ゴール…できますか?

マスターキー

ゴールした者は誰も…

 「今回の参加者は1382人。勝者には、10億円とトロフィーが授与されます。」


 始まる…この、鬼畜なレースが。

  

 今回俺が参加しているのは、今まで誰もゴールしたことのないという、知る人ぞ知る壮絶なレースだ。それ故、テレビ中継されることもないし、データが残ったらあれだから、ビデオに録られることもない。


 「ルールは皆様ご存知のとおりです。コースはほぼ直線。コースの所々に給水ポイントがございます。コースには丘や湿地帯もありますが、車等は使わず、自分の足を使ってゴールしてください。

 コースの全長は10km。挑戦者同士の妨害はなし。コースアウトは失格。ゴールは、右のモニターに映し出されている通りのデザインです。コースには偽物のゴールもございますので、ご注意ください。」


 目の前にテレビ用のカメラを構えた人がこっちを向いている。これは箱根駅伝じゃないんだぜ?


 「そして、コースには数々の危険なトラップが仕掛けてありますが、このレースで、もし命を落としても、運営側は一切の責任を負いません。ご了承ください。」


 かつて、世界中の数々の大会で優勝し、伝説と呼ばれたランナーがいた。だが、ある日失踪した。このレースに参加したからだと言われている。それほど、このレースは鬼畜を極めてる、ということだ。


 今までにこのレースに参加した者が辿った道は2つ。死ぬかリタイアか。このレースでも、数多くの死者が出るかもな。


 「以上でルール説明を終わります。何か質問等ございますか?長引くと開始が遅くなりますので、全体で5つまでとさせていただきます。」


 質問、か…


 「はいはーい!実はゴールはありません!とかはないんすよね?」


 「はい。ゴールは確実に存在いたします。賞金も、ゴールすれば100%獲得できます。ゴールの条件は、このアーチをですので、ご注意ください。」


 ほう。ひねくれたレースではないんだな?


 「では私も。トラップは避けようと思えば回避できるものですか?」


 「はい。避けられない超常現象や、ゴール手前の一帯全てに爆弾が敷き詰めてある、と言うような、クリアを完全に阻止するようなトラップはございません。」


 ふむ…コースは全長10km。給水もできるから途中で乾ききることもない。そして、避けられないトラップもない。


 コース…なんか曖昧な言い方だな。


 「では次僕が。レース中に運営が妨害することはないんですよね?」


 「もちろんです。こちら側は一切干渉いたしません。いきなりコースを変更したりすることもいたしません。もし不安なようでしたら、お持ちのスマートフォンに本部の様子を常時表示することも可能ですが?」


 「いや、大丈夫です。」


 なるほど。本部が干渉することないと。だが、今までに99回このレースが開かれたのに、誰もクリアできないのはおかしい。今までの状況を、1から振り返ってみるか。何かつっかかるところがあるかもしれない。


 「質問は残り2回まで可能です。」


 「あのー、実は後ろに向かってスタートとかないですよね?」


 ん?一瞬ピクッ、と反応したぞ?


 「はい、このアーチをくぐってスタートとなります。」


 「あと1回質問が可能ですが…」


 「じゃあ…俺が質問する。」


 この質問をすれば、おそらく俺の考えがあっているかがわかる。


 「俺の質問は……」


 「はどれくらいだ?」


 


 「…それは、どういう意味でしょうか?コースの距離なら、先程10kmだとお伝えいたしましたが?」


 ほっほう…明らかに一瞬うろたえた。これで俺の勝利は決まった。


 「それでは、レースを開始いたします。ルールに反した場合、失格となりますのでご注意ください。それでは、ご健闘を。」


 パン!と、乾いた発砲音。他の挑戦者たちが一斉に前へ走り出した。俺はそれを、見送った。


 


 



 「どうされました?スタートしないのですか?」


 「テレビ中継されないはずなのにこちらへ向けられたカメラ。あれは俺達を撮っていたのではなく、この〈スタート〉と書かれたアーチの裏を撮り、モニターに繋いでいたんだ。」


 「…」


 「そしてあんたは、ルール説明のとき、コースの長さは言ったが、〈ゴールまでの長さ〉は言っていない。それに、トラップも〈ゴールまでに仕掛けてある〉という言い方を一切していない。つまり…」


 俺はアーチをくぐり、振り返る。


 「このアーチがゴールだ。」


 そこには、「ゴール」と書かれていた。


 「ほんじゃ、ゴールさせてもらうぞ。あえて逆走なしって言わなかったのも、これが理由だろ?」


 俺は、アーチをくぐ…



 ジャキン!






 

 「このことに気づいた挑戦者は何人もいます。ですが…ゴールにはトラップが仕掛けてられてない、とは申し上げていません。惜しかったのに、残念でした。体が前後に真っ二つになった状態でも、アーチをくぐりきればクリアです。もし生きているなら、頑張ってください。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴール…できますか? マスターキー @walker1001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ