第11話 渋谷サッカーと謎

夏コンの練習に飽きて、だらついていた私と仁先輩


今日は3年生は受験準備の日で2年と1年で部活をやる日だ


「暇ですねえ…もう何周もしたし…」


「そうだねえ…」


2人で3階から窓の外を眺めながらたわいもない話をしていた


私は某関西イケメングループの赤色担当歌うまメンバーにそっくりなサッカー部の人を見つけた


「…あの人、すごいかっこいい…」


「どれ?」


「…え〜、仁先輩からかいそうだから嫌だ〜」


「からかわないから言って」


圧を込めた低音ボイスに負け、特徴とビブスの番号を伝えた


「え〜〜っあいつ〜?やめな〜あいつ性格悪いぜ〜」


「いや、顔がかっこいいって言っただけなんすけど…」


「ま、好みは人それぞれだよね」


話聞かねえな、と思いながら、窓の外を眺めだらだらしていた


「…先輩、なんすか…」


謎に置かれた黒板の壊れたレールをこちらにピーンっと指でスライドしてくる仁先輩


要領としては指ホッケーのようだ


「…え、暇じゃん」


「確かにそうだけど…」


私は意味もなく始まった指ホッケーに応え、それは段々スピードが緩くなっていった


「夏だねえ…」


「…そうですねえ…」


私はサッカー部の人に夢中かつ指ホッケーに力を込めていたため、ぼーっとしていた


「っ痛っっっ!!!!はっ?なに?」


急に大声を出した仁先輩に目をやると、そこには奈良先輩がいた


「お前、なにさぼってんだよ、忘れたのかよ…」


「アッ…忘れてた!!でも、急に頭叩くのはよくないだろ!!奈良!!」


「忘れてさぼってるお前が悪いだろ」


私もお説教コースかな、と内心冷や冷やしながら先輩2人のやりとりを見ていると、仁先輩から助けてアイコンタクトが来た


「あの〜…何か用事があるなら仁先輩早く行った方が良いんじゃ…?」


「神奈川ちゃんの言う通り!!行ってくるわ!!」


「…行ってらっしゃいです…」


部室に残されたのは、私と奈良先輩


怒られるんだろうなあ…と軽くしょげていたら、奈良先輩は笑っていた


「俺さ、2年会議終わって暇だから付き合ってよ」


「え、怒らないんですか?」


「君は、練習真面目にやってて実力もあるんだから、少しくらい休んでいいんだよ」


そう言うと、私の腕を掴み立たせた


「な、なんですか?」


「無理しすぎ、椅子くらい好きなの座りな」


「この椅子半分壊れてますし、私はこっちで…」


「俺がこっちに座った方が君と目線が合うと思うけど?」


優しく諭されて、私はお礼を伝えながら、少し良い椅子に座った


窓の外をふたりで見ながら、無言の時間が続いた


でもなぜか、奈良先輩と居る時間は暇だとは思わなかった


誰も部室に来ないでほしい、そう思った


「つらくない?」


何に対して言っているのか分からないほど馬鹿ではなかった


それでも言葉が出てこない


出てくるのは涙で


それを奈良先輩は受け入れてくれた


涙が止まる頃、奈良先輩は何故か近くに座っていた


もうほとんどくっついているように思える距離で、私は奈良先輩を意識してしまった


「奈良先輩…」


「やんだ?立てる?」


奈良先輩は立ち上がり、私に手を向けてくれた


私はその手に素直に甘え、立つことにした


「ありがとうございます」


何も言わずに繋がれたその手は、誰かの足音がするまでそのままだった


いじめを多方面から受けている私にとって、こんなに優しい手は初めてで、離さないで欲しいと願った


奈良先輩はきっとわかってくれていたのだろう


立ち上がる時より、立ち上がった後の方が繋ぐ力が強かったから


「先輩、今日も帰り…」


「同じだよ」


「よかった…」


「そうだね」


自然と笑った私を見て、奈良先輩も微笑んだ


「顔、冷やしてきな。椅子は片付けとくから」


奈良先輩の言葉に甘え、部室を出ると、そこにいたのは仁先輩と菅井先輩


「おつかれさまです…」


私は挨拶をして、水道に逃げた


顔を水で冷やして、鏡で目元を確認


それでも頬が火照っているのは、きっと奈良先輩のせいだ


私は、明日もいじめに耐えていかなければならない


それすらも乗り越えられそうになるくらい、奈良先輩の存在は大きかった


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