第6話 基礎練

初舞台とこの後行われる夏コンまでの間に、時間がある為、1年はそれぞれ自分のパートで基礎練習をする。また、基礎練習の基礎練習がある場合もあり、大変だったと聞いたことがある。


私は独学で1年間ドラムをしていたこともあり、基礎練習がすぐに好きになった。


夢中で音符をスネアドラムに走らせ、謎の歌もつけたりしていた。


しかし、私は何故かスネアドラムよりも鍵盤楽器や他の小物楽器などに力を入れさせられていた。


その基礎練習もすごく楽しく、沼へとハマっていった。


3人の先輩には得意分野があり、その得意分野全てを習得しなければ、私は後輩に教えることができないくらいに少人数の部だったのだ。


そのため、基本的に基礎練習がすごく長くかかり、先輩達はそれを見守るような形だった。


「よーし、神奈川ちゃんスネアやるよ」


仁先輩がつきっきりで基礎リズムパターンと3D(今でもあるのかは分かりません)を教えてくれた。


「仁〜、スネア終わり〜??じゃあなぎちゃ、鍵盤やるよ〜」


くま先輩がつきっきりで基礎フレーズパターンと3Dを教えてくれた。


「なぎさちゃん、お疲れ様!少し休んで、譜読みの練習しようね」


なみ先輩は、私が疲れた頃を見計らって、声をかけてくれた。譜読みが苦手な私に対して、なみ先輩が教えてくれるという時間である。その間はくま先輩と仁先輩は暇な為、遊んでいるのが日常だった。


私は生真面目なため、サボる、ということがあんまり得意ではなかった。しかし、3人の先輩はサボることが上手で、私に教えてくれた。


例えば顧問が裏口から急に入ってきた場合は、私と教えてくれている先輩は続行し、残りの2人は楽器の安全点検をしているフリをしていた。


また、他のパートの人が入ってきた場合、真面目パートの人が入ってきたら顧問の時と同じ対応をし、ほんわかパートの人が入ってきたら絡んで同罪にする作戦だった。


何故かパーカッションは基礎練習は真面目にやり、曲練習は適当になるらしい。


その時は曲がない時期で、先輩達は暇でしょうがなく、私にずっとついていてくれていた。


「んーなんか疲れたな…飽きちゃった…」


小さい声で呟くと、先輩は口を揃えて、私に言った。


「待ってたよ!!この時を!!」


「さあ!一緒にサボろう!」


「ちょっ!そんな大きな声で言わないで!!なぎさちゃん、真面目すぎなくていいんだよ。少しサボろう…!」


優しく包み込んでくれる先輩で良かった、と心から思った。


しかし、同期は私がこんな上手くいっているのを良く思うはずがない。


クラス・学年・同期からのいじめはエスカレートした。


それでも良かった。先輩の隣に居られれば十分生きていけるって思っていた。


奈良先輩は王子先輩と小久保先輩と菅井先輩のサックスパートで、よくパーカスの基礎練に顔を出していた。


他のサックスの先輩がいない時もあり、奈良先輩だけが来て、何しに来たん?と思う時もあるくらいだった。


奈良先輩とは目がよく合っていた、というより私が目で追っていたのが正解な気がしている。


その度に色んな表情を見せてくれるため、私は楽しかった。


お手洗い休憩の際に、楽器室に呼ばれることもあった。


「ねえ、ちょっと来て」


「なんですか〜??重いものならめちゃくちゃ持てますよ〜!!」


2人きりの楽器室で、無言の奈良先輩。


何のために呼んだのか今でも分からないが、私を楽器棚に載せて、隣に座り、楽器の手入れをしていた。降りる時は、奈良先輩が先に降り、手で支えてくれるディズニープリンセス仕様だった。


1回だけならともかく、何度もあった。


初めての2人きりの楽器室は緊張したことと、私重くないかな?(物理)と心配したことを覚えている。


誰もいない2人だけの空間で、奈良先輩は何を考えていたのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る