第6話 祓い屋はヤバいが怪異は怖い

「来るよ」



水晶さんが静かに言い放ち、そこからは一瞬だった。

何かビームのような光がこっち目掛けて飛んできたのだ。

ビームは突き当たりの壁にあたり、壁のあたった部分は溶けている。

ひぃっ!何あれ、酸か何かですか!?


水晶さんは私を抱きかかえているにも関わらず軽やかにジャンプをしてかわしていた。

いや、ジャンプ高っ。

跳躍力どうなってんだ。

思わず水晶さんにしがみつきながら周りを見れば愚兄も上手くよけていた。

祓い屋、怖。

アレ絶対避けられないって。

私も水晶さんいなかったらあたって死んでた。



「疾風、来るよ。構えな」



ビームが来た方向を鋭い目で見つめ、水晶さんが指示を飛ばす。

私、この二日間でいろいろ体験しすぎでしょ……。


今までの小学校生活どこ行った。

ていうか、私が小一なのお二人さん忘れてませんよね?

ハラハラしつつビームが飛んできた方向を見ていれば、コツコツと音が聞こえてきた。

何これ、普通に怖い!

普通の小一はこの時点で泣いてるから!絶対!



「ハライヤカ」



聞こえてきたのは無機質で片言な喋り声。

近くに怪異(多分)が来るにつれてどんな姿をしているのかが見えてきた。


ボサボサの黒髪に対照的な質の良さそうな洋服。

四十代前半の男性といったところだろうか。

顔色は青白く、雑に包帯の巻かれた頭からは血が流れ出ている。

何より、異様なほどに禍々しい空気感!

これは人間じゃないと本能が告げている。



「あれが怪異、ですか?」


「そうだよ」



水晶さんに質問をすれば、そう返事が返ってくる。

な、成程。

確かにあの禍々しいオーラは人間じゃないよなぁ。


……なんて考えていた刹那。

怪異がまたビームを放った。

すかさず二人は避け、愚兄が霧のようなものの中から大鎌を取り出す。

水晶さんが怪我を治してくれたのと色違いの銀色の霧だ。


え、あの霧すごい。

怪我を治すだけじゃなくて武器もしまえるの?

仕組みが分からないから本当にしまってるのかは分からないけど、某国民的アニメのポケットみたい。



「金剛鎌・金龍」



愚兄はそう呟くと、怪異に向かって大鎌を振り下ろす。

大鎌が技名?のように金色の龍を生み出し、怪異に攻撃をくらわした。

バトルシーン!

少年漫画お約束のカッコイイやつ!

やっぱりここは少年漫画の世界だった!


……なんて興奮してるのは私一人で緊迫した雰囲気が漂ってるんだけどさ。

怪異は攻撃を受けてもあまりダメージを受けていないのかこちらに向かってまた手からビームを放とうとしている。



「奏音、怪異の弱点は分かる?」



そんなタイミングで私は水晶さんに怪異の弱点を聞かれた。

今、今ですか。

タイミングおかしくないですか??

とはいえ、しょうがない。弱点。

ああ、あれか?

頭潰したり首を斬ったら死ぬとかそういうのか。


怪異をじっと観察する。

が、怪異がビームを連発でうってきたので思考を遮られた。

ビームは壁にあたり、じゅぅ……と音をたてて壁が溶けていく。

ビームを放った隙を見て愚兄がもう一度大鎌を振り下ろすがそれも怪異に腕で防がれてしまった。

いや、丈夫すぎるだろ。

どうなってんだその腕。


しかし、咄嗟に腕で防いでいるところをみると弱点が腕でないことは確か。

愚兄は怪異の足元を狙って蹴りを入れ、バランスが崩れた怪異の、胸を、心臓を狙っていた。

何回かの攻撃のなかでも愚兄は心臓ばかり狙っている。

腕や足のほうが狙いやすいだろうにわざわざそこばかり狙うというのは不自然だ。

つまり、怪異の弱点は心臓。


分かった喜びを噛み締めたのも束の間、怪異は身をひねって愚兄に蹴りを入れた。

蹴りの衝撃から愚兄は吹っ飛び、壁に飛ばされる。

その光景に水晶さんが大きく目を見開いた。



「疾風っ、伏せろ!」



ほぼ同時だった。

愚兄は咄嗟に伏せ、水晶さんと私も床に倒れ込むように伏せる。

伏せた瞬間から頭上に感じる熱。

つい昨日、火事で死にそうになった身としては恐怖を感じながらも生ぬるい熱だと思ってしまう。

少し顔をあげて周りを確認する。

……そして、私は絶句した。



「どこ、ここ……」








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