分で撃って包帯を巻いた腕が痒くなった俺は包帯に手を伸ばして引き千切る。

 

 するとそこには蚊に刺されたように赤くなっている丸い跡しかなかった。


「痛みは……よし、ない。これなら仕事に支障がなさそうだ」

 

 完全に治癒された腕を動かしながらそう言っているモニターに表示された時計が10時になり仕掛けておいた対物センサーが反応し俺の手に持つ端末に通ったもののデータを送ってくる。


 送られてきたデータによると通ったのは大型のトラックが一台のみ。


「情報通り護衛は此処に居ないようだな。ならとっとと始めよう」


 ポラリスのコクピットハッチを閉じてエンジンを始動させる。

 そして端にあるスイッチを操作し視覚を夜に適した暗視モードに切り換える


「視界良好、不備は認められず」


 機体が正常である事を確認し操縦桿とスラスターレバーに手を添えた。


「よし、そんじゃまぁ、行きますか!」


 スラスターレバーを引く。

 すると背部スラスターに火が灯りシートをふき飛ばし穴から勢いよく夜空に飛び上がる。


 数百、数千メートル程の高さまで飛び上がったポラリス。俺はコクピットのモニターで地上を俯瞰する。


「暗い荒野に散らばって見える様々な光、まるで星みたいで綺麗だ」


 本当に、心からこの光景は綺麗だと思う。

 空に浮かぶ星のように自然な光も良いが人の手によって作られた光もまた違って見えていいものだ。


 ただその光の一部は戦いによって見えるものなのだと思うと少々残念でならないが、今はやるべき事をしなくては。


 モニターに標的であるトラックがズームで下を走っているのが映し出される。


「標的捕捉、突貫!」


 標的目掛けてポラリスは突撃する。

 体に霜を纏い風を切りながら。


「相対速度……よし」

 

 背部メインスラスターと機体各所にあるサブスラスターの出力を上手く調節し走るトラックのスピードに合わせる。


 次はトラックとの距離だな。


 現在ポラリスはトラックの真上を飛んでいるがその距離は降下してからブレーキをかけて止めたから50メートルとまだまだ接触できていない。


 何故ならこのまま勢い任せて取りついたらトラックは慌てて荒っぽい運転にな横転する恐れもある。だから取り付く時は気づかれないように慎重にいかなくてはいけない。


 ただし兎のように早過ぎず亀のように遅過ぎず人が歩くような速さでだが。


「接触まで後、20……10……5メートル」


 目と鼻の先まで降下出来た。

 なら次は機体をトラックの上で固定させる。


 残り数メートルまで近づいたポラリスはその両手を広げながらトラックのコンテナの両サイドを掴むとゆっくり、ゆっくりとその体をコンテナの上に乗せた。


 上に乗せて30秒、トラックが暴れる様子もない。どうやらポラリスが取り付いた事にも気付いていないようだ。


「ふぅ、着地と接触成功っと……なら此処からは生身での仕事だな」


 ポラリスのコクピットハッチを開けると俺はコンテナの上に降り運転席の方に向かって振動が伝わらないように走る。


 対物センサーでスキャンした時にトラック内にあった生体反応は二つ、運転席と助手席に座る二人のみ、残念ながらこの二人には死んでもらう……嫌だがそういう命令だから。


「天井やフロントガラスからじゃあもしもがあるし正直にドアから失礼するか」


 運転席の真上で足を止めると腰から銃を抜きセーフティーを外すと運転席側に飛び降り天井を片手で掴んでぶら下がる。

 そして足で扉を開けると呆気にとられた運転手と助手席に座る男2人。


 俺はそんな2人に銃を向けて言い放つ。


「気の毒だけど、仕事だから……ごめん」


 その言葉を最後に暗い運転席で間隔をおいて2回、小さい星のような閃光が瞬いた。

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