第4話 初舞台
初舞台は、忘れもしない
私1人だけ1年でスタメン
残りの1年は立って見ているだけ
残りの1年からの目線に気付けない位に私は練習や本番の演奏に必死だった
曲目は壮行会のマーチ
バスドラはリズムキープをする結構重要な役割で、私は楽譜を貰ってから、仁先輩や3年の先輩につきっきりで教えてもらっていた
「なぎちゃ、なんでドラムできるのに、バスドラオンリーのリズムキープ不安なの??」
なぎちゃ、と呼ぶのは3年のくま先輩で、名前とは正反対の小柄でとっても可愛らしい天然系。得意分野は鍵盤楽器。
「なぎさちゃん、楽譜読めないのになんでドラムできるの??」
なぎさちゃん、と呼ぶのは3年のなみ先輩。パートリーダーでしっかりもの。私の同期に妹がいる。得意分野はオールマイティ。
「神奈川ちゃん、パート割りのリズム課題よりこれ簡単よ??」
神奈川ちゃん、と呼ぶのは2年の仁先輩。眼鏡天然個性的面白キャラでムードメーカー。得意分野はいわゆる打楽器の中の花、スネアドラム。
私はこの大好きなパートの先輩と共に過ごせることを幸せに思い、毎日練習をしていた。
そして、本番の日。授業の内容なんてどうでも良かった。暗譜したマーチを永遠に脳内リピートしながらシャーペンと足でリズムキープ。そしてお昼休みは無しで、楽器の運搬。
この頃にはもう私はパーカスの一員として普通に動けるようになっていた。楽器の名前や特徴、演奏法、取り扱い方などを全て覚えていた。
管楽器は自分で運び、自分で準備ができる。しかし打楽器は自分で運べるものも有れば、人の手を借りなけば動かせないものもある。バスドラなんかがそうである。
なみ先輩やくま先輩は自分の楽器を準備するので手一杯、もちろん仁先輩もである。そうなると、誰かに頼らざるを得ない。他の1年生にお手伝いしてもらえるようにお願いをすると、断られた。その為、バスドラを運ぶのが遅くなり、顧問に怒られてしまった。
「なんで、バスドラ先に運ばないの?」
同期に嫌われてて運べなかった、先輩方はみんな忙しそうだったから声かけられなかった、とは言えないな…と腹を括って謝ろうとした。
すると、パートの先輩3人が口を揃えて私を庇ってくれた。
「なぎさちゃん(神奈川ちゃん)は悪くありません!私達が忙しくて気が回らなかったんです!すみませんでした!」
私は俯いた。俯きながら同期を見た。笑っていた。
そうか…その手か…、と私は悔しくて堪らなかった。
「先生、先輩方が代わりに謝ってくれていますが、私が声に出せなかったのが原因です。申し訳ありませんでした。」
部員が集まる中で私の声だけが響いた。
「分かったわ。さあ、続けましょう」
その声で、張り詰めていた糸が切れたかのように、部員が動き出した。
パートの先輩方に謝りに行った。
「ごめんなさい…。ほんとうにごめんなさい…。」
3人共が、励ましてくれた。
悪くない、悪いことしていない。大丈夫。私たち先輩が気にかけてあげることができなかったのが悪い。
背中を撫でて頭を撫でてくれた。
でもここで泣いたら負けだ、と思い、先輩方にお礼を伝えて、準備を終わらせた。
ついに本番。
顧問の先生の目とタクトの先を見つめて、一打目を決めた。最初が決まると、後はなんとかなるものだ。裏打ちなどもない単純な四拍子で、あとは強弱をつけるだけ。最後までやり切り、私は先輩方に褒めてもらった。
「上手だったよ〜!!偉い〜!!」
涙が出そうだった。だが、同期の目が厳しい。負けてたまるもんかと、涙を堪えて、先輩にお願いをした。
「くま先輩、なみ先輩、仁先輩、ぎゅーってしてください!!」
その言葉で察してくれた先輩は、もちろんだよ〜と笑顔でハグをしてくれた。
仁先輩は、セクハラと誤解を避けるために、「俺は言葉で褒めるよ!!ハグはできないかな!!ごめん!!」と全力で褒めてくれた。
本番が終わっても、それで終わりではない。片付けがある。最初の顧問からのお叱りもあり、片付けは難なく終わり、反省会のスタートである。
「うちら、別にミスしてないし、なんならなぎちゃめっちゃできてたもんね〜!!反省することねえべ!!」
「くまちゃん…!そうは言っても顧問が居るんだから、なんか反省しよ?」
「くま先輩の言う通りっすよ!!俺ら、ミスしてないんですし、とりあえずサボりましょうよ!!」
「わ、私、緊張して強弱うまくできなかったかも…です…。あと、アイコンタクトできてないです…!」
「なぎちゃ〜〜!!!なんていい子なの!?私達の子とは思えないわ!!ねぇ?仁!」
「そうっすよ!!こんないい子…俺泣きそうっす…!」
初めての茶番劇で戸惑う私に、なみ先輩はこれが普通だから、と適当に反省をしてくれた。とは言え、くま先輩も仁先輩も根は真面目な為、個人個人の反省点をまとめて、なみ先輩に伝えていた。
このシーンを他の1年がすごい目で見ていたのは、後で知ることだった。
その日の帰り道、王子先輩は用事があるため、奈良先輩と2人きりになった。
「上手だったじゃん。気をつけて帰ってね。じゃあね。」
手を振り、踵を返す奈良先輩に、私はお疲れ様でした!と返すくらいしかできなかった。
奈良先輩は玄関まで送ってくれたのだ。
長いようで短い時間だった。
帰り道も、初舞台も。
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