絶対音感

 音が階名で聞こえる。言葉のように、ドレミを言っているのだ。それが普通だと思っていたけれど、どうやら他の人は違うらしい。音がわかる私の母親でさえ、意識しないと階名では聞こえないと言っていた。


 駅のホームの発着メロディ、信号の音。歌や音楽も後ろにドレミが控えていて、純粋に音楽を聴く、楽しむということができない。


 もし、この絶対音感がなかったらという想像をしてしまうことはある。そしたら、多分違う世界が見えて聞こえていただろう。


 たしかに便利なこともある。難なく耳コピができるし、ある程度曲を聞くことで演奏することができる。でも、絶対音感で得られるそれらのメリットよりデメリットの方が圧倒的に大きい気がしてしまう。


 普段の生活音ですら階名で聞こえるから、その分情報量が増えて疲れるし、絶対音感を持っていることがバレると能力と労力を搾取されそうになる。

 そのため、他の人にはひた隠しにして生活している。


 何かの小説の書き方のハウツー本で、「(ラノベでは)チート能力を持っていることが多いが、その能力は主人公を助けるものではなく、苦しめるものだ」という記述を見たことがある。

 大袈裟かもしれないけれど、自分の絶対音感の能力と重ねて妙に納得した。


 とは言え、ないものねだりならぬあるものねだりをしても意味がない。物心ついた時からの付き合いだ。これからも私は他の人とは違う、音の世界を生きていく。

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