第8話 さりげなく

毎日、一緒に帰っていると、分かることがある。


歩幅である。


奈良先輩は、仁先輩や他の女の先輩と歩くときはマイペースに自分のスピードで歩く。


私といる時は、私に合わせてくれるのだ。


とは言え、遅すぎるのは嫌そうで、たまに背中で急かすような時もあった。


とててて、というオノマトペが出てきそうな私を見て、奈良先輩は立ち止まってこっちを見ていた。


「先輩、私足遅いですよね…ごめんなさい…」


「…ちょっと来て」


奈良先輩についていくと、そこには公園があった。


工場裏にあり、小川が流れ、木もそよいでいる。


「おわ〜っ!知らんかった〜!」


「カバンおろしてみて」


意味が分からず、とりあえずおろしたカバンを奈良先輩は持ち上げた。


「重いですよ!!」


「きみ、真面目だね。楽譜類とかなら理解できるけど、教科書全部持ち帰るのは真面目…」


どしん、と地面から音がした。


分かってたよ、と言わんばかりに奈良先輩は伝えてくれた。


「こんな重いの背負ってたら、歩くの遅くなるよ」


奈良先輩は、さりげなく私に合わせて歩いてくれていたのだ、と感じた。


「さ、行こうか」


奈良先輩はカバンの上に背負っていたリュックを持ってくれた。


「先輩に持たせるのは失礼すぎます!!自分で持ちます!」


「なら、いつもより早く歩いてくれる?」


言葉を詰まらせた私に奈良先輩は優しく話してくれた。


「良いんだよ、頼って」


その日の帰り道は、なんだか時が早く感じられた。


最後の信号待ち、時間が止まればいいのに。


奈良先輩の優しさに感謝をしつつ、いじめに負けない!と心に決めた。


「じゃあね」


そう言って渡されたリュックは何故か軽く感じた。


心のどこかで、まだ一緒にいたいって思った。


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