第14話 家宝家

「……家宝家、か」



私は地雷でも踏んでしまったのか。

あからさまに暗い表情になる龍馬に戸惑いつつ、問いかける。



「家宝家がどうかした?」



私には身近な家宝家の人が沢山いる。

なんなら、私も、龍馬も家宝家だ。

龍馬は私の問いかけに微妙な顔をしながらも口を開いた。



「俺は家宝家が、翡翠家が苦手だ」


「……嫌いではないの?」



気になった部分について聞けば、龍馬は暫く間を置いてから頷いた。



「嫌いでは、ない。ただ、あの家宝家独特な空気感が苦手なんだ」


「ああ、なんとなくわかる……」



龍馬の言葉に思わず賛同してしまう。

あれね、家宝家のしきたりと強者の空気感。


家宝家に生まれたら当然祓い屋になって、当然敷かれたレールの上で生きるとか、家宝家の者であるならこうするべきとか。


前に翔さんから聞いたけど、家宝家は当主争いとかも苛烈らしい。

翔さんはなんか、家宝家とはあんまり関わりがないって言ってたし他人事みたいな感じだったけど。


強者の空気感は、そのまんま。

璃緒さんがよく漂わせてる無言の圧とか愚兄とかから感じる気の多さとか。

ああいうのは普通に怖い。



「特にうちはあんまり強くないからな。水晶家と違っていろいろあるんだよ」



最後に龍馬はそう付け足すと何もない宙を見た。

どうやら、家宝家の中にもいろいろ違いはあるらしい。

まあ、人も違うし仕方の無いことだろう。


龍馬は黙ったまま言葉を発しない。

沈黙が訪れる。

……うん、初対面なのに踏み込んだ話をした自覚はある。

やっぱり、みんなそういうのって触れてほしくないのだろうか。

今度から気をつけよ……。



「……なぁ」



一人でに反省をしていれば、龍馬が沈黙を破った。

俯き気味に聞きづらそうな雰囲気を醸し出しているが、声をかけてしまった以上話さなきゃいけないとでも思ったのか、ポツポツとか話し始めた。



「こんなこと聞くのもアレだけど、四宝持ってて辛くならないのか?自分に人間の運命がかかってて、死にたいとか思わないのか?」



あ、私が四宝持ちだって知ってたんだ。

勝手に知らないものかと思ってたわ。

とはいえ、私が知らないだけで祓い屋界隈じゃ有名な話らしいのだが。



「うーん、特になんとも。最初聞いた時は気持ち悪いっていうか、ちょっと悩んだけど。暫くしたら開き直ったというか」



まあ、いっかって思ったんだよね。

自分の素直な思いを伝えれば、龍馬はどこか引いたような顔になった。



「……アレだな、狂ってる」


「クルッテル」



突然、失礼なことを言われ、オウム返しのように言葉を繰り返す。

いや、狂ってるって。

私は自分の気持ちを伝えただけですけど!?

というか、聞いてきたのアナタですよね!?

心の中で文句を吐き散らしながら龍馬の方を見る。


しかし、龍馬の横顔を見た瞬間怒りは消え失せた。

龍馬が、あまりにも悲痛な表情をしていたからだ。



「俺は無理。家宝家で双子に生まれたってだけで罪悪感に押し潰されそうだ。翡翠の子供は成志だけで十分だったんじゃないかとよく思う」



ーー双子だと分かってしまえば色が出ていても能力がないことが分かってしまう。


龍馬の言葉で蘇ったのは過去の自分の台詞。

成志くんと龍馬を対比するに、どっちが色でどっちが能力なのかを想像するのは容易なことだった。


あの赤色の髪に緑色の瞳の少年と目の前にいる今にも漏れだしそうなほどの気を持った少年。

簡単な話だ。



「それ、私に喋ってよかったの?」



それを考えると、部外者に話すには軽すぎる気がする。

龍馬は肩をすくめて私の方に横目を向けた。



「まあ、もうバレてるもんは仕方ない。どうせ、もともと検討はついてたんだろ?」



図星である。

確かに、私の中だと双子で確定になってなくはなかったけど……!

相手に速攻でバレるというのもまたなんとも言えない気持ちである。



「父さんたちは隠してるけど、気づいてる奴は多分気づいてる。だから、気づいた奴にはオープンで構わない」



表情は悲しげだけど、口調はしっかりと、淡々としてる。

璃緒さんも知らなかったから必死に隠してるのかと思ったけど、いや、実際そうなんだろうけど龍馬はそうでもなさそうだ。


まあ、バレたところで被害被るのって多分成志くんの方だろうし。

その後、適当にくっちゃべっていれば、そこそこ時間が経っていた。

私はハッとして龍馬の方を向く。



「あ、長く引き止めてごめん。家、早く帰った方がいいよね」



そう言えば、龍馬は気まずそうに目を逸らした。



「帰ったところで別に。成志は多分、俺のことあんまり好きじゃないだろうし、父さんも母さんもよそよそしいし……」



要するに、家の居心地がよくないのだろう。

なんとなく家に戻りたくなくて黒猫と遊んでいた自分を思い出す。

家に帰りたくない気持ちは、分からなくもない。



「門限いつ?」



なら、あの時の自分が望む言葉をかけようと思った。

しかし案の定、龍馬はキョトンとした顔で私を見ている。

うん、つい数十分前に初めて話した人間にこんなこと言われるのは嫌だよね!



「……さあ?でも、七時くらいまでに帰れば」



それでも龍馬は答えてくれた。

この年齢で門限七時なのか……。



「じゃあさ、それまで夜部にいる?」


「は?」



私の提案にふをつかれたような表情になる龍馬。

しょうがなく私はもう一度言葉を繰り返した。



「だからさ、夜部にいれば?」


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