第7話 勘違い

吹奏楽部というのは女所帯である。男の人は4人しかいなかった。そのため、恋愛の話は尽きない。


トロンボーン3年男子の先輩は学年の中でもイケメンと呼ばれていて、ホルンの3年の先輩と付き合っていたとかいないとか、パートは忘れたけれど3年の女の先輩が王子先輩に片想いしてるとか、たくさん話を聞いていた。


私は、ドラムをしている仁先輩かっこいいと思い、くま先輩となみ先輩に軽く言ってみた。


「(ドラムしてる)仁先輩かっこいいですよね〜」


「え〜??なぎちゃ、仁のこと好きなん!?」


「仁君モテるからね〜…!」


「え、先輩達誤解してません??私、仁先輩のこと好きじゃないですよ」


「え〜??いいよお〜?隠さなくて!」


「隠してないです!!」


押し問答が続いていた私たちのところに仁先輩が来た。


「神奈川ちゃんたち何話してんの〜??」


「女子会だよ!見たら分かるっしょ!!」


くま先輩と目が合い、(黙っててあげるからね!)という気持ちが伝わった。


いや別に、好きじゃないから話していいんだけど…と思ったが言えなかった。


その場は特に何もなかったが、部活終わりに楽器を片付けていると、チューバの3年の先輩に質問をされた。


「なぎさちゃんって仁くんのこと好きって聞いたけど?」


「好きじゃないです!」


良くも悪くもコミュニティがすごいのも吹奏楽部の特徴であることが分かった。


いつもの帰り道、私は面倒ごとを避けるために仁先輩の隣ではなく、奈良先輩の隣を歩いた。


「どうしたの?仁に何かされた?」


「いや、そうじゃないんです…」


「…仁のこと好きとか?」


「違います!!!誤解です…!くま先輩となみ先輩が勘違いしてるんです…!」


「そっか、よかった」


誤解が解けてよかった〜!と一安心し、胸を撫で下ろした。


「ドラムしてるところが、かっこいいなって思ったんです…。あっ、別にだからと言って恋愛感情とかじゃなくって!!」


「あいつ、ドラム好きだからね。」


急に奈良先輩が私の手を掴んだ、と思ったら奈良先輩に寄りかかる形になった。


「うおっ!すみません…!なんかやらかしました!?」


奈良先輩の身体は女の子とは違い、しっかりとしていることを意識せざるを得ない体勢で、私は顔を赤らめた。


奈良先輩の顔を見ることが出来なかった。


「…ごめん。後ろから車来てたから。大丈夫?」


「大丈夫です!ってか、私重くなかったですか??ごめんなさい…!」


生真面目だった為、教科書等3キロほどを背負っていた私は、体重も含めると結構重みがあった。


「ハハッ、重いわけないじゃん。仁のこと抱えられるんだから。」


そう言いながら、私の不安定な体勢を普通の体勢にし、繋いでいた手を離した。


「あっ…」


心で考える前に声が出ていた。


「どうしたの?」


「ありがとうございました…!って言いたくて」


「当たり前でしょ。後ろから車来てるし、後輩守るのは普通のことだよ。」


「ふふ、嬉しい…です!」


本当の意味は、奈良先輩には秘密である。


手、離しちゃうんだ、なんて


父以外の異性を意識することなんて初めてで


恋愛感情はなかった。それでも私は支えられている瞬間で時間が止まればいいのにと思った。


その日も家まで送ってくれた。


「また明日、おつかれ。」


「お疲れ様でした!ありがとうございました!」


手を振り、踵を返したのを確認して、自宅に入った。


父を見て、奈良先輩との出来事を思い出し、奈良先輩のことを考えてしまった。


「なぎ、何ぼーっとしてんの?」


「なんでもないよ父さん!」


誰にも言えない、奈良先輩の手のひらが好きだなんて。


そう思った。

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