第19話

「ふっ。ようやく来たようだな……我が契約者よ」

「何を言っているの?」

 僕の一言を倉橋さんはバッサリと切り捨てる。

 ……なんでぇ。かっこいいじゃん。契約者って言葉ぁ。

「待たせたのはごめんだけど……」

「別にそれはいいよ。倉橋さんだって遅れてきたわけじゃないし。僕が楽しみで少し早めに来ちゃっただけだから」

 本当はさっきの一言を言うために一時間前から待っていたのだけど。

 ……あまり感触は良くなかったけど。

 今日は約束の日!

「さぁ、約束の地へと向かおうか!」

 楽しみにしていた僕が大好きなゲームのリアイベ、リア充イベの日だった。

 このイベントでは様々なグッズ販売、食料品の販売だけでなく、ホールを使ってのライブまで行われる大掛かりなイベントなのだ!

「ふふふ、約束の地って大げさじゃない?」

「何を言うか!我が契約者よ。約束の地は約束の地であろう?天命より下されし契約は約束の地の元に終結し、回帰する……」

 回帰って言葉かっこいいよね。

 どんな意味なのかは知らないけど。

 回って帰る?……あれ?迷子になって帰ってきちゃったってこと?……ほえ?もしかして回帰って言葉びっくりするくらいダサい?

 使うのは控えよ……。

「……すごいわね」

「ん?」

「なるほど……これが厨二病ってやつなのね……」

「違う!」

 むぅ!

 僕をあんな痛くて情けない奴らと一緒にするなし!

 あいつらの言っていることに根拠はないけど、僕には根拠があるし!僕の持つこの力が神から与えられた力であるということの!

「はいはい、あなたの扱い方は佐藤くんから聞いているからね」

「扱い方って何よ!酷くない倉橋さん!まるで僕をものみたいに!」

「ははは、ごめんなさいね。それで今日私達は恋人なのでしょう?それなのに倉橋さん呼び名なのかしら?気軽に下の名前で呼んでもらっていいのよ?」

「ふぇ!?」

「あら?そちらのほうが自然でしょう?」

「……か、か……神奈」

 僕は恐る恐る倉橋さんの下の名前を呼ぶ。

 なんで!?

 なんで女の子の下の名前を呼ぶだけでこんなにも緊張するの!?

「ふふふ、よろしい。じゃあ行きましょう?」

「うん!行こ!」

「はい」

「ん?」

 僕は自分の方に向けられた倉橋さんの手を見て首を傾げる。

「えい」

 よくわからなかったがとりあえずはたき落とした。

「えぇ!」

 倉橋さんはそんな僕の行動に驚きの表情を見せる。

「手を繋ごってことだよ!恋人らしくするならそれがいいでしょ?」

「あっ……ご、ごめん!」

 僕は倉橋さんに頭を下げる。

「もう!……ふふふ、はい」

 倉橋さんは再び僕へと手を差し伸べる。

 僕はその手をしっかりと握った。

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