第10話 いい日の予感

 基地を出てキャット隊の牢屋に向かっていると俺はとてつもなく憂鬱だった。

 社長達の会話も原因あるが今の原因は……。


「はぁ、どうして俺はこんな変なもんをくすねたんたんだろう」


 視線を手元に向ける。


「こんなもんとは、もしや私の事でしょうか?」


 手に持つ端末からAIのかぐやが不服と言わんばかりに喋った。


 まったく、静かにしてろと言ったのに……。


「俺の今の状況から考えたらそれ以外ないだろう?」

「ふむ、確かにそうではありますが、そうなると私としては大変不満です。私はこの世界にあるいかなるコンピュータや単調な会話しか出来ない出来損ない低脳AIを凌駕する最高のAIなのです。こんなもん呼ばわりされる謂れはありません」

「そうだな、自己主張は一丁前だ」

「当然です……『我思う故に我在り』名を持ち確固たる人格があるのですから自己主張できなくてどうします」


 本当に自己主張の強い奴。


 俺の手の中で自信満々にそう言ってのけるかぐやに心の中で角砂糖2個分の称賛とサトウキビ畑程の呆れを送る。


 ほんと、俺はなんであの時こいつ、かぐやをくすねる事を選んだのだろうか。

 出会って自己紹介された時にこんな訳の分からない端末は早々に処分するなり社長に渡すなど選択肢はあったろうに。


 いや嘘だ。

 俺にはその時そんな選択肢はなかった。

 

 その理由かぐやが自己紹介後に言った言葉ーー。


「おや?貴方は、ふふ、面白い。まさか星の申し子とは、これが運命というものかもしれませんね」


 星の申し子。

 聞いた事も呼ばれた事もない名称。

 俺は何故かその言葉が酷く気になりかぐやに質問するが教えませんの一点張り。

 どうしたら教えてくれるかと聞いてみるとあろう事かかぐやは……。


「では私の持ち主ななってください。そして来たる時にマスター登録をしてくれるならお話ししましょう」


 このように要は身元引き受け人になれという条件を出してくすねる云々を思う以前にそうなるように仕向けてきたのだ。

 その時は何も思わなかったが今思えば一時の好奇心を優先して軽い気持ちで条件を呑んだ早計な行動だった気さえする。


 あと、もし基地内で喋ったりしたらどうなるか分からないから静かにしててほしいと3回くらい繰り返し言ったのに聞きやしないから余計に早計だったと思わされる。


 なんとなく夜空に浮かぶ星を見つめる。


「はぁ……好奇心は猫を殺すなんて言うらしいけど俺この先大丈夫なのかな」

「問題ありません。私の持ち主である以上貴方は不安とは無縁です」

「いや……俺は寧ろ結ばなくてもいい所といっぺんに悪い縁を結んだ気がするんだけど……」

「ふむ、貴方は心配性ですね。禿げますよ?」

「ヒューマン隊の連中に頼んでSSでプレスしようか?」

「理不尽です」


 などと会話しながら俺は眠るためにまだ誰も居ない牢屋に戻る。


 別働隊が帰って来ないのが気になるが俺1人ではどうする事も出来ないし明日になれば何かしらの状況の変化はあるだろう。


〜〜〜〜〜


 あぁ、またあの夢か。


 気がつくと俺は広い草原に1人立っており目の前には欲しいものであるSSが立っている。

 

 また届きもしないのにこんな夢を見るなんてキツイな……いい加減気づけとでも言いたいのだろうか?俺では夢を叶える事は、SSに乗る事はできないと?


 歯を食いしばり涙腺が熱くなる。

 だが夢だからか足が勝手に前へ進み手は前は伸びる。しかし一向に届く事はない。


 なんでこんな夢を見るんだよ……夢の中でくらい夢を叶えたっていいじゃないか!

 なのに、なのに……それすら俺には許されないのかよ!?


 涙を溢れさせながら心の中で叫ぶ。

 すると俺の顔は俺の意思と関係なく上を向く。すると空からこの夢お馴染みの星が降ってくるのが見える……しかしこの夢を見慣れた俺はこの星がなんなのかわかる事がない事を悟っていた。


 もう分かってる……いくらあの星に言い表せない期待を感じてても俺はあの星がなんなのか知る事はない。あれが来るという事はもう夢が覚めるという事なのだから。


 あと何分、何秒か後に夢は終わり現実に戻ってしまう分かりきったプロセス。


 しかし今回は少し違った。


 世界が真っ白な光に包まれて夢が終わる瞬間俺は見たのだ聞いたのだ。

 俺に向かって落ちてきていた星が割れ中から人の形をした何かの影と知らない女の声を。


「ようやく会えた……星の申し子」


〜〜〜〜〜


「ーー!?」


 布団を押しのけ体を起こす。

 そして辺りを見わたすが誰も居らずいつもの薄暗い牢屋内だった。


「今の夢は、いやそれよりもあの言葉は……」


 頭の中に昨晩聞いたばかりの筈の言葉がはっきりと浮かぶ。


「星の申し子……これは偶然なのか?それともーー」

「おはようございます。よく眠れたようでなによりです」

「!?」


 突然の声に飛び上がり構えをとる。

 しかし直ぐに視線の先にあるのが昨日手に入れた端末の中にいるかぐやのものだと思い出し構えをとく。


「突然声掛けるなよ。びっくりするだろう」

「ふむ、私は普通に声を掛けただけなので貴方が過剰に驚いたのは別の要因だと思いますが?」

「別の要因?」

「ええ、貴方が起床する瞬間心拍数が急激に跳ね上がりました。心臓の病など無いところを見ると……何か酷く動揺するような夢でも見ましたか?」

「……」

「当たりのようですね」


 なんとも、驚きの性能だ。

 対物レーダーがある事は知っていたがまさか心拍数など計測出来る機能があってカウンセリング顔負けの診断をしてしまうとは。


 勝手に人の心拍数を計測していた事に多少の文句はあるが此処は素直に自分の比を認めないと格好が悪いだろう。


「はぁ……ああ、当たりだ」

「ふふ、当然です。私が誤診をする筈ありませんから」


 まったく、本当に自己主張が強いなこいつ……。


 床に置かれた端末を拾い上げると画面を真っ直ぐ見据えて問いかける。


「なぁ……星の申し子て、なんなんだ?」

「それについては昨夜にも言った通りです。来たる時にマスター登録をしていただかないと答える事はできません」

「そうか……」


 分かってはいたがやっぱりダメか。もしかしたらと思ったんだけどな……しつこく聞いても答えは同じだろうし今は頭の隅に置いておくか。


「その時とやらが来たらちゃんと教えてもらうからな」

「ええ、それは誓ってお約束しますよ」


 かぐやの言葉が嘘が本当かはその時とやらが来た時にでないと分からないが今はひとまずそれで良いだろう。


 端末を片手に牢屋の扉を開けて俺は通路に出る。


「……」


 そういえばあの夢ってどう判断したらいいんだろうか?星が割れて中から何かが見えて声が聞こえた。進展したと考えていい夢?それとも結局正体が分からなかったから悪い夢だろうか?


「……ま、どっちでもいいか、所詮は夢だ……」


 どちらでもいい、所詮は夢。

 そんな事を言いつつ俺自身不思議とあの夢自体は悪くないものだったような気がしたのだ。


「今日はなんだかいい日になりそうな気がするな」


 外へ続く扉を開ける。

 すると俺の目にまだ太陽が昇りきっていない薄暗い幻想的な空、そしてーー。


「ーーーー」


 見るも無惨に破壊し尽くされたSS3機が基地前の荒野に倒れていた。

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