第7話
だけど一週間経っても目標どころか、生活全てに対して張りを失っていっているような状態だった。
こんなにもショックを受けていることが自分でもショックだった。
彼女が対応してくれたのはあくまでセクキャバの客としてだ。結局のところ自分はそのサービスに心を
だけど翔太の心はずっとポッカリと穴が空いたような状態だった。
明らかに生活は乱れていった。
食事は食べたり食べなかったりになった替わりに毎日酒を飲むのが習慣になった。量はそれほどでもないが、飲まなければ寝られないようになった。昼夜交代制の変則的な勤務体系がその傾向を加速させたのかもしれない。
仕事にも影響は出た。それほど大きなミスをしたわけではなかったが、仕事に向かう態度はヤケクソ度が増していったし当然それは周りにも伝わる。同僚からの印象は悪くなり、孤立が深まり、酒が深まる……という負のスパイラルを加速させていった。
ある休日の朝、翔太は職場からの電話で目覚めた。時刻は午前九時近くであった。
二時間前まで今日も一人家で深酒をしていたので電話には出なかった。電話越しとは言え、酔いが残った状態で会社の人間に接して印象を悪くするのは得策ではないからだろうと判断したからだ。
だが少し経ってから電話の意味に気付いた。今日は夜勤ではなく、昼勤の日だったのだ。
一瞬で酔いが冷め、顔から血の気が引いていくのが自分でもはっきりと分かった。 すぐに電話を折り返し職場へと自転車を飛ばした。
怒鳴られることを覚悟していたが、先輩社員たちは驚くほど淡々とした態度だった。その日は仕事が忙しかった為かもしれないが、あまり翔太の遅刻に対して興味が無さそうだった。翔太は拍子抜けしたような感覚を覚えたが、とりあえず仕事には全力で取り組んだ。
もしかしたら、昼勤と夜勤を間違えるということは先輩社員にもよくあるミスで、それほどお咎めの対象にはならないのかも知れない……と希望的観測を自分に言い聞かせはしたが当然そんなに甘くはなく、仕事が終わると社長に呼び出された。
事務所に入り社長と向き合った瞬間に、これはまずい……と翔太は察した。
いつも温厚な笑顔の社長が見たこともない渋い表情をしていたのだ。
「大橋君、言いにくいんだけど……辞めてくれないか?」
一言一言を置いてゆくような言い方だった。
翔太は文字通り目の前が真っ暗になりかけた。こう言われることも想像はしていたが、それは最悪の想像をして自分に予防線を張るためだけのものだったはずだ。実際に起こって良いようなことではない。
「社長すみませんでした!もう二度とこんなことはしませんので、どうかクビにだけは……!」
翔太は必死の思いで社長に頭を下げた。ここで職を失うのと、たとえ同僚全員からバカにされてでも残るのとでは雲泥の差がある。間違いなく今までの人生の中で一番必死になった。
(……これが俺の人生で一番の必死になったことって、惨めすぎねえか?)
「大橋君良いんだ、顔を上げてくれ。俺は社長で君は会社に雇われている人間だけど対等な人間だ。とりあえず顔を上げて対等に話をしよう」
社長の言葉が自分にとって良い意味なのか、悪い意味なのかは分からなかったが、言われた通り顔を上げ社長と向き合った。
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