■『地球人ガイド』(3) 魔力身分証と登録名と能力値、(4) 経験値と加護と呪詛、(5) 天啓、(6) 刻印と刑罰

(3)魔力身分証と登録名と能力値


 ゲンチにおいて、魔力を持つ者は、まるでゲームのように能力を数値としてとらえることができます。

 数値化された能力――能力値、天啓、加護と呪詛、刻印、そして登録名。

 これらはまとめて「魔力身分証」と呼ばれています。


 魔力を持たない方は地球人ギルドの専用端末に触れたとき、魔力を手に入れた方はいつでも、自分の「魔力身分証」を確認することができます。


 では実際に「魔力身分証」を確認してみましょう。

 準備はいいですか?

 魔力を持たない方は、地球人ギルドの専用端末へ触れてくださいね。


 まずは視界の端に自分の「登録名」を見つけてください。

 おそらく利き手側にあると思います。

 「登録名」は、最初に魔力を得たときか、地球人ギルドの専用端末に触れたときに設定が可能です。

 本名でも良いですし、あだ名や屋号、ペンネームやハンドルネーム……なんでも構いません。

 ただし、一度決定した場合、再び地球人ギルドで変更作業をしない限りは変えることはできません。

 ここで設定した「登録名」は、地球人ギルド以外でパーティを組むときにも表示されます。

 ゲンチでの新しい生活をスタートするにあたり、お好みの名前にリセットしてください。


 さて。

 「登録名」に意識を集中すると、前述の能力値、天啓、加護と呪詛、刻印が展開されます。

 展開を閉じたい――収束したい場合は、もう一度「登録名」に意識を集中してください。

 この展開と収束は「身分証」の基本動作になるので、しっかりと慣れてください。


 この「魔力身分証」も、展開や収束の動作も、基本的にはご自身のみが閲覧可能です。

 ただしパーティを組んだ場合、組んだ相手とは互いに「魔力身分証」が閲覧可能状態となります。


 パーティ、および能力値以外の各項目については、また別項目にてご説明いたします。



 まずは能力値について確認いたしましょう。

 値が表示される能力は以下の八つとなります。


・器用

 手先の器用さや、体の柔軟性に関わる能力と思われます。

 この値が高いと、物理戦闘において自分の攻撃の命中率が上昇します。


・筋力

 筋肉を用いた行動時の成否に関わる能力と思われます。

 この値が高いと、物理戦闘において相手により高いダメージを与えられます。


・敏捷

 素早い動きや反射神経に関わる能力と思われます。

 この値が高いと、物理戦闘において相手の攻撃からの回避率が上昇します。


・頑丈

 体の丈夫さに関わる能力と思われます。

 この値が高いと、物理的なダメージ、病気や毒などへの抵抗力も高まります。

 また、物理的な怪我の回復力にもつながります。


・知力

 複数の事柄から共通点を類推したり、記憶力や暗算力、集中力に関わる能力と思われます。

 この値が高いと、魔法戦闘において自分の攻撃の命中率が上昇します。

 この値が低くても心配しないでください。能力値は増やすことができます。


・魅力

 対人的な交渉能力、威圧をする際の迫力などに関する能力と思われます。美醜を表す能力ではないようです。

 この値が高いと、魔法戦闘において相手により高いダメージを与えられます。

 この値が低くても心配しないでください。あなたの本当の魅力は数値化できません。


・知覚

 五感の鋭敏さ、地球における第六感的な感覚に関する能力と思われます。

 この値が高いと、魔法戦闘において相手の攻撃からの回避率が上昇します。


・幸運

 文字通り運の良さ、それ以外には魔力が高い生物からの興味を引く能力と思われます。

 また、精神的な回復力にもつながります。



 統計的に、上記八つの能力において、ゲンチへ召喚された時点の初期能力値は 3~18 の値であると確認されています。


 地球では見えなかった自分のスペックが数値として表示されることに対し、ショックを受ける方も少なくないでしょう。

 なのでいま一度お伝えします。

 能力値は鍛錬により上昇させることができます。

 そして、低い能力値ほど上昇しやすいのです。


 気持ちを落ち着けてください。

 これから大事な能力を二つ、ご紹介いたします。


・肉体

 筋力、頑丈、器用、敏捷、これら各能力値の合計値が最大値となります。

 いわゆるヒットポイントのようなものだと思ってください。

 物理的なダメージを受けた場合、この値が減少します。

 この値がゼロとなった場合、死亡します。

 ただし、ゲンチにおいては、死亡状態からでも魔法による復活が可能です。


 減少した肉体は一日毎に少しずつ回復します。頑丈の値が高いと回復量も多くなります。

 ちなみに構成要素である肉体関連能力値を増やせば、あわせて上昇します。


・精神

 知力、魅力、知覚、幸運、これら各能力値の合計値が最大値となります。

 いわゆるマジックポイントのようなものだと思ってください。

 純粋な魔力によるダメージを受けた場合、魔法や魔法具を使った場合、この値が減少します。

 この値がゼロとなった場合、気絶します。


 減少した精神は一時間毎にごくわずかずつ回復します。幸運の値が高いと回復量も多くなります。睡眠中は回復量が二倍です。

 ちなみに構成要素である精神関連能力値を増やせば、あわせて上昇します。


 精神は、例え魔法を覚えなくとも魔法具の起動にも多様することになると思います。

 魔法具とは、特定効果の魔法がセットされた道具のことで、生活必需品から戦闘に使用するもの、建物に設置された照明や魔法開閉ドアのような大型のものまで、地球における電気と同じくらい様々な身近で使われております。



 能力値の上昇方法、加護と呪詛については、次項にてご説明いたします。






(4)経験値と加護と呪詛


 魔力を持つ者は能力が見えるように経験値も見えるようになります。

 経験値と聞くと、集めればレベルアップという印象をお持ちの方も少なくないとは思いますが、ゲンチにおいては、その印象とは若干異なる結果をもたらします。

 経験値を集めると、能力値を上昇させたり、加護を得ることができます。



・能力経験値

 能力経験値とは、能力値を上昇させるために必要な経験値です。

 「魔力身分証」を展開して表示された各能力値について、それぞれを展開すると、能力経験値の蓄積情報が確認できます。

 能力経験値については、基本的に本人にしか見えないようです。


 地球人ガイド制作部による実験の結果、その能力を使用した際に1点蓄積されるようです。

 (現在の能力値)×(係数)だけ能力経験値を蓄積させると、能力値上昇を行うことができます。

 (係数)についてですが、(10+(現在の能力値)-(ゲンチへ召喚された時点の初期能力値))であると推測されます。


 能力値の上昇状況によってはこの(係数)がさらに大きくなるとの報告もありますし、一定時間以内に蓄積される能力経験値の限度に関する報告もあがっております。

 高い能力値ほど上昇が大変で、また能力値鍛錬の際は適度に休息を挟む必要があると覚えておいてください。



・魔力経験値

 魔力経験値、別名「加護経験値」は、加護を得るために必要な経験値です。

 魔力を持つ者だけが得られる経験値であり、この値が一定値以上貯まると、集めた魔力経験値を「加護」へと結晶化させることができます。

 「加護」の説明は後ほど行いますが、先に魔力経験値の入手方法をお伝えします。


 魔力経験値は、どうやらその生物の、肉体値と精神値の最大値合計だと思われます。

 新たな加護を得るために必要な経験値は、以下の式で求められます。


 新たな加護を得るために必要な魔力経験値=((現在所持している加護数)+1)×1000点


 国民ギルド、地球人ギルドに所属している場合、殺された場合に相手に渡る魔力経験値が半減することも判明しております。

 加護を得るための魔力経験値集めは、人ではなくモンスターを相手に集めるようにしましょう。

 また、ゲンチの神様を信仰している場合、「加護」を与えられるのですが、この信仰による「加護」については、上記必要魔力経験値には影響しないことも判明しております。



・加護

 「加護」とは、能力に対する魔力的な祝福です。能力値の後ろに(+)にて表示されます。

 「加護」を得る際、どの能力に「加護」を付与するか、決定する必要があります。


 「加護」がついた能力は、その能力を使用する際、能力値が瞬間的に1~6上昇するという実験結果があります。

 地球人ガイド制作部では、この1~6の変動する値を「ダイス」という単位で呼んでいます。


 一度付与した「加護」は、基本的には外すことができません。

 「加護」の付与に際しては、熟考を推奨いたします。



・呪詛

 「呪詛」とは、「加護」と正反対に、能力値を減少させる効果があります。能力値の後ろに(-)にて表示されます。

 「呪詛」で減少する値も1ダイス分であると報告されております。


 「加護」と「呪詛」は互いに打ち消し合ったりはせず、それぞれが上昇効果、減少効果として同時に能力値へ影響するようです。


 また、「呪詛」による減少値が、対象能力値よりも大きい値となった場合、対象者は気絶します。






(5)天啓


 人間が魔力を得たときに突然、天より降りてくるヒラメキを【天啓】と呼びます。

 天恵(ギフト)ではなく、天啓(インスピレーション)です。

 【天啓】は通常、一つから四つの、力あるゲンチ文字で構成されているようですが、地球人(日本語使用者)からは、あたかも漢字四文字に感じられるようです。


 【天啓】は、精神を消費することで、まるで魔法のように特別な効果を得ることができます。

 ただ、ヒラメキと先述した通り、受け取った方のヒラメキ次第で、例え同じ【天啓】を所持していても、使用時に得られる結果が異なることも珍しくはありません。

 【天啓】の解釈は、【天啓】所持者に大きく左右されるのです。


 例えば、【動物操縦】という【天啓】についての報告があります。

 ある方はこの【天啓】を、「動物を乗り物のように扱える魔法的能力」としてとらえ、使用しています。

 別の方はこの【天啓】を、「動物をラジコンのように操作できる魔法的能力」としてとらえ、使用しています。

 前者は、後者の使用方法を聞き、ある程度距離が離れても操縦できるようになったという話です。


 このように【天啓】は、ヒラメキにより効果が変わりますし、【天啓】への理解が深まることで、能力自体も変化することがあるようです。


 気をつけねばならないこともあります。

 心に迷いがあったり、【天啓】に対する疑問が湧いてしまうと、一時的に【天啓】が使用できなくなるという報告も受けております。

 【天啓】に限らず、何か困ったことが起こりました場合、まずは地球人ギルドへとご連絡ください。

 地球人ギルドは二十四時間、受付を開けております。






(6)刻印と刑罰


 「刻印」は「履歴書の賞罰欄」に近いもののようです。

 王国による報奨や、犯罪履歴などが刻まれます。

 「刻印」に記入が可能なのは特別な魔法だけであり、基本的には本人を含め個人レベルでは「刻印」内容の変更はできません。


 ゲンチにおいては、地球に比べ、個人情報について国家による管理体制が強固です。

 しかしこれは魔法や【天啓】の存在により、個人が素手のままで持ち得る力が、国家が無視できないレベルまで大きくなる可能性があるからです。

 逆に言えば、国家はそれだけそこに住まう者を守る覚悟を見せているということでもあります。


 また、国のみならず個人においても、取引をするとき、冒険に出るとき、結婚するとき、信頼できる相手なのかどうか事前に分かったほうがよいと思う方が多く、プライバシーよりも信用情報を提示することが重要視されているのも事実です。

 犯罪履歴が常につきまとうというのは、犯罪抑止力にもなります。

 「刻印」については、慣れていただくほかありません。

 どうかよろしくお願いします。



・刑罰

 ゲンチにはゲンチの法があります。

 主に王が法ではあるのですが、地球より持ち込まれた多くの法的概念が採用されてもおります。

 また国により、王の気分により、法は変わることがあり、そのすべてをここで網羅するのは困難かつ冗長であり、地球人ガイドの更新も大変な作業となってしまうため、ここではごく一般的で普遍的な法に一部の法に絞ってご紹介することにいたします。

(詳細が知りたい方は、王宮前広場の「新法公布看板」または、治安本局横の「法律管理所」をお尋ねください。)


※ 知っておくべき主要な法


●王を侮辱するような行為・言動は厳禁です。冗談では済まされませんし、最悪死罪にもなり得ます。


●勇者は国が定めます。勝手に勇者を名乗った場合、これは犯罪行為とされます。


●身分制度が存在します。

 王族、大貴族、中貴族、小貴族・準貴族、平民、奴隷の六段階で、地球人は平民に分類されます。

 大貴族から小貴族・準貴族までを「貴族階級」と呼びます。

 準貴族というのは、もともと貴族階級ではなかった者が、功績を認められるなどして貴族階級へ迎えられた身分となります。

 一般に、大貴族、中貴族は領地を所有し、小貴族・準貴族は、領地を所有いたしません。

 大貴族や中貴族の長子以外の子女も、小貴族として扱われます。


 婚姻や養子縁組については、原則として上下一段階の身分からしか相手を選べません。

 また、重婚は、貴族階級にのみ許されております。


 奴隷について、昔は大規模な戦争が発生した際に、敗戦国の国民が戦争奴隷として登録されることがよくあったそうですが、最近は国家間戦争は沈静化しており、戦争奴隷はほぼいないと言われております。

 現在の奴隷はその大半が元犯罪者であり、奴隷身分は婚姻が許されておりません。


●結婚前の貴族階級の子女に辱めを与える行為には厳罰が与えられます。

 過去の例としましては、貴族の美しいご令嬢をアイドルのように崇めて跡をつけたり、勝手に写真を撮影したり、子女を主人公にした卑猥な小説を販売したり、等々の行為が辱めと判断され処罰されております。

 平民は貴族階級には、みだりに近づかないのが無難です。


●正当防衛に関する法は存在しますが、平民が貴族階級に対しての正当防衛は通用しないケースが多々報告されております。

 平民は貴族階級には、みだりに近づかないのが無難です。


●ゲンチでは、その財産次第では死亡状態からでも蘇生は可能です。そのため、地球に比べると殺人に対する抵抗感が薄いです。富裕層ほどその傾向は顕著です。

 平民は貴族階級には、みだりに近づかないのが無難です。


●ゲンチで最も重い刑罰は死罪ですが、その罪の重さにより、死罪、重死罪、三重死罪、四重死罪……と、回数が増えてゆきます。

 重死罪とは、死刑執行後、最低限の蘇生処理が施され、再び死刑が執行されるものです。

 死んでも蘇生できるとはいえ、蘇生の際には肉体系能力値が減少しますし、能力値のいずれかがゼロになった場合は蘇生ができなくなります。

 命は大切にしてください。


●地球より召喚されたばかりの地球人に限り、一定の保護期間が設けられております。

 地球とゲンチとの法や文化の違いを理解するために、地球感覚で非犯罪行為だと思って行った行為がゲンチでは犯罪とされている場合に適用されることが多いです。

 私たち地球人ギルドおよび地球人が、長年の貢献と地道な交渉を続け、ようやく手に入れた権利です。皆でこの権利を守っていきましょう。

 何か事件に巻き込まれたと感じましたら速やかに、地球人ギルドまでご一報ください。

 地球人ギルドの受付は、二十四時間、開けております。


●地球より召喚された地球人に対しては、召喚者は一定期間の衣食住を与える義務があります。

 この義務が放棄された疑いがある場合、召喚者による不当な暴力、犯罪行為への協力要請、またその被害に遭った場合、迷わず地球人ギルドへ連絡してください。

 私たち地球人ギルドは、地球人の味方です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る