第38話 小話3
※腰痛のため、短い話を書きます。
1. お揃い
「奈良先輩のサックス、かわいい柄入ってますね〜。」
どうやらカスタムで、金属加工を施したものらしい。
お花のような柄が綺麗に入っていて、光が当たると輝いてとても美しい。
「いいなあ、自分の楽器カスタムできるって。」
「でも君はスティック、すごい持ってんじゃん。」
「そうですけど〜…。」
私はスティックを集めに集めて、10セット以上は常備していた。
楽器屋さんに行けば、新商品のスティックが置いてあり、木の種類や太さ、先端の形など様々な種類があり、私は毎回1セットだけ買うことにしていた。
ある日、楽器屋さんに行っていつものようにスティックコーナーを確認すると、私はあるスティックに魅了されてしまった。
スティックのほとんどをタトゥーのように柄で埋めてあり、その柄がとてもかっこ良いものだった。
私は一目惚れして、即購入。
早速休み明けの部活の時に持って行った。
「奈良先輩、いいものがあるんですよ〜っ!!」
「今日はテンション高いじゃん。どうしたの?」
サックスを綺麗に拭く手を止めてこちらに視線を向けてくれた先輩に、私は自慢のスティックを見せた。
「これ、めちゃめちゃ良くないですか!?一目惚れして買いました!!柄がいいし、木の種類も良いし、太さもちょうど良くてほんと良いんですよ〜っ!」
「良かったじゃん。」
「他の人にバレたくないので、奈良先輩と私の秘密で!」
「要するに、仁に知られなければ良いってこと?」
「はい!」
「分かった。」
先輩はまたサックスを持ち、綺麗に丁寧に拭いていた。
柄が入っているサックスと柄の入ったスティックなんて、なんかお揃いみたい〜。先輩のがお花なら私のは蝶々みたいだもんな〜。だから一目惚れしたんだわ。
私は心の中でひとりごとを呟いた。
「…花の蜜は甘いか?」
「えっ?」
「君は花に誘われた蝶なんだろ?」
「もしかして、私…。」
「全部漏れてた。」
「忘れてください!」
「良いじゃん。お揃いってことで。」
先輩は軽く私の頭をぽんぽんとさすり、サックスを持って部室を出て行った。
2. にんじん
目の前のお弁当箱の中に、どうしても相性の悪い食べ物が入っていた。
オレンジ色の甘く味付けされたそれは、ハンバーグの横に鎮座していて、まるで自分が王様かのように振る舞っていた。
「神奈川ちゃん、お弁当見つめて何してんの?」
奈良先輩に声をかけられて私はハッとした。
「いや、別に…。」
「手も止まってるし、なんか具合でも悪いの?」
「いや、元気ですけど…。」
大好きなハンバーグとブロッコリーをとっておいたはずなのに、ここに来て大嫌いなにんじんを目にして、私は少し萎えていた。
「少し、見せて。」
先輩は私のお弁当箱を見て、微笑んだ。
「にんじん、嫌いなのか。」
私は声を出さずにうなずいた。
「じゃあ、俺の嫌いなものと交換しよう。」
「先輩の嫌いなものってなんですか?」
先輩は無言でお弁当とは別になっていたタッパーを出して私に渡した。
「果物。」
「先輩、果物嫌いでしたっけ?」
「甘すぎるのはちょっとな…。」
色とりどりのフルーツが入ったそのタッパーに手をつけるのはなんだか先輩のお母さんに申し訳ない気がして、私は返そうとした。
「良いです、にんじん食べるから。」
「お互い、苦手なものを食べずに済むし、言わなきゃお互いの親もわからないよ。」
「でも…。」
「ほら、早く。」
先輩は私にタッパーを持たせて、私のお弁当箱からにんじんを持っていった。
「これくらいの甘さがちょうどいいよ。」
「にんじん、甘くない。」
「果物、食べてみたら?」
先輩のお母さんに心の中で謝りながら、私はりんごをひとかけら食べた。
「あま〜。うま〜。しゃきしゃき〜。あまい〜。」
もっと気の利いたコメントがあっただろ、と自分にツッコミを入れたが遅かった。
「それだけ褒めてもらえりゃ、りんごも満足だろうよ。」
私は隠してあったこんにゃくゼリーを先輩に渡した。
「これ、果物のお礼です。パーカスって基本何食べても平気だからいつも持ってるんで…。」
「ありがたくもらっておくわ。他のやつには言うなよ。没収対象だからな。」
「また一つ、秘密が増えましたね。」
帰って母親にお弁当箱を渡したらすぐに返事が来た。
「なぎ、あんたにんじん入れたのによく食べたねえ。」
「これくらいの甘さがちょうどよかったよ。」
色んな意味で。
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