第6話 化け猫の流儀1
荒野を二本の足で踏みしめて走るポラリス。まだ目的の場所まで距離はありついつい俺は操縦桿で遊んでしまう。
それによりポラリスはジグザグに走ったり加速減速を繰り返す出鱈目な動きをする。
反応も悪くない。いい調子だ。思う通りに動いてくれる。
とても100年前に作られたレトロ機とは思わせない操縦感。これもアルマや爺さんがメンテをしてくれてるおかげだな。
「ならこっちも慣らしがてら噴かしてみるか!」
操縦桿の横にあるレバーを限界まで引く。
すると背部のスラスターが火を噴きポラリスが急激に加速し地面を踏みしめた時に感じた振動が消え代わりに体に圧力が襲い掛かった。
モニター越しに見る景色が足で移動している時に比べてものすごい速さで変化していく。凄まじい速度で機体とコクピットの俺自身が小刻みに揺れ外から聞こえる音が背部のスラスターと風を切る音のみ。
それが俺の心を高揚させるのだ。
「くうぅぅ!たまんねぇ!」
この感覚を味わってしまえば車やバイクでは満足できない。SSは動かした事がないから除外するが、今俺を興奮させるのはこのポラリスだけだ。
因みにアニマルハートの格納庫に置いてあるこいつを乗りたがる人間は誰も居ない。
理由は過去に好奇心でこいつに乗った人間が全員例外なくコクピット内でお亡くなりになっているからだ。
まったく、人の買ったもんに勝手に乗った挙句死んで呪われた機体なんて言って怖がるなんて勘弁してほしい。
注意書きとして『この機体のフル出力は常人では耐え切れず死ぬ恐れがあります。乗らないでください。危険です』と書いた立て看まで置いといたというのに。
今思えばこれもまた、俺が化け猫と呼ばれ恐れられる原因だったのかもしれない。
だがそんなのは知った事ではない。
このポラリスはSSに乗れず他の者には乗れない俺だけの機体なのだから。
とはいえだ。
別にSSに乗ることを諦めたわけじゃない。
寧ろ想いは前より強くなっている。
ポラリスでこれなのだSSならどうなのだろうと、確かめたい確かめろと日に日に強くなるのだ。
だからいつか乗りたいなぁ、SSに。
「うっし!次は蛇行飛行からのバレルロール!いってみるか!」
〜〜〜〜〜
意気揚々とポラリスを飛ばす事30分後。
「ふぅ、少し早く着きすぎたか」
目的地、今夜目的の積み荷を乗せたトラックが通る荒野。
聞いてはいたが遮蔽物が全くないな……。
物陰とかに隠れての待ち伏せはキツそうだし対物センサーを設置して少し離れた所に穴でも掘って隠れるか。
ポラリスから降りると手に持った小石程度の大きさよ小型対物センサーを荒野の真ん中に通る道路の両サイドに設置する。
これで何が通れば専用の端末に情報がくるので心配はない。
「さて、次は此処から離れて穴を掘らないとな……ん?んー、今はいいか」
再びポラリスに乗ると道路から100メートル程離れる。
昼間の待ち伏せなら目視で発見される可能性がある距離だが夜ならその心配はない。
ポラリスを使い地面の穴掘りを進める。
スコップなら硬い地面を掘るのが難儀だがポラリスのパワーなら楽々と進みものの20分程でポラリスごと隠れられる穴が完成した。
穴が完成しポラリスから降りた俺はカモフラージュと日除けのために穴の上に地面の色と同じシート被せる。
さて、後は待つだけだ。
ならこの間に自身の武器などの手入れをして万全の状態にしておこう。
そう思い懐から銃を取り出しカートリッジを抜こうとするが途中で手を止める。
「……見られてるな」
数は不明、しかし殺気なんかは感じない。だが敵でない確証もない……あまりいい状況ではないな。
なら確かめないといけまい。
ポラリスのエンジンを切りキーを抜くと穴から飛び出し地上に姿を晒す。
「視線がする方角は後ろの方の筈……だが人っ子1人居ない」
振り返って見えるのは真っ直ぐな地面と真っ青な空だけ。
となると、考えられるのはこの地平線の何処からか俺を見ている。それか別の方法を用いて見ているかだが……考えるまでもないな。
空に向けた銃の引き金を引く。
すると数秒後……。
「正解は後者だ」
空から何かが地面にガシャッと音を立てて落下する。
落ちたものの方に近づくとそこにあったのは飛行ユニットを撃ち抜かれた偵察用のドローンだった。
「空から変な音がしてたらまずそっちから疑うわな……さて、誰の何処のドローンかな、と」
地面に落ちたドローンを拾い上げ見てみる。しかし別段変わった特注品というわけでも、どこぞの組織のエンブレや名称が刻まれているわけでもない。何処でも売っているメーカー品だ。
うーん、外見で情報は掴めないか。なら内蔵メモリーを調べてみるかな。運良くその辺りは無事そうだし。
ドローンを拾い上げ穴の方に戻ろうとした時背後からこっちに向かって走ってくる音が聞こえる。
しかも敵意をしっかりと向けながら。
「はぁ、このタイミングで考えると持ち主なんだろうな……」
そう言いつつ振り返るとそこには顔をフードで隠した何者かが手に銃とナイフ持った何者かが目と鼻の先にいる。
できれば無駄な殺生はしたくないが標的の仲間である可能性もある以上はそうも言ってられないか、やれやれ。
手に持っていた銃を向かってくる者に向けて問う。
「一応聞くけど、此処で見た事を忘れる気はあるか?」
「……」
「はぁ、問答無用ね……じゃあ、死ね」
「!」
俺が完全にやる気になった事を感じたのか敵は一瞬向かってくるスピードを落とし左に動こうとするがそれより早く銃の引き金を引く。
「な!?」
放たれた弾丸は敵のナイフの刃をピンポイントで撃ち砕き敵は驚いて声を上げる。
まずは弾切れの心配のない近接武器から、次は弾が有限の遠距離武器、武器を全て奪い無力化する。
それで諦めて降伏し仕事と関係ないなら見逃してもいいがそうでなく無謀にも向かってくる愚かな者なら締めに命を奪う。
これが化け猫の流儀。
『どうか今向かってくる敵が命を粗末にしない愚か者でない事を』
その切なる願いとともに引き金に力を込める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます