第11話 結婚式
「娘の佳世は十八歳や」
「でかい娘さんがいるんだな」
「足が変色してもうてな。奈良から出られへん」
「ああ……、魔都化に巻き込まれたんだな」
「そうや、もう逃げられへん。だから、何か最後に望みはないか聞いたんや……、そしたら……そしたら……」
「
顔を上げて来た田中は、
「それで? 娘の父親としては反対なんだな」
「いいや」
と言って、田中は鹿目を睨んだ。鹿目がそれとなく距離をとったのに、にじり寄ってくる。
「娘の希望は叶えてやりたい。もう助からんかも知れへんしな」
「なんだ。折れるのかよ」
結局、娘の言い分を聞いてやるなら、武くんとやらに腹を立ててもしょうがない。ここまで来たら、気持ちよく送り出してやるべきだと鹿目は思った。
「で? 俺に頼みたいことって何なんだい?」
田中正治は、板金塗装会社の社長だった。
うまく依頼を片付けることが出来たなら、鹿目の愛車のシエンタは、昨日、納車されたばかりの頃のように輝きを取り戻すだろう。
――第一優先だ。
この男の依頼が第一優先だ、と鹿目は何度も自分に言い聞かせる。
正直、奈良の行く末などどうでもよかった。
「今日の五時からな、結婚式をやるんや。といっても、
「へぇ~。それは娘さんも喜びそうだねぇ」
鹿目が持ち上げてやると、田中は嬉しそうだった。
「母親が生きとった頃のドレスを着るって言っとったから、そこそこ雰囲気は出ると思うねんけどな。牧師がおらんやろ? だから俺の知り合いの宮司に頼んだんよ。牧師の真似事やってくれって。そしたら婚礼の儀は宮司でも出来るって言われてな。じゃあ、これで一安心やわ~ってなってんけどな」
「うんうん」
「出られへんねんて」
「ん?」
「神社から外に出られへんって、さっき電話あってん」
奇妙な事を言うと鹿目は思った。その訳を尋ねる。
「その宮司さんは、何で神社から出れないの?」
「それが、分からへんねん。用意をして鳥居を潜ろうとするねんけど、気が付いたら違う方向を向いてるねんて」
「宮司さんは、魔都化の影響で身体が変色してたりはするのかな?」
「それはしてない、言うてたな」
「じゃあ、移動制限がかかるわけじゃないんだな」
「そうやと思う」
「ん――――!」
腕を組んで鹿目は唸る。
おそらく鳥居だ。
今の話に出てきた鳥居が凄く怪しい。
「田中さん。俺はその宮司さんを、間に合うように連れてくればいいんだね?」
「そうそう。五時前には来といて欲しい」
「場所を教えてくれ」
「
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