第27話 新入生がやってきた

*ソロコンの本番のことをまるっきり思い出せないので、新年度章スタートです。


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私も先輩も学年が上がり、新1年が部活を決めるころになってきた。


私はいじめに耐えられず、校則違反を繰り返した。


髪の毛を染め、茶色にした。

スカートを30センチ切り、指摘されてもギリギリ指摘できない丈の長さにした。

靴の色は白ではなくグレーのくるぶしが見えるくらいのものにした。

(全部、両親に許可を取り、勉学に励むことを条件に許してもらった)


それでも咎められなかったのは、成績といじめの現状があるからだろう。


やってることやってれば多少羽目を外しても大丈夫なんだなあなんて思った。


先輩達にはバレ、同期達には学年集会の時に晒されてバレた。


それでも直接文句を言うような人はいなかった。



新入生の見学会が始まり、私は仁先輩とパーカスメンバーを集めたくて頑張った。


と言うより、頑張ろうとしなかったのに向こうから来てくれたのだ。


1年生のきょうこちゃんだ。


彼女は私や仁先輩のようにパーカス希望で和太鼓をしている、新進気鋭の大型新人である。


私の1年生の時を見ているようで、とてもかわいかった。


仁先輩もそれを分かっていたのか、神奈川ちゃんみたいだねなんて言っていた。


きょうこちゃんは和太鼓で打楽器の打系のものの基礎はついていたため、体験の時にすでにリズムキープ出来ていて驚きだ。


もう、パーカス決定したような雰囲気で私や仁先輩はきょうこちゃんを構っていた。


それでも、他のパートになる可能性がないとは言えないため、見てくるようにアドバイスをした。


2人きりになった仁先輩と私は、ほんわかとした気持ちになった。


「きょうこちゃんかわいいですね。ほんと癒し。」


「かわいいわあ…。」


「私は?」


「生意気やん。」


「うわ~~っ、後輩格差つけてるこの人。」


「きょうこちゃんは俺みたいなにおいがする。」


「それは分かります。」


「オールラウンダータイプではないな。」


「そうですね。仁先輩のように打系でしょうね。」


「いいよなあ~~~神奈川ちゃんはオールラウンダーだもんな!」


「そうですね。否定はしないです。」


「先輩もくま先輩がいる間にちゃんと鍵盤やればよかったのに。」


「俺はドラム一筋なんだよ。」


「だから、打系になるんですよ。」


「こういうとこが生意気だよ…。」


「変に作ってかわい子ぶってるよりよくないですか?」


「いやまあそうね。」


「ってか誰も来ねえ。」


「パーカスは人気ないんですか?」


「俺と神奈川ちゃん、きょうこちゃんが異常なんだよ。ふつうはパーカスはセレクト落ちの集まりかドラムやりたい人かなんだよ。」


「じゃあまあ運がよかったということで。」


たわいもない話をしていると、サックスの2人が1年を引き連れて部室に戻ってきた。


「仁~、パーカス体験。」


「おーおー、サックス様は大人気なようで!」


「うるせえ、さっさと1年に体験させてやれよ。」


痴話げんかが始まった2人は菅井先輩に任せて、サックス希望らしい1年生に打楽器を触ってもらった。


「どれか触ってみたいのとかある?あとは、小学校でやったことあるものとか。」


1年生は興味なさそうに、困っていた。


「じゃあ、私が一通り演奏してみるから、興味持ったのあったら教えてね。」


最初にぶちかましておけば後は楽だろうと思い、ドラムの椅子に座り、当時の流行りの曲をいきなり大音量で叩き出した。


「ゴールデンボンバーの女々しくて、耳コピだけど叩くね。」


結果は大成功。


サックス希望だけではなく、他のパート希望の子も見に来てくれた。


私は、吹奏楽ではなく軽音楽としてドラムを叩いたため、1階まで響いていた。


こんなもんかな、なんて思う頃には結構な人数の子が見ていた。


「え、みんなどうしたの?」


「先輩、かっこいい!!!」

「男の先輩のイメージだったけど、女の先輩だった!(公開合奏時は私がドラム以外のすべてを担っていた。)」

「ドラム触っていいですか!?」


ほっとした私はドラムから離れ、順番ね、とスティックを渡し教えた。


仁先輩は美味しいところが取られたと拗ねていた。


「私よりも先輩の方が上手だから、変わってもいい?」


私は仁先輩にドラムを変わり、他の楽器を教えることにした。


鍵盤楽器でメロディーラインを演奏し、1年生にマレットを渡して触ってもらった。


仁先輩と目が合い、仁先輩は気が済んだのか合わせをすることになった。


サックスの2人もいたことから、軽くルパンでも、と準備をした。


アンコン以来の4人だったが、なんとかうまく行った。


「サックスかっこいい~~~~!!」


「ドラムかっこいい~~~!!!」


まあ、そうよね…鍵盤楽器はね…なんて思っていたら、奈良先輩が話し始めた。


「1年は見てたか分からないけど、神奈川ちゃんは4本のマレットを使って演奏してたんだぞ。」


「ドラムやサックスも花形だけど、鍵盤楽器だって大変だからな。」


「サックス希望したら、サックスしかできないけど、パーカス希望したらドラムはもちろんいろんな楽器が演奏できるようになる。しかも無料だぞ楽器代はかからない。」


少し空気の色が変わって、1年生の顔色が青くなってきたところで私は1年生に助け舟を出した。


「みんなは、4人での演奏見て、楽しかった?もし、楽しいと思えたのならその気持ちを大切にしてね。私や仁先輩は希望が通ってパーカスになったけど、ほとんどの部員は希望が通らないの。だから、どんな楽器になっても楽しめるように、音楽や吹奏楽は嫌いにならないでね。」


「今は、自分の好きな楽器への気持ちを大切にしたらいいと思うよ。周りを見ることは大切だけどね。」


「奈良先輩の言うことは、一つだけを見たりメインパートだけが大切ってことじゃなくてそれを支える土台があってメインのメロディーが華やぐってことなの。」


「みんなの希望が通るように祈ってる。」


微笑みを送ると、1年生は安堵していた。


これなら、1年生も奈良先輩のこと怖がらないよね。


私は気分転換をしに、倉庫に向かった。


「あ、御手洗い行って水分取って休憩するだけだから、気にしないで~。」


1年生が変な不安を抱えないように一声かけて。


「倉庫の換気できるなあ…久しぶりだ。」


いつもは楽器でみっちりのため、窓を開けたところで換気にならない。


しかし今日は楽器体験ということもあり、楽器は全部出ている。


「広~い。しかも空気が澄んでて気持ちよさそう。」


窓を開けるためには窓の前に置かれた机に乗るしかないため、私は机に膝をつく形で乗った。


「よっこいしょ。鍵、固いなあ。」


窓を開けるときれいな空気がすうっと入ってきて気持ちがよかった。


背伸びをしてストレッチをしていると、倉庫の扉が開いた。


「来ると思った。」


「分かってるなら、あんな分かりやすいことしなくてもいいのに。」


奈良先輩は倉庫の扉をきっちり閉めて、こちらにきた。


「先輩、知ってました?この壁、白く見えて実は落書きだらけなんです。」


壁に指を滑らせて説明する私を、いつものポーカーフェイスで見ていた奈良先輩。


「私も卒部する時書こうと思って。」


私は壁にもたれて奈良先輩の方に視線を向けた。


「君は本当に優しいな。優しすぎるくらいだ。」


「え~?なんのことですか?」


「1年なんて最初は厳しくていいんだよ。」


「ああ、それは私の気持ちですから。」


「私が1年の時、先輩たちが優しくしてくれたように、誰かがヒールになってでも優しくしたりフォローする役しなきゃ。」


「それに、1年生みんなまだ分かってないんですよ。本当の大変さやいろんなことを

。」


そう言うと先輩はため息をついた。


「え、怒ってます?」


「俺は、そういうところが心配だって言ってんの。」


「優しくしたり、フォローすることには大変も何もないですよ。」


「それをして気に食わないぞ、あいつらは。」


「でも、奈良先輩がいるでしょう?だから大丈夫。」


「俺がいる間は俺がヒールでも買って出てやれるけどなあ、卒部だってそう遠い未来の話じゃないんだ。」


「奈良先輩が卒部したら、私退部しようかな?」


笑って言った私を問い詰めるように私がもたれている壁の方に向かってきた。


「それ、本音で言ってんの?」


いつもより低い声のトーンで分かった。これガチの方。


逃げないと、やばいやつと私は1歩踏み出したが遅かった。


リアル壁ドンされる、と思い目を瞑ると本当に壁ドンされていた。


「本音じゃないだろ、それ。」


怒気がこもる声に怖くなり、私は涙目になってしまった。


「…続けたいです。でもたぶん無理だと思います。」


「私は弱いので、仁先輩に片想いしている人達からも部活ガチ勢からも嫌われているのは分かっててそれでも残るのはつらいです。」


「片想いしてるやつらはともかく、ガチ勢は君が見た目ヤンキーなのにやることやってるから注意できないのがむかついているんだよ。」


「だからといって見た目を戻せとは言わないけどな。片想いしてるやつらは俺がガードできるけど、ガチ勢は俺もそんなに仲良くないから。」


「…先輩は、校則違反女は嫌いですか。」


「君は、校則違反していても変わらずに君だろう。嫌いなわけない。」


そう言うと、壁ドンをやめて隣に立ってくれた。


私は先輩の肩に頭を預けた。


「先輩、一緒に逃げよ。」


「どこに?」


「わかんないけど、先輩と一緒に。」


「俺が大人だったら一緒に逃げてた。」


「ごめんな、まだこどもで。」


「先輩は謝る必要ないです。私が変なこと言ったから。」



「俺は、後輩が入ってきてもタイプ変わらない。」


「ほんとに?かわいい子いっぱいでしたけど?」


「君こそ、イケメンな後輩いただろ。」


「年下は弟にしか見えないです。」


「そういう考えが、男を理解してないって言ってるんだよ。」


「先輩こそ、女の裏側知らないくせに。」


「だから君が良いんだろ。」


「分かりませんよ~?私にだって裏があるかもしれませんよ。」


「それも見てみたいかもな。」


「それに、隣にこんなにかっこいい人いて他の男なんて目に入りませんよ。」


「そう。」


「今日は髪の毛触らないんですね。」


「触ってほしいの?」


「先輩にお任せします。」


「君はほんとに…。」


奈良先輩は勝手知ったる様子で私の髪の毛をほどいた。


手櫛で整えて、触っていた。


「先輩の手、安心しますね。」


「仁の手は?」


「考えたことなかったけど、男の人の手ですよね。」


「俺は?」


「ずっと触られていたいかな。」


「ふーん。」


照れ隠しでぶっきらぼうな返事になったことは分かっていたため、私は頭をなでられていた。


「他の子にもこの手が知られたら困ります。」


「俺だって不安だよ。こんなかわいい子。」


換気をしている部屋なのに、少し柔らかく感じられた。


戻ると、1年生が心配そうに私のところに来た。


事情は読めたので、大丈夫よ、と慰め頭をなでたり抱きしめてあげた。


奈良先輩の魅力は私だけが知っていればいいのに。


そう思いながら、1年生に少し嫉妬した。





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