第4話 極楽橋
宮内庁の管轄下であるその機関は、
魔都化が起こらない限りは暇な職場で、人々から存在さえも忘れられる。
歴史を
魔都化に耐性があり、尚且つ神々と
全てを捨てて新しい人生を歩むよう強要された。
晴れて二年後に神使の資格を得ることに成功したが、もちろんそれは、望んだ未来ではなかった。やれる人間が少ないから、引き受けただけだ。
そして今は奈良にいる。
何もしなければ、一か月もしない内に魔都と化すだろう。
食っては寝るを繰り返していた平和な昔が懐かしいが、働かなくてはいけない。
順番が回って来たのだ。
駐車場の隣には
鹿目はため息をつくと、端末を取り出して吉田寺と入力する。もちろん、歩くのを止めて道の端で立っている。
鹿目征十郎は、軽薄だが、歩きスマホはしない男だ。
「無病息災、極楽往生ですか。苦しまずに
端末に映る文字を読みながら、鹿目は、ありがてぇ、ありがてぇと言いながら笑い出した。薄暗い石畳の道に、鹿目の気味悪い声だけが反射する。
笑いを引っ込めて歩き出すと、すぐに小さな女の子が立っているのが見えた。体操着を着ている。女の子は、鹿目を見つけるや、慌てた声を出した。
「何してんの! こっちに来たらあかんで!」
ちっちゃいのに、達者にしゃべる女の子だと鹿目は思った。
「ひょっとして千春ちゃんかな? よかったよかった! 滅茶苦茶元気そうじゃん」
ラーメン屋の女店主に確かによく似ている。
森に飲まれそうな寺の入り口付近で、顔も服も泥だらけだが力強く立っていた。
「さあ、帰ろうか。お姉ちゃんが心配してるよん~」
鹿目が一歩踏み出すと、千春は大きな声をだして、それを制止した。
「アカン言うてるやろ! この橋渡ったらアカンで!」
「は、橋って……」
見渡しても、橋なんかどこにもなかった。なのに女の子は、鹿目が橋を渡ろうとするのを必死に止めている。
石畳の端に、石の杭が刺してあって、文字が彫られていた。極楽橋。
「ん? まさか、この短いのが橋なのか」
そう言いながら、鹿目は、千春という女の子に手が届きそうな位置にまで来た。
千春は鹿目の足元を注視している。だから鹿目も同じ所を見てみる。
そこに一メートルにも満たない、小さな石のアーチがかけられてあった。
「この橋渡ったらな、もう帰れへんねん。お兄さん、絶対こっちに来たらアカンで」
「なるほど、なるほど。これが吉田寺が仕掛ける最初の罠なのか」
ひょいっと鹿目は、一足で橋を
千春は驚きすぎて、口を大きく開けたが声は出せなかった。
「さてと、千春ちゃん。本堂まで案内してくれるかな? それともここで待ってるかい?」
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