第39話 子話4

*作者の体調不良のため、小さいものを書きます。

*時系列はぐちゃぐちゃなので、あんまり気にしないでください。


1. 駆け巡る


吹奏楽部に入部して、思春期特有の壁にぶち当たる。それは間接キス。


もちろん私も最初にぶち当たり、色んなことがあった。


新入生たちもその壁にぶち当たっているようで、見ていて大変そうだなあと思った。


「1年生たち、間接キスで照れてるのめっちゃ可愛いですね。」


目の前で繰り広げられる1年生の可愛いやり取りに、私は譜読みをするという口実でサボっていた。


隣には奈良先輩がいた。先輩はサックスを丁寧に拭いていて、リードの細部まで気にしていた。


きっと集中しているのだろう、邪魔をしたらいけないと私は立ち上がろうとしたが、立てなかった。


スカートの裾を奈良先輩ががっちりホールドしていて、立つにはスカートを脱ぐしかなかった。


「君が言えたことじゃないだろ。1年の時、君だってすごい顔してただろ。」


きゃいきゃいしている1年にも届くような声でそれを言った先輩は、悪い笑顔を浮かべていた。


1年は何のことか、と私と先輩の方に来た。


「来ちゃったじゃないですか!」


「この際だから、教訓として話したら?」


「もう~。」


1年生の好奇心とキラキラした目に負けて、私は初めての間接キスの話をした。


反応はどれも面白く、きゃーきゃーしていた。


「だから、なぎさんいつも気にしないんですね~。」


しゅんが放ったその言葉で、奈良先輩の手が止まった。


「気にしないって?」


「ちょ、余計なこと」


「話して。」


「なぎさん、いつもテニスの時、あんまり水分補給の時に間接キスとか気にしないから、俺も友達も不思議だったんすよ~~。」


ああ、しゅんのすけ。その笑顔を可愛いと思ってる。でも今は殴りたい。


「へえ…。」


奈良先輩はサックスにリードを取り付け、私に渡した。


「1年経つし、音くらい出るんじゃない?」


言葉の意味に裏がありそうだったが、断れるような雰囲気でもなく、一番最後にサックスに触った時のことを思い出しながら、そのサックスに口を付けた。


『ぴよ~』


腑抜けた音に、その場にいた人全員が爆笑していた。


笑えるならよかった、と一安心し、サックスを返そうとしたらやってはいけないことをやらかした事実に気づいた。


「やっべ、先輩。私やらかした。」


「なに?」


私は校則違反だった色付きリップをゴリゴリ塗っていたことを忘れて、吹いてしまったのだ。


笑っていた1年も私のやらかしたことの重大さと奈良先輩が怒るのではないかと恐々としていた。


「あ~、色付きだったか。」


「先輩、ごめんなさい!弁償するんで!!」


「いいよ、消耗品だから。」


「でも…。リードだって安くない…。」


「じゃあ今度”手伝い”頼むわ。」


「はーい。」


落ち込む私に、奈良先輩は軽く頭をぽんぽんし励まし、1年生に伝えた。


「こうなるから、校則違反はほどほどにな。」


「やるなら、スカートを切るくらいまでにしておき…。」


「この子は全身やってるからな。」


1年生はギリギリを攻めずに少し力を抜くことを知ったようだった。



2. ねえ


「先輩、どこまでなら許せます?」


奈良先輩と2人きりの倉庫で私は質問した。


「何についてのどこまでなの?」


「いや、私校則違反してるから…。」


先輩は納得がいったようで、少し考えていた。


「タトゥーとかは嫌。」


「それは怖いから無理です。」


「たばこもな…。」


「父がヘビーなんで気持ちわかります。」


「君、お酒はやってないよな。」


「さすがにやってないです。」


「う~ん、じゃあそのくらいかな。」


「思ったより先輩が緩くて良かったです。」


「まあ、違反なんてしない方がいいけど、君の場合はどこかで抜かないとな。」


学年が変わると共に、見た目が一気に変わった私のことを普段通りに見てくれるのは奈良先輩。


「ねえ、先輩?」


「なに?」


「ピアスは?」


先輩は悩みながらこちらに近づいてきた。


「え、なんですか?」


私の三つ編みをほどいて、耳たぶを触る先輩に、私は心の中で「医者?」とつっこんだ。


急に耳たぶに痛みが走り、私は声を出してしまった。


「痛っ!!!」


先輩は悪びれもなく、私を諭した。


「これで痛いようなら、ピアスの穴が安定するまでもたないよ。」


「それに、ピアスまでしたら即畳部屋(生徒指導室)だぞ。」


「君は成績と性格で見た目を全カバーしてるんだから。」


私は理路整然と詰められ、少し落ち込んだ。


「そのままがいいよ。」


声が聞こえると同時に、目の前が暗くなり、私はそのまま目を閉じた。



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