第4話 社長からの呼び出し2

 基地内にある社長室に行く場合、少し困った問題がある。

 それはヒューマン隊の面々の部屋がある道を通らないといけないことだ。


 俺と違ってSSに思う存分乗ることの出来る彼等が羨ましいからあんまり関わりたくないというのもあるが何よりの理由はたちが悪いからだ。なのでどうか何事もありませんようにと思いながら歩く。


「あ?」

「うげっ」


 やっべ、ヒューマン隊の奴と目が合ったから思わず心の中の声を漏らしてしまった。

 聞こえてませんように。


 視線を男から逸らし事にしてその場を通り過ぎようする。


「おい待てよ!がん飛ばしといてなにす通りしようとしてんだよ?」


 ダメだった……。

 男は俺の前に立ち塞がり敵意をむき出しにする。


「……えーと、べつにがんを飛ばしたわけじゃなくてですね」

「あぁん?さっきこっちを見てただろうがよ?俺の髪の無い頭をガン見して笑い堪えてただろうがよ!?」

「いや、そんな事は微塵も思ってーー」

「嘘つくんじゃねぇよ!!」


 男は俺の胸ぐらを掴み上げると壁に叩きつける。

 しかし痛みはない。ただ足が他に着いていないのがどうにも落ち着かない。


 はぁ、ヒューマン隊の連中の大体はたちが悪い事で有名で俺もSSに乗れない事を馬鹿にされるがこんな風に手を上げられる事は経験がないな。もしかしてこいつは新顔なのだろうか?


「失礼ですけど貴方はもしかして最近ヒューマン隊に入った方ですか?」

「あぁ?そうだがそれがなんだ?話をすげ替えてんじゃねぇぞ!?」

「……なら、今回はこれを教訓に次がないようにしたくださいね。間違いは誰にもありますし」

「何を言ってやがーー」


 そう、間違いは誰にだってあるのだ。


 俺は男の左手首を強く握る。

 するとボキと生々しい音がし次の瞬間男は俺から手を離し呻き声をあげながらその場に丸まった。


 そして男の声を聞きつけて各部屋からヒューマン隊の面々が何事かと出てくる。

 俺は出て来た者を適当に選び次からは手を出していけない相手は教えたほうがいいと忠告して社長室に向かうのだった。


〜〜〜〜〜


「お、おい大丈夫かお前?」

「っはあ、はぁ、ぐっ、う、腕が……!」

「腕?腕がどうしーー!?お、お前、腕が折れてるじゃないか!?」

「ゆ、許さねぇ!あんの、ガキがァァ!」

「ガキ?」

「お、おいガキて」

「あぁ、間違いないな」


 腕を折られうずくまる男のその言葉を聞いて出て来たヒューマン隊の面々は何が起こったのか理解した。


「お前、化け猫に手を出したな」

「はぁ、はぁ……ば、ばけねこ?」

「お前も此処に入った頃に聞いただろうが、キャット隊の化け猫には絶対手を出すなって」

「間抜けが、あいつはからかわれる位なら嫌な顔するだけで許してくれるが手を出した最悪殺される事だってあるんだぞ」

「で、でも、俺達はヒューマン隊で、他はゴミだって……」

「あぁそうだ。だがな化け猫だけは違うんだよ。あいつはドッグ隊やキャット隊にバード隊、そして俺達ヒューマン隊の隊員と違って替のきく人間じゃない……化物なんだよ。あいつは……」


 そう言った隊員の怯えた顔を見てか折れた腕が痛む筈の男は一瞬痛みを忘れ自分がなにに手を出したのか思い知らされたのだった。


 アニマルハートで天下のヒューマン隊でも決して手を出してはいけないモノがあるのだと。


〜〜〜〜〜


 道中ドタバタとあったが社長室に辿り着いた俺は社長に開口早々、俺に銃を向けて発砲してきたと伝えた。


 きっと早々に俺を呼びに来た彼を殺せとでも指令が飛ぶのかと思った。

 すると何故か社長と横に立っているヒューマン隊の隊長はそれを聞いて顔を見合わせてさら笑った。


「俺は、なにか面白い事を言いましたか?」


 笑みの意味が分からず質問すると社長は笑ったまま答えた。


「いや、すまない。ただ丁度いい人材が見つかったと思ってな」

「?」

「とりあえずお前が然程気にする事じゃないという話だ。処分はこっちでやっておくから安心していい」

「……」


 これはまたなんか、ろくでもない事を企んでるな。人材と言うあたり、直ぐに殺す類のものじゃないと思うが、正直彼には同情する。本当に苦しんで死ぬ事になりそうだ。


 今頃地面の上で転がっているだろうドッグ隊の彼に同情していると社長は咳払いを一つしてから改めて話し出す。


「さて、お前を呼んだ理由だがな、頼みたい仕事があるんだ」

「仕事?」

「あぁ、お前にしか頼めない重要な仕事でな」


 嫌な頼み方だ。

 社長がこうやって言う時は大概ろくな仕事じゃないんだ。


「……その仕事とは?」

「今日の夜に仕事があるのは聞いているな」

「えぇ、トラックを襲うやつですね。でもそれがなにか?」

「実はその仕事の肝であるトラックの積み荷の奪取をお前に任せたいんだ」

「……一応聞きます。何故ですか?トラックの積み荷を奪うくらい、ヒューマン隊がSSを乗ってやれば赤子の手を捻るように簡単だと思うんですが?」

「正論だな。しかし今回、ヒューマン隊に護衛にいるらしい敵SSの相手をしてもらわないといけない。となると必然的にお前以外適任者はいない事になるわけだ」


 なんともわざとらしい。

 護衛がいようといまいが最初から俺にやらせる魂胆が見え見えだ。


 SSの力は絶大だ。

 しかしヒューマン隊がトラックの積み荷をを傷つけず奪える程の操縦技術があるかどうかと聞かれれば答えはNOだ。


 そうと分かると途端にこの会話が茶番に思えこれ以上聞く気が失せてしまいとっとと仕事を引き受け悪趣味な金色度合いが多い社長室から退室する。

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