第6話
そしていよいよ三回目の日が来た。
ここ数日は仕事のミスも有り気分的にあまり良くなかったので、少し日をずらそうかとも思ったが、彼女に会えば気分も良くなるだろうと思い、自分が立てた予定通り店に行くことにした。
「こんばんわ、夏海さんを指名でお願いします」
三回目ともなればボーイとの会話も慣れたものだ。
「……お客様すみません。夏海さんは居ないんです」
「え?お休みってことですか?」
前回彼女は『月、火曜日は休みで他は出勤してるからいつでも会いにきてね!』と言っていた。今日は水曜日だ。
「いえ、夏海さんは先週で辞めてしまいました」
「…………え?何故ですか?どこか他の店に移ったとかですか?」
「いえ……お客様だからお話するのですが、この話はオフレコでお願いしますね……」
そう前置きすると、ボーイは翔太に耳打ちして「家庭の事情で地元に帰られたんです」と教えてくれた。
そうしてくれたのは、翔太の表情に何か悲壮なものを感じたのかもしれない。
翔太から顔を離すとボーイは営業スマイルに戻った。
「夏海さんの他にも可愛い娘、綺麗な娘いっぱい居ますよ。今日はお時間10分サービスしておきますからどうですか?」
……丁寧に対応してくれたボーイには悪いと思ったが、翔太はとてもそんな気分にはなれず、そのまま帰宅した。
電車に乗って誰かと物理的に近付くのも嫌で、とりあえず徒歩で新宿から家の方向に向かった。
何故もっと多く来店して会っておかなかったのだろう? 別に本気で彼女と付き合えるとは思っていたわけではないが……この三ヶ月彼女に会うことだけを楽しみに生きてきたのだ、それがこんな形で奪われるとは、あまりに残酷すぎやしないか?(……ん?)
翔太は自分が進めた思考に少し怖くなった。
唯一の生きる希望が恋ですらないのか?セクキャバに来店し、嬢のサービスを受けることだけが生き甲斐の人生?
(あれ?なんか俺の人生って客観的に見たら惨め過ぎねえか?)
まあ世の中にはそういう人間も居るだろうとは思う。いや、もっと絶望の中を生きている人も居るだろう。
(……え?でも、それが俺なのか?)
翔太は自分がそこまで底辺の人間だとは思っていなかった。
翔太はまだ二十六才。身体は健康だし、体力は人よりもある。勉強に力を入れていたわけではなかったが、学校の成績もどちらかといえば良い方だった。様々な巡り合わせが悪くて、フリーターを経て今は工場の夜勤の仕事という仕事をしているが、自分の能力を見出だしてくれる人間と出会えば、必ずこの状況は抜け出せるだろうと信じていた。
(……それが何でこんな人生なんだろう?)
たかがお気に入りのセクキャバ嬢が退店したくらいで、翔太は自分の人生が全て否定されたくらいの気持ちになって帰宅した。
その日は9パーセントの缶チューハイを死ぬほど飲んだので、夜中に嘔吐した。
次の日は飲み過ぎて気持ち悪かったが、普通に出勤して仕事をこなした。
むしろ飲み過ぎたという事実をきっかけに「何を自分はバカをしていたんだ、とっとと次の目標を見つけて生きていこう!」という風に前向きに気持ちを切り替えられた気がしていた。
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