第2話 間接キス

吹奏楽部1年というのは、基本的に雑用ばかりで、パートが決まるまでは、色んな先輩の手伝いや楽器体験をするのである


私のところは強豪とかではないため筋トレとかは個人でやるのが暗黙のルール


めんどくさがりの私は、パーカス希望だったこともあり、雑用も無く、筋トレもせず、パーカスの先輩と常にだべり、暇な時に遊びに行く感覚で楽器体験をさせてもらっていた


私は正直、ドラム目当てだったため、トランペットやフルートなどの花形には興味がなかった


それに加えて、低音楽器が大好きだったこともあり、よくチューバの先輩とだべっていた


ある日、奈良先輩と部室で2人きりになる機会があった


アルトサックスは花形中の花形で、興味はないが、演奏中や音色はとてもかっこよく、私は見惚れていた


「どうしたの、そんな見つめて」


奈良先輩に言われるまで、私は見つめていたことを知らなかった


「いや!なんでもないです!!サックスかっこいいなあって…思って…」


照れながら言うと、奈良先輩は笑った


「ハハッ…顔赤い。吹いてみる?」


うわ〜〜〜〜やっちゃった〜〜〜〜


心の中は恥ずかしさとやらかした気持ちでいっぱいだった


その場を取り繕うために、私は全力で頷いた


「吹いてみます!!」


何も考えずに吹いてみたが、全く音が出ず、それもまた奈良先輩のツボに入ったようだった


「最初は出ないよね〜、リード変えよっか」


言われて気づいた


えっ待って?リード変えるってことは、変えてなかったことじゃん??え??間接キスじゃん??え????


心の動揺が隠せなかった私に対して、奈良先輩はリードを交換しているはずなのに、笑っていた


「俺は気にしてないから大丈夫だよ、そのうち慣れるからさ」


奈良先輩は頭をぽんぽんしてくれた


「今日も帰り一緒ですか…?」


さりげなく聞いた私に奈良先輩は即答した


「何言ってんの、家近いんだから当たり前じゃん」


「じゃあ俺、パート練行ってくるわ。仁と頑張れよ」


そう言って、部室を出て行った


するとぞろぞろと人が入ってきた


みんなニヤニヤしながら私を見ていた


「神奈川ちゃ〜ん???(なぎさちゃ〜ん??)何があったのかなあ??」


特に直属の仁先輩はとてもニヤニヤしていた


「何もありません!!!!もう!!パート決めの楽譜練習手伝ってください!!」


先輩達は、部室の外で私と奈良先輩の様子を伺い、わざと入って来なかったのだという


その意味を気づくのは、すぐ後のことだった


その日の帰りは、何故か奈良先輩と2人になることが多く、他の先輩方がニヤニヤしていることもあり、私は恥ずかしかった


奈良先輩は我動じずで、普段通りの会話を続けていた


家まで送ってくれたのは、王子先輩と奈良先輩の2人だった


パーカス、入れますように!


そうお願いしながら眠りについた

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