第5話 出発……そして
社長からの仕事を引き受けた俺は爺さんやアルマの居るバード隊の寄宿舎に寄った。
しかし2人の姿はなくどうしたものかと思い近くで歩いていたバード隊の隊員に話を聞いてみるとどうやら二人はいま仕事場である格納庫に居るらしい。
「分かった。教えてくれてありがとう」
「あ、あぁ、終わったのならもう行ってもいいか?」
「えぇ、引き止めてすみませーー」
「じゃあ、俺はこれで……!」
「……」
鳥のくせしてネズミみたいに逃げちゃってまぁ、そんなに俺が怖いのかねぇ……。
でも、とりあえず2人がいる所は分かったわけだしとっとと用事済ませに行くか。
そうして格納庫がある基地の裏に俺は歩き始める。
物陰に隠れた数人の怯えた気配と視線を背に感じながら。
〜〜〜〜〜
格納庫に着くと鉄や油に火薬が混ざったようや匂いがし作業をしている者達はやって来た俺になど気づかず兵器のメンテナンスに集中していた。
此処は相変わらずだな、仕事熱心というかなんというか。
歩きながら様子を見ていると俺は足を止める。
「相変わらずだ。此処もこいつも……」
俺の視線の先には整備ハンガーに固定されたSS、ケフェウスが6機、此処に来た時に俺が試しにコクピットに乗った時と変わらずいい面構えをしている。
しかしそれを見ると俺は、その時突きつけられた現実を思い出してほんの少し悲しくなった。
「……おっと、感傷に浸ってる暇じゃなかった。爺さんかアルマはと……お、いた」
その場で見回していると爺さんとアルマは一番端にあるSSの整備をしていた。
「おーい、爺さん!パトリック爺さん!」
「あぁん、なんだーーて、アカリか?どうしたこんな所まで来て?」
「実は少し急ぎの用事で、アレがいりそうなんだ」
「あれ?て、まさかアレのことか?」
爺さんはほんの少し驚いたような顔をしながら聞き返すので俺は首を縦に振る。爺さんは何かを察したのか目を鋭くして俺を見た。
「いつまでに準備すればいいんだ?」
「1時間後までには」
「はぁ……また、面倒な事を押し付けられたな……少し待ってろ。アルマに手伝わせる」
「あぁ、悪いな。仕事中に」
「気にすんな。ヒューマン隊のアホどもなら兎も角、お前の頼みだ」
そう言って爺さんはSSの腕を整備しているアルマに声を掛けてSSの横にシートを被せてあったアレの準備を手伝ってくれるのだった。
しかしその作業中アルマは呆れたように溜息を漏らした。
「どうした溜息なんて?」
「大した事じゃないわ。人が親切から今日の仕事には参加しない方がいいって忠告したのに、まさか1人先行して待ち伏せして時間になったら護衛がいないトラックを無力化して目的の積み荷を奪えなんて業突張り社長からの仕事を受けるあんたを見て呆れてるだけよ」
「あ、あはは、返す言葉もない」
「はぁ、いいわよ。どうせあんたが断ろうと社長が無理矢理駆り出しただろうし」
「だろうな」
「でも少し安心した」
「安心?なんでだ?」
「あんたがヒューマン隊やドッグ隊の連中と組まずに単独で動くなら無茶な命令を出されたり後ろから撃たれるような心配がないからよ」
「なるほど、確かにそうだ」
今日のように俺は組織内で恐れられるだけでなく常に一部のアホから命を狙われている。まぁ、普段の仕事でもなんどか誤射といって殺されかけた事はあり慣れたものだが。完全な単独行動となるとその心配はないから気が楽だ。
「っし!調整完了!アカリ、エンジンを始動させてみて!」
と、そうこうするうちにアルマはそう言い俺は操縦席に飛び乗ってキーを回しエンジンを始動させる。
「動力部、エネルギー回路に異常なし関節部もおかしなところは無くシステムも異常なし、オールグリーンだ」
「当然!」
満足そうに胸を張るアルマ。
まったくたった一回の調整で完璧に仕上げるんだから大した腕だと毎回感心する。
「さて、相棒の調整は終わった事だしそろそろ行くかな」
「え?まだ30分も余裕があるのに?」
「あぁ、出来る限り余裕を持って現場入りするのが俺のポリシーだからな」
「ふーん」
正直に言ったつもりなのだがどうしてかアルマは何故か俺の事を怪し奴を見る様な目で見てくる。
「なんだよ?べつに変な事は言ってないだろう?」
「……アカリさぁ」
「な、なんだよ?」
「……早くこいつを動かしたくてうずうずしてるでしょう」
「ーー」
心の内を言い当てられ絶句しているとアルマはニヤニヤする。
「当たりみたいね」
「な、なんで分かった?」
「ふふ、一体何年の付き合いだと思ってんのよ?こちとらあんたがこんなクズの吹き溜まりでSS以外に何を楽しみにしてるかとっくにお見通しよ」
「はぁ、敵わないな、アルマには」
そう俺のSSを除いた唯一の楽しみはこいつを動かす事だ。戦うためじゃない。
ただ乗って操縦桿を握って動かす。たったそれだけの事が楽しみなんだ。
「やっぱり変かな?こういう趣味は……」
今更知られているのに改めて聞くのは恥ずかしいが聞かずにはいられない。
俺のこの趣味はアルマから見たらおかしいのだろうかと。
するとアルマは操縦席に座る俺の頬を両手を添えて優しく微笑む。
「変じゃないよ。私がアカリが好きだと思うことを変だと思うわけないじゃない」
その言葉はまるで胸から入り身体中に染み渡る様に暖かかった。
そして嬉しかった。人に、友人であるアルマにこの趣味を否定されなくて。
「ありがとう、アルマ」
そうして予想外にリラックスする事の出来た俺はアルマに調整してもらったこの『ポラリス』に乗って待ち伏せ地点に出発する。
すると見送りをしていたアルマは手を振りながら叫ぶ。
「気をつけて帰って来なさいよ!」
「あぁ!行ってきます!」
そう俺は好きなんだ。
SSもだがその元祖ともいえるポラリスという機体、ロボットが。
〜〜〜〜〜
アカリの姿が見えなくなり手を振るのをやめたアルマは憂鬱気味に溜息を吐く。
「はぁ、行っちゃったか、出来るのならアカリには私の忠告を聞いて仕事には行かないでほしかったな……」
「しかたねぇよ。いくら人殺しが好きじゃなくても此処で長く育ったせいであいつの中では仕事は何があっても行ってやり遂げないといけない事になってるんだ」
そう言って後ろの扉を開けてパトリックは入って来た。
「いつから居たのよお爺ちゃん」
「お前がアカリの顔に手を添えてキスしようとしたところから」
「してないわよ!」
「知ってる」
「っ、こんのクソジジィ……」
握り拳を作りプルプルと震わせるアルマ。
しかしアルマ何かを諦めたようにはため息を吐くと拳を下ろす。
「アカリが行ったんじゃあ間違いなくアレは此処に来るわよ。それに中身が報告通りなら釣られて連中も一緒に」
「分かってる。そのためにキャプテン達も近くの町で待機してるんだ。アレを連中に渡す気などさらさらない」
「どうなるにしろ此処にはもう居られないわね」
「遅かれ早かれ……そうだろう?」
「……うん」
パトリックの言葉に悲しそうな表情をするアルマはアカリの向かった方を黙って数分程見つめてから基地内に戻った。
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