第3話 社長からの呼び出し1

 朝食を終えた俺はキャット隊の部屋兼牢屋である建物の上で空を見上げていた。

 別段空が好きというわけでもない。ただあの暗い部屋に一日中引き篭もっているのは気が滅入るからだ。


 あとは……まさに今、黄昏たい時とか。


「……はぁ、いつからアニマルハートは血も涙もないクソ野郎の集まりになったのやら」


 朝食に向かった俺とアルマはタイミングよく社長からの今日の仕事の話を聞く事になった。


「今日の仕事は夜にあるトラックを襲ってコンテナを奪う簡単な仕事だ。トラックの運転手含め、護衛そして目撃者は皆殺し……な?簡単な仕事だろう?」


 そんな風に社長は口角を吊り上げて言った。すると隊員達はまるで初給料で買ったビールをたらふく飲んだみたいに大騒ぎでどうかしているとしか思えない。


 最初はまだこんなではなかった。

 グレーな仕事は多かったが目撃者は殺すような事をする所じゃなかった……いやまてよ。


 違うな。それは俺が勝手に美化しているだけでよくよく思い出すと最初からこうだ。


「ならグレーが真っ黒になっただけじゃないか……いやこれもなんか違うか?人殺しなんだから真っ赤が正解か?」


 空に掲げて手を見てそんな事を口にする。

 手は特に汚れているわけではない。

 しかしはっきりと見える。

 今まで殺めてきた者達の流した血が。


「はっ、今さら自分は違いますなんて都合のいい事を思っているのやら、キャット隊だ化け猫だなんて言われて命令だ仕事だって何も考えないで言われるまま散々殺したじゃないか……」


 自分のために他者の事など一切考えず正しく兵器のように。


 誰かに軽蔑されるとしたら俺もまた同じだ。


「ーーおーい!化け猫!」

「ん?」


 感傷に浸っていると下から俺の事を呼ぶ声がし顔を覗かせるとそこにはドッグ隊の隊員が居た。


 うーん、なんか凄まじく面倒くさそうな予感がしてならない。でも顔を見せてる以上は無視したらしたらで絶対余計に面倒くさいだろうし、仕方ない、話を聞くか。


「なんですか?」


 すると隊員は少し震えながら強気な態度を崩さず用件を口にする。


「呼び出しだ!今すぐ社長室に来い!」

「はぁ、社長がねぇ……」

「わ、分かったのなら今すぐ来い!」

「いいですよ。俺一人で行けますから」


 直ぐに行くのは面倒だし後数分ほどゆっくりしてから行こう。どうせろくな話じゃないんだし、リラックスしてから行ってもバチは当たらないだろう。


 そういった考えで丁重に断った。

 しかし……。


「はぁ?聞こえなかったのか?俺は今すぐ一緒に来いと言ってるんだクソガキが!」

「……」


 隊員はどういうわけか頑として俺を一人で行かせようとせず一緒に来るようにと強制する。


「えーと、呼ばれたのは俺ですよね?その俺が自分で行くって言ってるんです。なら貴方はとっとと社長にそう伝えてーー」


 パンと乾いた音が俺の声を遮った。


 そして数秒程遅れて頬がひりひりと痛くなり指でその部分を触れるとまるで水でも触れたような感触がする。

 頬から指を離して確認してみるとそこには赤い液体、血がついていた。


 は?なんで血が……。


 などと考えていると俺は聞いた。

 カチャカチャと硬い何かが小刻みに震える音を。


 そしてその後のする方を見てみるとそこには先程まで話していた隊員が両手で銃を震えながら持って俺に向けていた。

 その事から考えるとどうやら俺は撃たれたようだ。


「……どういうつもりですか?」

「お、お前が俺の言う事を聞かないから……!」 

「だから、撃ったと?裏切り行為をしたわけでもないのに?」

「っ、そ、それは……」


 最もな事を言われて口籠ってしまう。

 まぁ、語ってくれなくともどうして銃を使うような短慮な行動に走ったのか思い当たる事がある。


 アニマルハートの誰もが恐れる化け猫を自分に従わせたとなると基地内のヒエラルキーは少しだけ上がる事だろう。例えそれがどんなにしょうもない事であっても。


 色々ドッグ隊で苦労していてせいでの行動なのだろうが……銃を使ったのはいただけない。


 俺は屋根の上から飛び降り隊員の前に着地すると構えられた銃に触れ真っ直ぐ隊員の目を見る。


「ひっ!?」

「この場合、基地のルールとして俺は正当防衛が許される。だから例えあんたをこの場で殺してもなんら問題はない」

「ーー!?」


 握られている銃を伝い震えが激しくなる。


 目からはっきりと俺への恐怖が伝わってきて呼吸も荒くなっていく。

 

「だが俺はあんたを殺すつもりはないがこの事を一応社長に報告する。なにしろ発砲音が基地中に広がった事だしな。そうなればあんたは多分殺される」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「あんたが助かる方法としては俺の口を封じるか詫びをいれるかの二択だが……さて、あんたはどっちを選ぶ?好きな方を選ぶといい」


 そう言って俺は銃から手を離すと隊員に背を向けて歩き出す。


 すると10秒もしないうちに隊員は俺の方に振り返る音がした。


 そしてどちらを選んだのかというと……。


「死ねぇー!!」


 それは1番愚かな選択だ。

 謝る事をせず殺して口を封じる事を選ぶなんて。


「……はぁ、黙って謝ってれば痛い思いをせずに済んだのに」


 次の瞬間俺の後ろで音が鳴る。

 だがそれは先程の乾いた音ではなく硬い何かが爆発したような音。

 

「ぐっああああ!?て、手がぁぁあああああ!?」


 隊員の苦悶に満ちた声がする。

 なにしろ手に持っていた銃が突然暴発したのがら。


 俺が銃に触った後に銃身に詰め物がしてあった事の確認、または謝る選択をしていればこんな事になる事はなかったのに本当に愚かだ。結果的に余計に苦しむ事になったながら。


 まぁ、後の事は社長や他の奴にでも任せておこう。


 俺は一瞥する事もなくその場を後にした。

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