第7話 化け猫の流儀2

「ちっ!」


 舌打ちして敵は砕けたナイフを捨てる。

 その動作をほんの一瞬目で追いつつ早々に戻すと敵はすかさずポケットから何かを取り出し俺の方に向かって投げた。


 数は3つ。大きさはピンポン玉ほど。


 爆弾かそれともーーいや関係ない。

 間合いに入る前に撃ち落とせばなんら問題はない。


 飛んできた3つの玉を正確に撃ち落とす。

 すると玉は爆発こそしないが煙を噴き出し敵の姿を隠してしまう。


 煙玉か、でもこんな広くて遮蔽物のない場所で使うなんて直ぐに効果はなくなる筈だが……なら真の目的は別にあるな。


「例えば……」


 煙の中に突っ込む。

 すると中には黒い何かを手に持って投げようとしている敵の姿を見つける。


「な!?」

「例えば煙が俺に届いて視界が完全に遮られたところで今度は爆弾を投げ入れるとか、な」

「っ、くらえ!」


 焦ったのか敵は向かってくる俺に向けて黒い何かを投げる。

 もし爆弾ならこの距離は自分も喰らうだろうにそれにも気づかないとは愚かだ。


 これでは最悪武器を壊す前にこいつが死ぬではないか……はぁ、手間だがやるしかあるまい。


 敵に近づくのを止め飛んできた黒い何かを空に蹴り上げる。

 そして落ちてくる前に銃で撃ち抜くと爆発し爆風が吹き荒れた。


「想像通り爆弾だったな。でも思ってたのより爆発の威力があるし、もしかして装甲車相手なんかに使うインパクトボムか?」


『インパクトボム』

 SSが現れるる前ポラリスがまだ戦場の主役をしていた頃、それに対向するために作られた武器の一つで戦車や装甲車の装甲くらいならお手軽に吹っ飛ばされる驚きの一品。


 まぁ、肝心のポラリスにはまったく効かなかったず馬鹿みたいに火薬を消費するため生産数こそ少ないが対人や装甲車などには今でも有効なため現代にまで残っている。


 インパクトボム対人に使うなんて殺意強過ぎだろ。それかあいつの目には俺が装甲車かポラリスにでも見えているのだろうか?


「……どっちにしろそんな物を使うのなら死ぬまでに骨の二、三本くらい折られることは覚悟しとけよ」


 再び銃口を敵に向け宣言する。

 すると敵は一歩後ろに後ずさった。


「化け物め!」


 この声、こいつ女か。


「開口一番がそれか、あんた周りから口が悪いって言われるだろう?」

「ふん、今のを躱すような奴を人間の枠組み考えられるか。なら的を射た適切な表現だろう」

「この状況でそこまでベラベラと喋れるとは、ある意味感心する。だがこれでもその軽口は続くかな」


 足元の砂を蹴り上げ敵の顔に飛ばす。

 それに対して敵は一切対応出来ずにもろに喰らい目を押さえる。


「ちっ、目が……小癪な事を!」


 などとその場で片手で目を擦りながら銃を撃つが、狙いもつけず撃った弾など当たる筈もない。


 敵を前にして動きを止めて視界まで覆うなんてなんとも愚かな事をする。


「ふん」

「かはっ!」


 発砲音に合わせて近づいた俺は敵の腹部に蹴りを入れ声を上げながら敵は吹っ飛ぶ。

 それを見て俺は心から失望した。


 近づかれた事にも気づかないどころか受け身もとれないとはな。


「ごほごぼ!はぁ、はぁ、クソっ……!」

「打たれ強くはあるようだが、無意味だな」

「な、なにを!」

「分からないか?俺はやろうと思えばいつでもお前を殺せる。今だってそうだ。俺は倒れて目を擦っているお前に銃口を向けているしな」

「っ!」


 そう言われてようやく敵は今自分がどういう状況なのか理解したのか体を一瞬強張らせた。

 そして俺にその手に持った銃を向けるが引き金に指を掛けるより早くその銃を撃ち砕く。


「でもまだ殺さない。理由は無駄な殺生は後味が悪いしお前が何処の誰かも分からないからだ」

「……」

「黙ったて事は俺が言いたい事がちゃんと伝わったようだな。なら改めて聞く。お前はなんだ?何処の所属でどうして俺を監視していた」

「……」


 無言。


 ならばしかたない。


 銃口を頭から下げて躊躇なく引き金を引く。すると発砲音の後数十秒もしないうちに荒野に絶叫が響いた。


「うっ、ぐぁああぁぁああああぁ!?」


 敵は震えながら腕を押さえて地面の上をのたうち赤い液体が地面の上に広がっていく。


「痛いか?痛いだろうな。最初は火で炙られたように熱く、徐々にナイフで抉られていくように痛みが強くなっていく……これでさらに他の箇所に穴を開ければ、痛みはどうなるんだろうな?」

「ひっ!?」


 フードで顔を隠しても恐怖が手にとるように伝わってくる。

 怖いだろう。俺自身、そして俺が今からするであろう事が。


 だから後一押しで終わる。


「嫌だろう?なら、どうすればいいと思う?」

「ど、どうすれば?」

「簡単だ。俺の事を一切を忘れて逃げてしまえばいい。それだけでお前は俺から、恐怖から死ぬ事なく解放される」

「ほ、ほんとうに?情報を、はかせないの?」

「ああ、いらない。その証拠を見せる」

「しょうこ?」


 俺は自身の服の袖をまくり銃口を腕を押し当てる。


 そして引き金に指を掛け引いた。

 すると腕から白い煙が立ち昇り血が地面に滴り落ちていく。


「ーーなに、を?」


 訳が分からない。そう敵の顔に書いてあった。


「誰かに言ってる事を信じてもらおうとしてるんだ、こっちだってそれなりのものの頼み方が必要だろう?」

「だ、だからって」

「そうだな、だからって自分を傷つける必要があるのかってなるよな。でも俺は馬鹿だから、こんな方法しか思いつかない」

「ーーーー」


 いつの間にか敵から敵意や恐怖の気配は消え代わりに動揺の気配が強くなった。


 どうやら命を粗末にする愚か者じゃなかったようだ……しかし、腕いてぇな、後で包帯巻こう。

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