第13話 リンチはやめよう

季節は夏へと移り変わる。


じめじめとした梅雨が明け、夏休み間近になってきた最近では日差しが強くなってきた。

一言で言おう、暑い。


愚兄との訓練が暑いせいでいつにも増してキツく感じる。

水晶家にはクーラーのきいた武道場が存在しているが、夜部にそれは存在しなのが一番の問題だ。

……そろそろ死ぬかも、私。


そんな愚兄との訓練を前に沈んだ気持ちで下校する。

友達と別れ、一人になるこの道は治安が悪く、人通りも少ない。

まあ、今の私だったら大人一人くらい楽勝でぶっ飛ばせるから危険なんてないんだけどさ。


そんなことを考えながら歩いていれば、公園の前までやって来た。

うええ、ここの公園苦手なんだよなぁ。

ガラの悪い高校生いっぱいいるし。


ちらりと公園を見れば、今日もカラフル頭の高校生がたむろしていた。

なんか、円になってるけど、喧嘩?

関わらないようにしよ。

てか、今どきいるんだな。不良って。


そんなどうでもいいことを考えながら通り過ぎようとすれば、ドサッと何か大きな音がして私は思わず振り返った。

倒れているのは、不良たちの中でもガタイがいい奴。

変なの、一番倒れなさそうなのに。

体幹弱いのかな、と思っていたが、一人の人物が見えて私は目を丸くした。


その人物は不良たちの真ん中に立ち、倒れた奴を蔑むような目で見ていた。

周りの不良たちは戦くようにジリジリと距離をとっている。

いや、あの真ん中に立ってる奴って……。



「翡翠龍馬!」



え、何この図。

まさかの小一VS高校生。

しかも、一対複数人。

いや、いくらなんでも大人気が無さすぎるでしょ!


思わず駆け出そうとして、一瞬立ち止まる。

いや、でも、待てよ。

別に負けてる雰囲気とかないしな。

行く意味あんのか、これ。

むしろ、不良たち顔真っ青じゃん。


しかし、早く帰ったところで待っているのは地獄だということを思い出し、私はキッと前を向いた。

行くしかないでしょ、これは!


勢いよく駆け出し、私は高校生に背後から近づいていった。

そして、飛び蹴りの姿勢に入る。

なんか、愚兄とやってると投げられる練習みたいになってるけど、本当はこっちの練習だから!



「小学生一人をリンチする高校生があるか、クソ野郎!」


「ゴフッ」



あ、やべ。やり過ぎた。

泡を吹いて倒れる高校生に若干反省していれば、不良たちの視線が一斉に集まった。

うん、当たり前だよね。



「またガキかよ……」


「コイツの仲間か、お前!?」



顔面蒼白で聞いてくる不良に私は首を傾げる。

何をそんなにビビってんだ、コイツらは。

やっぱ、飛び蹴りしたのはダメだった……?



「ひいいいい、ごめんなさい!」


「もう何もしませんっ!」



しかしながら、不良たちはそんな私の疑問を解決するどころか更に深めて逃げていった。

え、そんな逃げるほど怖かった!?

私が!?


状況が理解できず、取り敢えずその場に残った翡翠龍馬の方を向く。

彼は呆れたような顔で不良たちを見ていた。

まあ、そりゃそうだよな。



「翡翠龍馬くん、だよね?」



しょうがないので声をかけてみる。

彼は振り返り、こちらを凝視してきた。

うわ、見れば見るほど成志くんそっくり。



「ああ」



間が空いたものの、落ち着いた声色で翡翠龍馬はそう言った。



「確か、二組の転校生の」


「水瀬奏音です」



私の名前を聞いて、龍馬(長いから龍馬でいいや)は目を見開いた。

そして、小さな声で「水晶の……」と呟いている。

これ、絶対こっちのこと認識してるじゃん。



「前に兄が世話になった」


「兄って、成志くんのこと?やっぱり双子??」



私の言葉に龍馬は頷く。

え、こっちが弟?

双子とはいえどう見たってこっちが兄じゃない??

てか、言葉遣いが絶対小学生じゃない。いくつだよ。

私も人のこと言えるか分かんないけど。

そんなことを考えているのを悟ったのか、龍馬は苦笑した。



「成志が双子の兄なんだが……まあ、よく言われる」



ですよね。

というか、そうとしか思えない。

外見的にも、中身的にも。

お互い何者なのか分かったところで私はさっきのカオスについて質問することにした。



「というか、なんで不良たちと喧嘩してたわけ?」



私の言葉に龍馬が遠い目になる。



「ああ、それはな」



曰く、最近不良が集っていて公園で遊べないとクラスメイトが嘆いていたため様子を見に来たら成り行きでああなったんだとか。

うん、ただの良い奴じゃん。

それでさらっと不良を撃退したのはさて置き。

昨日、中指を立てて煽ってきた愚兄には是非見習ってもらいたい。

しかも、この運動神経。



「やっぱ、家宝家って凄いんだなぁ……」



思わずという風に呟いた私の台詞に龍馬は何故か顔を強ばらせていた。





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